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救急医の視点(5)

救急医の視点(5)
[第5章]ARDS acute respiratory
distress syndrome マネジメント
田北無門 Mumon Takita
聖マリアンナ医科大学病院救命救急センター
北野夕佳 Yuka Kitano
聖マリアンナ医科大学
横浜市西部病院救命救急センター

救急科領域のクリティカルな疾患・症候について,基本事項をコンパクトにわかりやすくお伝えします!


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Take Home Message

ARDS診療で最も大切なことは,原疾患の治療です.
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序 章

 あなたは都心部の救急外来の当直医です.呼吸困難を訴える50歳代男性の救急車を受け入れました.初期対応をしていた研修医AがX線写真をもって勢いよくあなたのもとにかけよってきます.

研修医A 「先生,ARDSです!! 見てください,両側びまん性の肺浸潤影を呈しています.酸素10 L投与してもSpO2が上がってきません.挿管しますよね? ARDSってLow Tidal High PEEP管理が基本ですよね? 筋弛緩薬も使いますよね? ステロイドも使いますか? 腹臥位もしますか? ECMOの準備もお願いしますか?」

 研修医のなかでも飛び抜けて優秀な研修医Aは,矢継ぎ早に,ARDS管理の提案をしてきます.各科の医師・クリニカルエンジニアが院内当直をしており,院内リソースとしては豊富な状況です.

あなた 「わかった,わかった.まず挿管をして呼吸を落ち着かせよう.それから,一緒にARDSの管理を調べてみよう」

 挿管の適応を満たしていたので,挿管し人工呼吸器管理を開始しました〔挿管の適応・挿管の方法は,第2章「挿管」(2019年6月号,p.268)を参照してください〕.
 挿管後は酸素化も改善傾向にあったので,少し現場を離れARDS管理についてウェブ検索をしながら研修医Aとディスカッションを開始しました.
 あなたが「筋弛緩薬を使用すべきだ」,と言うと,研修医Aは「筋弛緩薬は使用すべきでない」という別の論文をもってきて反論してきます.あなたが「ステロイドの使用はやめよう」と言うと,研修医Aは「ステロイドを使用すべきだ」という別の論文をもってきて反論してきます.
 議論は収拾がつかず,あっという間に1時間が経過してしまいました.日常診療の疑問について研修医と指導医が論文ベースでのディスカッションを夜間でも行える,まさに教育病院の鑑といえる病院でしょう.その時,勢いよくカンファレンス室の扉があき,ICU当直医が入ってきます.

ICU当直医 「話の最中にごめん!! あの挿管してる人って,心エコーあてた?? あと,抗菌薬ってもう投与したんだよね!? それから呼吸器設定なんだけど,一回換気量が800 mLも入ってるけど何かあったの?」


●今回の流れ

1.「ARDS」と言う前にやらなければならないこと
2.ARDSと対峙したときの二本柱(原疾患の治療と対症療法)
3.治療の実際(われわれの施設ではこうしています)

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