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「生理の貧困」支援のナプキン配布、広島市で伸び悩んでいます。どうしてなのか、取材しました。

 経済的な理由で生理用品を買えない「生理の貧困」に悩む女性をサポートしようと、全国の自治体でナプキンを無償配布する動きが進んでいます。しかし、広島市では配布が伸び悩んでいるとの声が市内の40代女性から届きました。「制度が利用しにくく、本当に必要な人に届いていない」とのこと。なぜなのか、現場を訪ねました。(栾暁雨)

無償のナプキン、取りに来る人は少なく

 「もっと多くの利用を想定していたのですが…」。NPO法人男女共同参画ひろしまの信政ちえ子代表はつぶやく。広島市の委託を受けて配ろうと用意した生理用品を、取りに来る人が少ないという。

 市は昨年11月から、コロナ禍で収入が減ったり孤立に悩んだりする女性の声を聞く「SOS電話」をスタート。相談を寄せた人で必要な人に、生理用品を配っている。1セットに昼夜用のナプキン計40個が入っていて、購入すると500円近くはしそう。800セットを用意したが、配布は進んでいない。

 ナプキンを要望した人はこれまで10人未満。そもそも相談の電話をかけてくる人自体が少ない。12月が11件、1月18件、2月12件(2月17日時点)だった。悩みを持つ女性が語り合う「相談ひろば」でも生理用品を配るが、参加者は定員8人に対して毎回2人ほどという。

 市内の公立学校やスーパーにも、生理用品を無料提供できることが書かれたPRチラシなどを配っているものの、なかなか利用に結びつかない。信政さんは周知不足に加え、「メールやSNSに慣れた若者にとっては、電話をかけることや対面でナプキンをもらうことに抵抗感があるのかもしれません」と受け止める。

必要な人には届いていない?

 その一方で、生理用品を必要としている人には届いていない。広島市南区の進徳女子高は、生徒たちが「生理の貧困」対策として校内のトイレに置くナプキンを求めた。使用期限切れの災害備蓄用を有効活用したいと市に掛け合ったが断られた。「配るとしてもまずは公立学校から」と言われたという。

 進徳女子高の長谷川紗葵教諭(41)は「コロナ禍で親の収入が減って困っている生徒もいるので、柔軟に対応してほしかった」と残念がる。結局、東京のナプキンメーカーが800袋を無償で譲ってくれた。

進徳女子高のトイレに置かれたナプキン

相談とナプキン配布がセットは「ハードル高い」

 「まず生理用品の配布と相談がセットになっているのが、ハードルが高い」と話すのは広島市内の女子学生(22)。コロナ禍でアルバイトが減って生理用品を買えなかった経験があるが、「SOS電話」の利用には首をかしげた。

 特に気になるのは、毎週水、金、土曜の午前10時~午後4時という相談時間。「学生は授業やバイトで一番忙しい時間帯。働いている人も同じですよね」。この間に電話をかけるのはほぼ無理だと言う。

 しばらく考えてこうも話した。「電話で他人に経済的なことを話すのも気が引けるし、生理用品を取りに行く交通費も時間もかかる。それよりも、大学や公共トイレにナプキンが置いてあると助かるのですが…

 広島市東区で一人暮らしをする女子学生(21)も、コロナ禍でアルバイトが激減。卒業後の奨学金返済も見据えて、節約生活を送る。「生活はカツカツだけど、ナプキンは必需品だから買わざるを得ない。どうにか買えている人は支援を求める資格がないのかなと遠慮しちゃいます」。同じ理由で電話相談をためらう人は多いのではないかと感じている。
 
 しかもテレビや新聞を見ない同年代の中には、「生理の貧困」が問題になっていることを知らない人さえいる。「相談以前に、自分が当事者と気付いてない。そんな子のためにもナプキンがあちこちのトイレにあったらいいのに」と望む。

公共施設に生理用品を置かないのはなぜ?

