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救急画像ただいま読影中!(2)

救急画像ただいま読影中!(2)
[第2回]急性大動脈解離 ~単純CTも超重要~
和田 武 Takeshi Wada
千葉大学医学部附属病院放射線科
坂本 壮 So Sakamoto
国保旭中央病院救急救命科

救急外来でしばしば困るコモンな疾患の画像診断に関し,放射線科医と救急医双方の目線から,深く・詳しく実践的スキルをお伝えします!


One Point Advice

救急医の立場から
・発症様式に注目し,大動脈解離を見逃さないようにしよう!
・検査前確率をきちんと評価し,適切な検査をオーダーしよう!

放射線科医の立場から
・単純CTこそ大動脈を見る癖を付けよう!
・単純CTでの「やばい」所見を見逃さないようにしよう!


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症 例

54歳,男性.来院当日,ゴルフ中に卒倒し救急要請.救急隊到着時,左上肢の麻痺を認め,呂律も回っていなかったため,脳卒中の疑いで当院へ搬送された.発症から35分程度で病着.
意識JCS2,血圧 128/74 mmHg,脈拍 88回/分,呼吸 24回/分,SpO2 97%(room air),体温 36.2℃,瞳孔径 2.5/2.5,対光反射+/+.
本人はややぼーっとしており,左上肢には力が入らない様子.

JCOSMO0220G-挿絵

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救急医 54歳,男性,脳卒中の疑いの患者さんだね.何を考えどのように対応するかな?
研修医 脳卒中の可能性が高いと思うので,“Time is brain!”ってことで,すぐに頭部CTです.
救急医 本当にすぐにCT撮影すべきかな?
研修医 あ,意識障害を認めているので,まずは血糖値の確認ですね.低血糖でなければすぐにCTです.
救急医 本当に? 低血糖も鑑別にあげることはよいと思うけど,ほかに気にならない? バイタルサインに違和感はないかな?
研修医 脳卒中にしては血圧が高くないのは気にはなります.
救急医 すばらしい! そこが重要です.麻痺や構音障害など,脳卒中らしい症候を認めても,血圧が正常ないし低いというのは違和感があるよね.脳卒中によって頭蓋内圧が上昇していれば,体血圧を上昇させて脳血流を維持しようとするのが生理的な反応だからね.
研修医 となると,脳卒中らしい症状を起こし得るほかの疾患を考えるべきということですね.
救急医 その通り.stroke mimicsなんていうけど,低血糖以外に知っているかな?
研修医 痙攣,あとは……あ,大動脈解離!
救急医 そうだね.脳卒中診療は迅速な対応が必要だけど,それと同時に否定しておくべき疾患がいくつかあることを常に意識しておくことが必要だ.特に解離は要注意だね.ってことで,今回は大動脈解離に関して読影のポイントを整理しておこう.
研修医 確かに,脳卒中で血栓溶解療法の症例では胸部CTを撮影することもしばしばありますもんね.でも,大動脈解離は造影CTで診断するものではないのでしょうか?
救急医 いい質問だね.そこも今回のポイントだから,一緒に整理していこう.

大動脈解離の疫学【1】

 大動脈解離の正確な発症頻度は不明ですが,地域調査では10万人あたりの年間発症率は3人前後と推定されています.大動脈解離発症のピークは男女ともに70歳代で高齢者が多くを占めていますが,先天性疾患に併発したものは若年にも生じることがあり注意が必要です.

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