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國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.11

國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.11
國松 淳和 くにまつ じゅんわ
医療法人社団永生会南多摩病院
総合内科・膠原病内科 医長


 今回は2020年5月号です。

 今月の内科学会雑誌の特集は、「腎炎診療UP TO DATE」です。
 私、正直腎臓内科領域というのは、何年経っても全然自分の臨床を変えないなあと思ってきたので、また(?)通読したふり(?)をしてさっさと「今月の症例」を読んで「どこ引き」に移ろうかなあと思っていました。

 でも、

 やっぱだめなんですよねそれじゃ。

 「総合内科」って言葉がなぜか最近蔓延っていますけど、内科っていうのは、その中に「内科全般、総合的に診る」という概念が包含されているんですよ。
 つまり内科というものの中に、総合的に診ることが含まれているんですね。
 総合的にみないと内科医じゃないんです。わざわざ「総合内科」なんて言わなくていいんです本当は。

 内科の中で各専門領域がありますね。
 当然あっていいです。
 普段の診療は、その専門に基づいていいでしょう。
 でも、その〇〇内科専門医の先生だって、その先生の「構成成分」は、「内科全般に精通している」という基礎で骨組みされていないといけないんですよね本当は。

 本当は。

 ......というわけで、慌てて予定を変えて、今月の特集を読んでみることにしました。しばらくお待ちください。


 (通読中)


 お待たせしました。
 まとめます。

 糸球体の毛細血管は、内皮細胞、基底膜、上皮細胞(ポドサイト)からなり、それを束ねる位置にメサンギウム細胞があります。
 腎炎・ネフローゼ症候群では、これらのどこがメインにやられているかを考えると良いです。
 例えば、(特発性/一次性)膜性腎症の7割にみられるというPLA2R抗体は、基底膜の外側、つまり上皮下でポドサイトの膜上に発現するPLA2R蛋白に結合して基底膜に免疫複合体が作られます。
 ポドサイト自体の異常では、微小変化群や巣状分節性糸球体硬化症(いわゆるFSGS)となります。
 基底膜の障害ではAlport症候群、
 内皮障害では血栓性微小血管症、

 ......と、まあ結局は解剖、病理が重要になりますよね。
 他にも腎臓は、電解質や各種ホルモン、代謝、循環、などに大いに関わり生理学的なダイナミズムもあり、どうりでこの分野に惹きつけられるわけだと思います。

 治療では、とにかくリツキシマブの台頭です。
 急速進行性糸球体腎炎の治療では、C5a受容体阻害薬が紹介されていました。活性化好中球の制御をターゲットにした、経口選択的C5a受容体阻害薬avacopanという薬だそうですが、なんとステロイドと対決する試験が盛んにされているとのことです。

 あとはIgA腎症の「扁摘+パルス」のレビューがされていて、感心しました(何。


 さて「今月の症例」については今月号も3例ありました。1例ずつ見て参ります。
 お待ちかね、今月の「どこ引き」です!

 あ、

 ちなみに「どこ引き」というのは、「今月の症例、どこに線を引きましたか?」の略で、本連載note「何読み」の中の名物コーナーになっております(自称)。

 「どこ引き」は、(私の場合)青とピンクの2色の蛍光ペンで、

青:この症例に関する重要点・私が重要と思ったところ
ピンク:この症例とは直接関係ないけれど、一般論として重要な点・別の症例などに役立ちそうなところ

で塗り分けるのでした。

 まず1例目です。


■p951 ST合剤による薬剤性過敏症症候群(DIHS)の経過中にサイトメガロウイルス食道炎を合併し不幸な転帰をたどった1例


 はい、いつものように最初にタイトルをみます。

 まず「サイトメガロウイルス食道炎」というのは、普通は免疫不全状態で起きる病態です。
 一方、DIHSというのは免疫の過剰応答自体が主病態なので、免疫正常者に起きるものとして考えることが感覚的には多いです。
ST合剤はDIHSのコモンな原因薬剤です。
 ということで、このレポートは「免疫不全者に起きた変わった症例」という予想が立ちます。

 症例はやはり免疫不全者でした。骨髄腫の患者さんで、その治療中でした。
 PCP予防でST合剤が開始され、27日後に熱と皮疹を発症。薬剤中止でも改善せず結局プレドニゾロン30 mg/日の投与に踏み切ったようです。
 開始直後の検査でHHV-6のウイルス量が増加しており、DIHSと確定されています。
 経過は、それでも悪化しステロイド増量、あるいはパルスをするも効かず、やがてサイトメガロウイルスの再活性化を招き、食道炎の精査でサイトメガロウイルスの関与が示されガンシクロビルを投与します。
 DIHSはなんとか制圧するも、転帰は低栄養と易感染性から死亡となります。実質腫瘍死でしょうか。

 今回、視点として私が個人的に思い直したのは、DIHSにもおそらく2つタイプがあって、(A)免疫正常者で薬剤自体の過敏反応が優勢(ウイルス活性化の要素は劣勢)のタイプと、(B)免疫不全者でHHV-6活性化の要素が優勢(薬剤への過敏反応の要素は劣勢)のタイプがあるのだなあということでした。

 本例は(B)タイプのDIHSということになると思います。おそらく(B)のほうが予後は悪いのでしょう。
 マネジメントは、「(HHV-6以外の)他のウイルス活性化」を含む他の日和見感染症の認識・対処、になると思います。
 DIHSといえば「広義の薬疹」だ、とだけ認識してしまっていると、(B)タイプでは介入が遅れてしまうのかもしれません。
 免疫不全者にDIHS様病態を見たらとにかく急ぐ。
 HHV-6であれ、ウイルスの再活性化を許してしまっている宿主であるという認識を先行すべきだということです。

