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[Special Topic]2021年の対コロナ戦略を考える

(初出:J-IDEO Vol.4 No.6 2020年11月 刊行)

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[収録]2020年10月2日

岩田 今回のSpecial Topicでは前もって5つのアジェンダを設けましたが,これに限らず大事な話題はどんどん論じていただければと思います.

今後の診断戦略はどうあるべきか

岩田 まずは今後の診断戦略についてですが,検査も含めた診断ということでお話しください.検査としては現在,PCR検査,定量・定性抗原検査,それから抗体検査も戦略に組み込む提案がいくつかの論文でされています.例えば無症状者のスクリーニングの際はどの検査を行うか,というようにそれぞれをどういった対象と目的に使うのかがポイントになります.これまで日本の方針としては有症状者に対して検査を行うことになっていましたが,有症者検査の適応も,4日間の発熱などの規定,典型的な主訴や身体所見を認める場合,あるいは診療医師の判断に任せてしまうということも可能だと思います.今後はインフルエンザとの絡みも出てくると思いますので,こういったことをすべて含めた診療戦略として,例えばアルゴリズムのようなものでもよいですし,ご自身が診療する際の原則・原理でもよいですし,逆にこういったことはよくないという間違ったやり方の指摘でも構いません.いかがでしょうか.
岸田 我々感染症医の間での認識にはさほど個人差はないように思いますが,やはり何でもかんでもとにかく検査すればよいという考え方は私にもなく,重症化リスクの高い人およびその周囲の人を積極的に検査し,スクリーニングなどの目的では行うべきではないと思っています.夏のあいだ致死率はやや下がりましたし,今後このまま感染が続いていけば変わってくるとは思いますが,現状はやはり重症化率の高い感染症であることに変わりがないと思いますので,基本的な原則として重症化リスクの高い人への対処を第一に,ということは外せないと思います.日本は相変わらず検査体制が整っていないといいますか,札幌でも発熱外来などもあるとはいえ,すべての人に検査を行うのはキャパオーバーになってしまいます.なぜ日本はいつもこうなってしまうのか不思議なのですが,検査の種類も検体の採取方法もかなり増えてしまい,様々な組み合わせが考えられる状況ですのでどう提示するのか難しい状況です.今後の検査体制の主流は定量抗原検査になっていくのでしょうか.どれに絞られていくのかは拡充度合いに依存すると思われ,あと半年くらいは混沌とした状況が続くのではないかと思います.
岩田 ありがとうございます.黒田先生の病院ではルミパルス®を導入すると伺いましたが.
黒田 はい,来週から(2020年10月5日から)導入します.当院では,2020年3月から診断目的でRT-PCR検査を行っておりましたが,術前スクリーニング検査(2020年5月下旬から)と入院患者全員のスクリーニング検査(2020年7月下旬から)を開始することでPCR検査件数が増加し,臨床検査室の負担が大きくなりました.そのため,負荷軽減目的とさらに迅速な結果を求める声があったため,スクリーニング検査には抗原定量検査(ルミパルス®)を導入することになりました(神戸市の流行状況でスクリーニング検査が本当に必要かどうかはまた別の話……).
 新型コロナウイルス検査について,まず誰を対象にするかというのは,現状どおり有症状者と無症状の濃厚接触者でよいと考えています.有症状者の定義については,その地域でCOVID-19が流行している場合,発熱4日間ではなく,日数にかかわらず発熱,呼吸器・気道症状,味覚や嗅覚の異常のうちのいずれかがあれば検査をするのが妥当と思います.
 今後インフルエンザのシーズンが始まります(今年のオーストラリアのように流行しない可能性もありますが)が,その場合の検査戦略が問題となると思います.感染症学会の提言【1】ではどちらも検査推奨となっていますが,それが現実的な対応かどうか疑問に思っています.というのも,厚労省の新型コロナウイルス感染症対策本部の会議資料【2】によると,発熱患者は,まず地域のかかりつけ医に直接相談をして,その診療所が診療・検査可能であれば,その診療所で対応し,対応不可能であれば,別の対応可能な医療機関を紹介する,というフローが採用されるようです.主に開業医の先生が,診察・検査まで行う,という内容に読み取れるのですが,設備の少ない診療所で,検体を採取する場所と,抗原定性検査を行う場合は検体を処理する場所が必要であり,どれだけ安全に検査を行えるのかはまだよくわからないと思います.いろいろハードルがあるので,かかりつけ医ではなく大病院に集中するおそれが,地域によってはあると考えています.ですから学会の提言や厚労省の方針は現実とかみ合わない可能性があります.私個人の案ですが,診療所の選択肢は2つ[表1]あると考えています.各診療所の設備や個人防護具の確保・SARS-CoV-2抗原定性検査キットの確保状況で,それぞれの医療機関に合った方法を考えていく必要があると思います.

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