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私が虫の糞を飲むようになったわけ

私は今、お茶を飲んでいます。でもこれは、虫の糞を飲んでいるということでもあります。
でたらめな日本語のようですが、虫秘茶に限ってはそうではありません。虫秘茶とは、虫の糞から淹れたお茶だからです。虫といっても蛾の幼虫(いわゆるイモムシや毛虫)で、サクラやドングリの葉を食べさせた時の糞を使用しています。
美味しいのかと聞かれれば、美味しいと答えます。
なぜそんなものを最初に飲もうと思ったのかと聞かれれば、いつもお話しするエピソードがあります。今回はそのお話をしようと思います。

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私が所属する研究室は化学生態学が専門で、生き物同士の関わり合いについて研究をしています。例えば、植物の昆虫に対する防御メカニズムというように、植物や昆虫をテーマとした研究が多くあります。なので化学生態学研究室には、いつも一定の虫好きがいます。私は違いました。一方で、同部屋の2つ上の先輩は鱗翅目をはじめとした昆虫の愛好家で、よく私の面倒を見てくれていました。その先輩はリンゴとその害虫モモシンクイガ(蛾)の研究をしており、リンゴの防御メカニズムについて調べていました。ある日、先輩が野外実習の帰りに、リンゴ農園の近くに「それ」がいたからと言って、大量のマイマイガをタッパーに詰めて50匹ほど持って帰ってきました。それがお土産だと、私にくれるというのでした。本当にいらないなと思いました。しかし、そのあたりに放すわけにもいかず、困った私はとりあえずということで、近くの桜の葉を毟り、マイマイガたちにあげていました。

件のマイマイガ。今となっては私の推しイモです。困った表情に見えるお顔がCute。

大量のマイマイガを育てているということになりますので、大量の糞が出ます。それを集めて捨ててやるのですが、すごく良い香りがすることに気づきました。サクラの香りがギュッとなったフルーティーな香り。私はひらめきました。これはお茶だと。糞が水に滲んでキレイな赤茶色だったのもヒントだったかもしれません。マイマイガの先輩と給湯室へと急ぎ、集めた糞にお湯を注いでみました。まったくもってお茶のような赤茶色、桜餅のような香り、ワクワクが止まりませんでした。ずずっと飲んでみると確かな旨味が感じられ、期待をはるかに上回る美味しさでした。まさか本当に美味しいとまでは。あの瞬間の高ぶりは今でも思い出せます。多分今後もずっと。

当時撮ったお茶@研究室の湯呑

いきなり大当たりを引き当てたのですが、ほかの葉っぱや虫でも試してみたくなりました。ドングリの葉やリンゴの葉など、次々と試してはすべてが当たりでした。マイマイガの先輩に虫取りに連れていってもらい、虫や植物や何から何まで教えてもらいました。こうして、虫や植物を採ってきては糞を集め、夜な夜なお茶を楽しむというのが日課になっていったのでした。

オオトビモンシャチホコにアラカシを食べさせた時の糞。お茶にすると香ばしい。

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実はこのお茶を見つける少し前から、蛾のイモムシや成虫のことは可愛く見え始めていて、それが今回の出来事でブーストされたということなんです。今では可愛くて可愛くて。何かを新しく好きになるという、貴重な経験をしました(しています)。よく見ると虫も可愛い顔をしていますよ。


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