編集者、そしてプレーヤーとして、地域の学び・実践のサイクルを~「みんなでつくる中国山地」つくり手インタビュー Vol.5
みんなでつくる中国山地編集メンバーの重原です。
今回は、2020年から100年間の刊行を目指し、9月に第2号を発行予定の年刊誌「みんなでつくる中国山地」の編集長、福田衆一さん(松江市在住)のインタビューをお届けします。
福田さんの本業は、松江市内にある地域出版社の編集者。地域の歴史や文化などを題材にした本を数多く手がけています。印刷の仕事がメインの会社ですが、15年ほど前に出版事業を拡大することになり、福田さんも編集の仕事に携わるようになりました。
「みんなでつくる中国山地」の発起人の一人、ローカルジャーナリストの田中輝美さんから、雑誌を作りたいので編集者として力を貸してほしいと声が掛かったのがきっかけで、2019年12月に発行した創刊準備号(狼煙号)から、編集者として関わっています。
「輝美さんから、中国山地から過疎が終わるという話があって。それまでの僕の理解は、中国山地は過疎の先進地で、その課題を解決する取り組みが最初に始まったということでした。そしたらいきなり過疎が終わるとか、終わりそうとか言ってきたもんだから、面食らったんですよ」
「さらに話を聞いてみると、発起人の藤山浩先生(持続可能な地域社会総合研究所所長)の研究で、過疎が終わることがデータから明らかになりそうだという説明があって。あぁなるほど、もうそういうフェーズに入ってきているんだと認識を改めたんです。過疎を何とかするために取り組みをする段階ではなく、過疎が終わるから次を見据えた動きをしないといけないんだという認識にちょっと変わりました」
こうして生まれた狼煙号のキャッチコピーが「過疎は終わった!」。「過疎」という言葉が生まれた中国山地で、過疎が終わった、というフレーズを大胆に掲げました。
編集者+地域のプレーヤーとして
福田さんは、本作りのプロだけでなく、地域の「プレーヤー」としての顔も持っています。大学進学で一度は離れた地元・松江市に戻り、自治会、消防団から子ども会、PTAなど、地域にある組織のうち「老人会以外は全部やったんじゃないかな」と言うほど、さまざまな経験を重ねてきました。福田さんの住む地域は日本海と宍道湖に囲まれた島根半島に位置し、人口減少に悩んでいるといいます。みんなでつくる中国山地の活動を通じて得た知見を、地域にフィードバックしたいという思いも持っています。
福田さんが参考にしているのが、年刊誌「みんなでつくる中国山地」の企画「いまつくられている中国山地」。中国山地に暮らす「ローカルジャーナリスト」による、地域の奮闘ぶりを地元目線で伝える記事を集めたコーナーです。
「面白いし、知らないことだらけで、とっても参考になります。真似できることがあれば真似したり、話を聞いたりしたいなと思いますね。継続的にうまくいくかはわからなくても、やり始めることに価値があると、そういうことを知ることができたのはありがたいです」
地域の恵みを知り、価値を高める
福田さんの地域では以前、自分たちの地域の資源を洗い出す公民館主催のワークショップが行われ、魅力や課題を整理しました。その成果を踏まえて、地域の有志が集まり、宍道湖のシジミ漁を地域内外の人に体験してもらったり、日本海で“ウニ退治”をしたりと、ユニークなイベントも行ってきました。
あの、高級食材のウニを退治する?!実は、ウニが増えすぎると海藻を食べつくし、サザエやアワビがいなくなってしまうのです。ウニ退治は、増えすぎてやっかいものとなったウニを駆除するついでに食べようというイベントで、地域住民や大学生らも参加して山ほどのウニを捕り、食べたり持ち帰ったりしました。今は新型コロナの影響で休止していますが、継続的に取り組みたいと考えています。
イベントの企画に当たって福田さんが意識したことは、単発で終わらせないこと、地域の人が地域の魅力を理解すること、そして、課題の解決に向けて、いろいろなことに取り組める雰囲気を醸成すること。「この地域の恵みをたくさんの人に知ってもらうことで、より価値が上がることを体感してほしい」という願いを込めました。
地域のプレーヤーとして
「二度と帰ってくるもんか」と思いながら、大学進学でいったんは地元を離れた福田さん。離れてみると、意外な気付きがありました。
「地元って案外いいかな、とちょっと思いました。地元に残った友達がいて、彼らが楽しそうに見えたんです。自然にまみれて遊んで育っているから、そういう楽しみを満喫している友達がうらやましかった。特に何をしようと思わず、仕事とは関係なく地元に戻って、1年間は家業を手伝って宍道湖で魚をとって、ご縁があって今の会社に入りました」
地元に戻ると、友人たちが地域活動をしていたことから、次第に巻き込まれていきました。そのうちに自分自身も興味を持つようになり、「魅力があって楽しい地域なのになぜ地域から人が出ていくのか」「今後もみんなで楽しく住み続けるにはどうしたらいいか」を考えるように。地域の人たちから「何かやってよ」と頼まれると、「分かりました!」と仲間に声を掛ける。「頼まれてできることがあれば喜んでやる」のが福田さん流です。
地域の「風土」を楽しむ
そんな福田さんが感じる、地域で暮らす楽しさとは?