 確かに。その方が便利そうなのに、市内の公共施設に生理用品が設置されていないのはなぜだろう。広島市の男女共同参画課に尋ねると、「コロナ禍で衛生面の課題や持ち去りの心配がある」とのこと。トイレットペーパーの盗難と同じ懸念が生理用品にもあるという。

 それに加え、今回の事業は国の「地域女性活躍推進交付金」を活用した事業。原則、相談と生理用品の配布がセットの仕組みになっている。広島市は「生活に悩みを抱える人との接点づくりが主目的。配って終わりでは本質的な解決にならない」と説明する。事情を聞き取り、支援機関につなげる―。狙いは分かるが、利用しやすさとの両立は難しそうだ

全国の他の自治体でもナプキンの配布低調

 交付金を出している内閣府によると、2021年度の事業費は全国で13・5億円に上る。ただ、広島市と同じく、生理用品の配布の伸び悩みに直面する自治体は少なくない。島根県や滋賀県でも相談を通じた配布は低調。一方で、困窮者支援の民間団体を介した配布や学校からのニーズは高い。「サポートが必要な人と信頼関係を築いている団体との連携が必要」と滋賀県の担当者は話す。

 内閣府の担当者は「電話以外にも相談を受ける方法はある。自治体間で情報交換し、やり方を工夫してもらいたい。ニーズはあると思うので、周知さえ進めば利用者は増えるはず」と話す。

工夫している自治体も

 中国地方の自治体は「生理の貧困」対策をどうしているのだろう。廿日市市は交付金を申請せず、地元企業などから寄付されたナプキンを学校に配布。市役所の女子トイレにも置き、市役所の窓口では、名前や住所を告げずに受け取れる。

 交付金を使う山口県は、5カ月で相談が約600件、生理用品も800セット近くを配った。フリーペーパーや県の広報紙でPRし、子ども食堂などでも生理用品の配布会をする。担当者は「デリケートな悩みは初対面の人には話しにくい。相談ありきではなく、まずは窓口があることを周知したい」と話す。

 島根県では生理用品7千セットを用意。メールやSNSで相談を受けた人以外に、県立学校や私立高にも配布している。教員からの手渡しで、相談窓口を記載したカードも同封する。

 広島県内のある自治体の担当者は「交付金を使うためのルールに縛られ、電話相談を前提として生理用品を配る方法では、必要な人には届きにくい」と話す。例えば子どもだ。貧困家庭以外にも、生理用品を父親に買ってほしいと言い出せない父子家庭の子や、親の無関心で生理用品を買ってもらえない子がいるという。こうしたケースも「生理の貧困」に含まれる。「相談しないから困ってないわけじゃないし、自分が助けを求めてもいいくらい大変な状況だという認識が薄い人もいます

「置きナプキン」提案 広島大の佐々木宏准教授

 今後の「生理の貧困」支援にはどういった視点が求められるのか。
 「置きナプキン」を提案するのは、若者の貧困問題に詳しい広島大の佐々木宏准教授(福祉社会学)だ。「アクセスしにくい支援より、まずは人目を気にせず誰でも使えるようにすることが大切」と指摘する。「トイレットペーパーのようにトイレに当たり前にある環境を整えることで『実は困っていた』とか『ナプキンが買えないなんて言えない』という人に届きやすくなる」とみる。

 なるほど、困っている当事者に確実に届けるには、誰でも手に入れられる状況が必要なようだ。あえてターゲットを絞らないことで間口が広がり、利用しやすい空気になるのかもしれない。「生理の貧困」支援が一過性のブームで終わらないためにも、手を挙げた人にしか支援が行き届かない「申請主義」ではなく、女性が行政を頼りやすい仕組みが必要だと感じた。             

つながりサポート女子@ひろしま
 NPO法人男女共同参画ひろしまでは匿名でも相談を受け付け、住所を伝えた人には無料で郵送もする。「SOS電話」はフリーダイヤル(0120)083320。

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