『宙ごはん: 町田そのこ』を読んだ
○読む前
私にしては珍しいジャンルを選んだ。心温まりそう系はなんだかむず痒くて。自分の境遇とは重ならないから共感できなさそうで手をつけないことが多い。ただ母とママがいるという特殊な条件が付いたので、興味が湧いた。
○覚書
◎特別掌編 君との出会いと誓い
恭弘は学生の頃から好きな女性に何度も告白したが受け入れてもらえなかった。父親のいない子どもをひとりで産み落とした時も手を差し伸べさせてもらえなかった。『妹に預けていた子どもと、一緒に暮らすことになったんだ。あたしの代わりに、子どもに料理を作ってくれないかな?』と初めて頼ってくれて喜ぶ。子どもの名前は宙。母も恭弘もどう接して良いか分からず緊張している。ボロネーゼを作り食べてもらう。心はまだ完全にほぐれていないが味わっている顔にははっきりとした喜びがあるように見える。ふたりが幸せに過ごす時間に、自分の料理があればいいなと思った。
◎第一話
ふわふわパンケーキのイチゴジャム添え
・タイトルが美味そう。食べたい。
・『お母さん』というのは産んだひと、『ママ』というのは育てるひと。自分の常識と世間の常識のズレに苦しみそう
・『かわいそう』って灰色みたいな言葉。表現が綺麗だな
・マリーちゃんに嫌なこと言われて、立ち向かえた宙すごいな。
・産みの母と暮らせないのは可哀想なこと?
・かつての大地主の川瀬家にお母さん・花野は住んでいる。卒園祝いパーティーをする為に会いに行く。宙のふたつ上の従姉の萠(めぐむ)と一緒に。
・こんにちはとか、カノさんとか、お母さんに対する話し方ではないような気がする。呼び方は花野の希望らしいが。
・宙は花野のみっつ下の妹である風海の手で育てられていた。ママと呼ぶ。パパは日坂康太。
・花野はなんだか、母らしくない?子供達がいるのに気にせず辛味が強い料理を買っている。自由人な感じがする。
・花野と一緒に暮らし始める。ママがシンガポールに行ってしまうためらしい。
・佐伯恭弘は花野の中学のころからの友人。Tシャツの袖から伸びた腕には模様のようにびっちりとタトゥーが彫られ、両耳はたくさんのピアスに縁取られている。特別掌編からは想像できないいかつさだった!
・6歳の宙にどっちについて行くかの判断をさせるなよと思う。花野の言っていることは分かるけど。一緒に住みたいとは主張してこなかったな。
・きらきら輝いて見えた花野の日常は仕事に追われる毎日でぼろぼろに見える。
・保育園のときから一番の仲良しの瑚幸に髪の毛を直してもらう。花野はしてくれなかったから。
・授業参観には来てくれなかったのに、恋人の柘植との食事に連れて行く。花野のことは配慮されないから食事が楽しめていない。居心地も悪そう。
・引き取るんじゃなかったは辛い。飛び出した宙と追いかけてきた佐伯。花野も来いよ!佐伯と一緒に商店街の佐伯父のお店、ビストロサエキへ。
・宙にとってパンケーキは、元気になる魔法のようなものだった。これからは自分でこの魔法をかけられるようにならなければと考える。
・「宙のおまじないのお陰で、絶対美味いもんができるぞ」佐伯の一言一言が温かい。
・パンケーキの描写。食レポのようだ。小説に出てくる食事って想像を掻き立てられて、とても美味しそうに思える。
・これは元気の出る魔法のパンケーキではない。元気はどこからも湧いてこない。きっと、風海の作ったものでないから、心が持ち上がらないんだ…… 一緒にシンガポールに行けば、味わなくてよかった悲しみだよな。
・不恰好なパンケーキだけど花野は褒めてくれた。それは、可愛いとか、好きだとか言われたときと同じくらいの温度で宙に届いた。これこそが魔法なのでは?
