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海や川での水難事故を防ぐ!ライフジャケットの効用、聞きました。

 広島県内の海や川で水難事故が相次ぎ、子どもが亡くなる事故が目立っています。水難事故防止の出前授業などに取り組む市民団体「ボウサイズ」(福山市)の大原さとる代表(31)は、ライフジャケットをもっと活用するよう呼び掛けています。「浮いて待つ」ための「2%の法則」など、水辺で命を守るための方策について聞きました。(原未緒)

ボウサイズ大原さんに聞く

大原さんは、福山地区消防組合の救急救命士でもあります。万が一、海や川で流されたとき、どう対処すればいいのでしょう。

 まず、水辺に行く際は、ライフジャケットを着用してほしいんです。必ず命が助かるわけではありませんが、救命率は確実に上がります。僕自身、川でラフティングをしている時に流れに飲み込まれ、怖い思いをしたことがあります。ライフジャケットがなかったら死んでいたかもしれません。自分を過信しないことが大切です。

 水に落ちたり流されたりした場合は「浮いて救助を待つ」ことが大切です。肺に空気が入った状態の人間の体は、真水では平均で体の2%が浮くとされています。海水ではもう少しパーセンテージが上がりますが、それでもわずかです。あおむけに浮き、浮くはずの2%の部分が鼻や口となるような姿勢を取り、救助を待つのが理想的です。

 助けを呼ぶのに手を振ったり大声で叫んだりすると、手の部分が水面に出て頭が沈んでしまい、余計苦しくなるんです。
 あわてて服や靴を脱ごうとすると、そちらに体力をとられてしまいます。脱がずに靴や服の浮力を活用し、浮いてください。かかと付きでつま先が覆われているタイプのサンダルは浮きやすく、お薦めです。

浮いて待つには訓練が要りそうですね。

 小学校に出前授業に行くと、ライフジャケットを使っても水に浮くことに恐怖心を抱く子や、うまく浮けない子が毎年います。波や流れがない場所で浮いて待つ練習をし、水に慣れることから始めてもらえたらと思います。

溺れている人を見つけたときの対応は。

 溺れた人はパニック状態。ライフジャケットなしに助けにいき、巻き添えで亡くなるケースが後を絶ちません。「浮いて待て」と呼びかけ、子どもだけの場合は周りの大人を呼び、消防、海上保安庁に救助要請をしましょう。浮輪やペットボトルを投げ入れ、浮いて待つサポートをしてほしい。

新型コロナウイルスの感染が広がった2020年以降、多くの学校で水泳の授業が中止になりました。取材した保護者からは、子どもの泳力の低下を心配する声を聞きます。影響をどう見ますか。

 過去2年は小学校の水泳の授業が中止になった学校が多く、影響を心配する教職員からの声も聞きます。ただ、出前授業で見た限りは、子どもたちの「浮く」力にはそれほど影響がないように感じます。クロールや平泳ぎなど、技術的な部分は、これから影響が出てくるかもしれませんね。

 今年、水泳の授業が中止になった学校から依頼があり、座学の出前授業をしました。学ばなければ、いざというときに動くことはできません。コロナ禍で授業に制約があったとしても、命を守る方法を知ってもらいたいです。

団体として今後どのように啓発を進めていきますか。

 2019年度に福山市の小学校1校で、着衣泳の出前授業を始めました。非番の日に学校に出向いて年々対象校を増やし、今年は10校で事故防止やライフジャケットの着用を呼びかける授業に取り組んでいます。今後も出前授業を増やし、楽しみながら命を守る方法を身につけてもらえたらと思っています。

 今年は若者を巻き込む活動も始めました。福山市の福山大学で学生向けに活動を紹介する講演をしたら、学生1人が小学校への出前授業に参加してくれました。穴吹ビジネス専門学校の学生もライフジャケット着用を促すポスターを作ってくれて、福山市内の学校や店舗に掲示する予定です。学生たちに、ライフジャケット着用の重要性をあらためて認識してもらえたのではないかと思っています。

穴吹ビジネス専門学校の学生がライフジャケット着用を促すポスターを作成

 2021年度は、ライフジャケット32着を福山市教委に寄贈しました。ゆくゆくは企業などから寄付を募り、ライフジャケットを貸し出しできるシステムを作りたいです。

ライフジャケットはスポーツ店や釣具店で見かけますね。

 価格帯はインターネットで千円台のものから、7千、8千円台とさまざまです。福山市内の学校の授業では3~6千円台のものを使っています。小型船舶に乗る場合は国の安全基準をクリアした「桜マーク」付きのライフジャケットの着用が義務づけられています。水辺で遊ぶなら、購入を勧めます。
                       (インタビュー終わり)

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増える水難事故 コロナ禍の行動制限緩和も一因?

 広島県内で今年7月末までに水難事故に遭った人の数は23人で、昨年1年間の19人を既に上回っている。今年は中学生以下の子どもは4人と前年の2倍。死者は10人で、うち3人が中学生以下の子どもだった。友人と川で遊んでいて流されたり、川に流されたサンダルを取りに入ったりして事故に遭った。広島市安佐北区では、10代の高校生も友人と川で遊んだときに亡くなっている。

 研究者や消防士でつくる一般社団法人水難学会(新潟)のまとめでは、中学生以下の子どもが死亡や心肺停止状態になった水難事故は今年4~6月末時点で13件。前年の同じ時期(4件)と比べると3倍以上に上る。水難学会は、コロナ禍による行動制限が緩和されたことで、子ども同士で外出しやすくなったことが一因とみる。

全国各地の取り組みは

 水辺の事故防止には、全国各地で自治体や団体が知恵を絞っている。香川県では、水泳の授業や行事で活用してもらおうと、ライフジャケットを無料で貸し出す「ライフジャケットレンタルステーション」を設けている。香川県教委は企業などから寄贈を受け、子ども用を中心に240着を貸し出す。県教委保健体育課は「企業や民間団体の協力で実現した。県内ではため池での死亡事故も起きている。命を守る教育に活用したい」とする。




 一般社団法人水難学会は、ライフジャケットを着けて救助を待つ「シン・ういてまて」を提唱。ライフジャケットの着用法や複数人で流された際、はぐれないように輪のようになって浮く方法などを学ぶ出前授業を全国の学校で実施している。


 斎藤秀俊会長(59)は、ライフジャケットは災害時も活躍すると強調する。「西日本豪雨では浸水被害で逃げ遅れた人が亡くなった。ライフジャケットを着て浮いて待っていれば助かる命があったかもしれない。水辺の事故防止と合わせ、今後は防災のためにも各家庭にライフジャケットを用意してほしい」と力を込める。