「気の置けない仲間がそばにいるのは大きかった。めんどくさいことは正直あるんだけど、気にしてたらやってらんないよねっていう仲間がいて。
魚や農産物が手に入ると、すぐ、食べようぜってなるんですよ。だいたいどこの家にもバーベキューセットが常備してあって。焼いちゃう?みたいなことが起きる。そういうことが楽しい。
20歳も30歳も年上で、かわいがって下さる人もいて。後輩も増えて、世代を問わず一緒にいろいろなことができるのは楽しい。大変な伝統行事もあったりして。食べ物とか行事を含めた風土を楽しむことが一番楽しいかもしれない」
第2号のテーマは「暮らし」
さて、本業の本作りの話に戻りましょう。9月の発行に向けて、編集作業が佳境に入っている「みんなでつくる中国山地」第2号。テーマは「暮らし」です。
「僕はけっこう暮らしそのものが分かってなくて・・・。自分が暮らして楽しいっていうのはあるんだけど、人は違うじゃないですか。暮らし方って人それぞれで、究極のプライベートみたいなところがあるので、それを提示するのは無理だろうと思っていたんだけど、いろいろな人たちのおかげでなんとなくまとまってきたところです」
「今回伝えようとしているのは、中国山地で行われてきた暮らしは確かなものだったということ。岡山県でパーマカルチャーを実践するカイルさんのルポや、島根県奥出雲町のたたら製鉄で栄えた集落のあり方、若者世代の『そうは言っても食べていくにはどうするのか』という率直な疑問を含めて、提言ができないかというような特集のあり方を考えています」
身近であるが故に、つかみどころのない「暮らし」をテーマに掲げ、挑戦を続ける「みんなでつくる中国山地」!私も少しだけ編集会議に参加していますが、メンバーが活発に意見を出し合い、よりよいものをつくるために議論を重ねていく姿勢は、名実ともに「みんなでつくる」だと強く感じます。福田さんが「編集長って肩書きはいらないんじゃないかと最近思っている」と言うほどに、「みんなでつくる」編集会議になっています。それは、編集長の、徹底してみんなの意見を「聞く」姿勢があればこそです。
「何を伝えればいいかわからない、助けて、意見聴かせて、ってずーっと言い続けてたんです。僕が腑に落ちてなかっただけなのかもしれないけど、ようやくこういうことを伝えればいいんだということが、皆さんのアイデアや知見を組み合わせて出てきた感じです。
中国山地の暮らしに価値があるんだということをどう伝えるのか・・・。今回、これから取材とか検証がはいるので、どんなものができてくるのか分からないけど、いい感じのものができてくるんじゃないかな。いい原稿が上がってくるんじゃないかなという気はしています」
本の役割とは、サイクルをつくること
中国山地に暮らす人や思いを寄せる人がつながり合う会員組織「みんなでつくる中国山地百年会議」は、年刊誌「みんなでつくる中国山地」の発行をはじめ、学び合いの場である「市」や「座」の運営、情報を共有するデータベース(絵図)の構築を活動の柱としています。会員が学び合い、地域で実践するサイクルの一端を担うことが、本の役割だと福田さんは考えています。
「それぞれの会員が考えていること、やっていることが百年会議に集まってきて、そこから新たな知見が生まれるサイクルができると一番いいなと思います。
本は知見を整理して発信する役割にしかすぎないと思っていて。そこから地域のプレーヤーやプランナーがいい情報を得て活動する、その活動が集まってきて本になるというサイクルであるべきだと思っているんです。ウェブやデータベースも併用して、本がそのサイクルの一部分を担えればいいかなと思っています。僕はプレーヤーにもならないといけないし、本も作らないといけない、ということなんですよ」
9月の発刊が待ち遠しい・・・!と言いつつ、私自身も絶賛執筆作業中で、産みの苦しみを味わっております。執筆に弾みをつけるためにも(?)、編集長から、2号のPRをお願いします!
「自分の暮らしを今一度見直しましょう、そのために必要な情報は載っていて、絶対に何かはつかめるはず。これが2号の一番の推しポイントですね。かる~く何か始めようとか、暮らしについてこんな一歩を踏み出してみようとか、最初の一歩だけど、見据えているものは確かにあって。ここへ行きつくまでの最初の一歩は人それぞれの方法があると思うんだけど、未来はここにあって、そこへ向かうやり方はそれぞれでいいんだよ、という気付きを教えてくれる本にしたいと思っています」
第2号の完成を楽しみに、このnoteも楽しく読んでいただけると嬉しいです。次回は福田さんの紹介で、事務局の肥後淳平さんにお話を聞く予定です。
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