 この患者さん、骨髄腫の診断時、

 IgG 413 mg/dL
 IgA 38 mg/dL
 IgM 8 mg/dL
 遊離L鎖κ型 22.0 mg/dL、λ型 70,300 mg/dL

 で、κ:λ その比は0.0003!
 腎不全も完成しており、これ、普通にかなり著しい免疫不全ですよね......
 恐ろしい病気です骨髄腫。

 症例タイトルの「サイトメガロウイルス食道炎を合併し」の部分が、あんまり重要じゃないなって思いました。


 ......1例目は、以上です!
 暗く微妙な雰囲気のまま2例目に参ります。


■p960, 同種骨髄移植によって骨髄異形成症候群に伴う二次性肺胞蛋白症が軽快した1例


 まずこの論文は、イントロで「肺胞蛋白症」についてミニミニレビューがなされています。
 いつも言っていますがこれが非常に助かる......

 短い、日本語、ちゃんと引用文献あり。

 この3点セットが揃っていることのありがたみ。
 めちゃ短時間で「知ったか(ぶり)」ができてしまうのです。
 私なんぞが、このあと「肺胞蛋白症と骨髄異形成症候群(MDS)」の関連についてドヤ顔で言えてしまうんです。

 ......。

 肺胞蛋白症は、先天性・自己免疫性・二次性の3つに大きく分類されます。
 先天性は、GM-CSF受容体やサーファクタントに関わる遺伝子の変異。
 自己免疫性はGM-CSFに対する自己抗体の産生。
 二次性の原因は、血液悪性腫瘍や呼吸器感染症などがあり、中でもMDSの頻度が最も高く65%。

 つまり、これを知ってからタイトルを読み直すと、

 「同種骨髄移植によって(骨髄異形成症候群に伴う二次性肺胞蛋白症が)軽快した1例」

 この( )内は「よく知られたこと」となります。
 ということは!
 ( )以外の「同種骨髄移植によって軽快した」の部分が、この症例で見せたいポイントであるはずです!!


 本文を読んでびっくりしたのは、「肺胞蛋白症合併例の移植は、時に移植後早期の低酸素血症の増悪が問題になる」の部分でした。これを背景として知っておくと面白い症例でした。
 というのも、この症例でも実際起こっているんです。
 これは、造血細胞生着に伴う高サイトカイン血症が関与して、肺胞蛋白症が増悪したというアセスメントでした。移植、怖い!

 筆者らはこれを、本来は自己免疫性肺胞蛋白症の治療である「全肺洗浄」を行なって乗り切ります。
 こうして移植後の肺胞蛋白症をも乗り切り、あら不思議。移植でMDSも肺胞蛋白症も治っちゃった。

 という症例でした!
 MDSの肺胞蛋白症では移植後の低酸素も全肺洗浄で乗り切れる、という経験がこうして示されました。これは臨床にインパクトがあるのではないでしょうか。

 非常にグレートな症例をありがとうございます。
 2例目は以上です。


■p968, 胆管炎との鑑別が困難であった家族性地中海熱(FMF)非典型例の1例


 さて「どこ引き」最後の3例目です。

 この症例は、その〜、あの〜、

 私ですね、

 これ(https://www.kinpodo-pub.co.jp/book/1753-5/ )とか、
 これ(https://doi.org/10.2177/jsci.39.130)とか、

 はい。そうなんですよ(何。

 ということで、このケースは、解説するんじゃなくてぜひ皆さんで読んでいただきたいです。
 内科学会雑誌は、1年経つとアーカイブされて誰でも無料でpdfで読めます(https://www.jstage.jst.go.jp/browse/naika/-char/ja)。


 でもそれだけだとアレですからこうします。
 実はこの論文に、私「レター」を送ってみたんです。
 「何読み」の2019年11月号にも内科学会雑誌のレターの話が出てきましたよね?

 ついに自分で実際に送ってみました。
 残念ながら「まだノーリアクション」です。
 今回はそれをここに公開します。

日本内科学会雑誌 編集長様

 日本内科学会雑誌第109巻第5号(2020年5月号)、今月の症例(p968-973)に掲載の、乾らの論文を興味深く拝読しました。
 この症例における臨床診断過程についてコメントを申し上げたいと思います。
 著者らの述べる通り、家族性地中海熱(以下FMF)の診断は、臨床診断が重要であります。このケースでもLivnehら(文献1)の論文を引用してFMFの非典型例と診断しており、その非典型性は記述の通りと考えますが、発熱発作を反復していません。
 確かにLivnehらの論文では、非典型性の定義として「高熱がない」「発作期間が長い」「腹痛発作が腹膜炎的ではない」「腹痛発作が限局性である」「関節炎の場所が股・膝・足関節以外である」のうち1-2個を満たすとしていますが、その前提として”painful and recurrent attacks”を備えていることを述べています。
 つまり、乾らの症例は、非典型性は満たしていても”recurrent attacks(反復性の発作)"であることは論文の記述上は示されておらず、LivnehらのFMF基準を満たしていないことになります。
 本症例における臨床経過のほとんどがFMFの特徴を呈していることは十分理解できますが、FMFの臨床症候の中で最もFMFらしさを特徴づける「反復性」の記述がない以上、厳密にはFMFと診断できないと考えます。保有が確認されたMEFV変異も非exon10であり、まだFMFを診断したことがない読者のためにも、そしてFMFという診断を受ける患者のためにも、発作の反復性を慎重に確認した上でFMFと診断するという姿勢を記述すべきと思われます。

以上です。
編集委員会にて、本書簡の採否についてご検討いただければ幸いです。


 それでは今日はこの辺で!

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