・花野と風海は種違いの姉妹。花野は幼少期にひとりぼっちで厳しく育てられてしまった。引き取るんじゃなかったは花野自身を責めるものだったのか。
・それぞれの想いを聞き、一緒に朝ごはんを食べる。自分が作ったもので、誰かと気持ちのいい時間を過ごせる、それはすごいことなのだ。そして多分、とても大事なことでもある。そこまで考えてご飯作れてないなあ。
◎第二話
かつおとこんぶが香るほこほこにゅうめん
・小学6年生?大きくなったね。
・マリーちゃんは不機嫌そうに給食を食べる。なんでだろう。
・苦手なものを食べて欲しいという勇気に向かって、食べられないものばかりの自分がみっともないとマリーは言う。真っ当なこと言うなあ。言い方キツいけど。
・叱らない教育をする先生なんだな。でも下手に怒ってモンスターペアレントでも来たら嫌だもんな。
・月一開催のやっちゃんお料理教室。私も通いたい。
・『綺麗に食事をとること、何でも味わって食べられることってのは、ひとの魅力のひとつだとオレは思う。』 確かにそうだな。食事はヒトならではの行動。動物だと狩猟のほうがイメージ近い。生きるためでもあるけれど、美味しさを楽しむために食事をしている。
・佐伯は三十七になった。金髪を品のいい茶色に、派手なタトゥーは白いシャツに覆われた。雰囲気は穏やかになり、くるくると変わっていた表情は静かな笑みを湛えている。大人になったな。父が亡くなりビストロを継いだからか。花野も佐伯を心配して家に呼ばなくなった。代わりに家政婦・田本を雇う。
・生活力を田本や佐伯から学んでいる。よかったね。
・普通の母とは?子供を愛して守る人?
・柘植の存在が花野の中でかなり大きい。仕事でも私生活でも。発言を聞く限りは依存してしまっているように感じる。柘植の前ではこどもになれるのかも。愛され守られる対象として。
・柘植の急死。柘植には奥さんがいるから葬式に来ないでくれと。無理にでも行こうとする花野を佐伯が止めようと話す。見送りもできない関係だと分かっていたはずなのに、いざ直面すると求めてしまう。その苦しみは今まで奪い続けた罪だ。
・結局、柘植に会えるように手助けする佐伯。我儘言ったもの勝ちだ、娘より優先してきた人がルール違反の関係だったなんてと、怒る宙の気持ちに同感だ。
・柘植の娘が来て怒りを露わにする。柘植にも花野にも怒っている。え、マリーの母!?母を宥めるマリー。やはり大人びている。マリーは柘植と花野の関係を知っていたから、宙に対する態度が厳しかったんだ。
・宙の頬の傷に今更気づく花野。叩いたことも覚えていなかった。今まで思っていた怒りの気持ちを嫌味な言葉と共にぶつけていた。花野は飛び出していってしまった。佐伯からもらえる温かさを花野からもらいたいんだよな。
・マリーが家を訪ねてきた。柘植の遺骨が入った小さな瓶を渡すために。柘植の奥さんがいいと言っているらしい。お互いの母のことで謝り合う子供たち。
・柘植のいる病院にずぶ濡れになって駆けつけた花野。柘植の妻は会うことを許そうとしたが娘が許さなかった。娘は画家であろうと努力したが実を結ばず、柘植から趣味に留めたほうがいいと言われた。親心だったと思うが。
・マリーの名前の由来はピカソの恋人の中で一番インスピレーションを与えたと言われている女性。そこまでして柘植の気を引きたかったのか。
・絵が上手くなくて、描きたくないっていったら、怒るし、口に絵の具を突っ込んでくる。自分の夢を託すにしても度が過ぎている。
・幼い頃に嫌味を言ったのは、母もママもいて愛してくれる宙が羨ましかったんだろうな。
・期待する分、その落差に落ち込むんだよね。わかる。
・『家族』としてできる限りの努力をしよう。マリーがその考えに至るまでどれだけ苦労したんだろう。
・花野を家族として受け入れることにした宙。心機一転家族をやり直すことになったマリー。うまくいくといいなと心から思う。
・鰹節を削って出汁を取りにゅうめんを作る宙。泣きながら二人で啜る。どんな気持ち?お互いの気持ちが通じ合った?
・赦されない人間だからと遺骨を受け取らなかった。「許す」はこれから行う行為を認めること、「赦す」はすでに行った行為の失敗を責めないことらしい。へえ。
◎第三話
あなたのための、きのこのとろとろポタージュ
・レシピノートが20冊を超えた。宙、頑張ってるね。多分私より美味しく、いろんな料理作れるな。中学3年か。
・佐伯の結婚式。ビストロのパート春川智美との。花野さんじゃないの!?なんで!?
・誠実な性格や気取らない親しみやすさで智美を好きになった宙。それ以上に佐伯の母も智美を好きになった。
・柘植の仕事を引き継いだマネジメント会社との関係性やキャバクラで働いていたことを報じるゴシップ誌によるストレスだろうか、花野は絵が描けなくなった。佐伯は支えてくれた。花野に「あたしにはあんたが必要なのかもしれない。恭弘、傍にいてくれてありがとう。」と言われるくらいに。
・幸せな3人の生活に思えたけれど、花野から佐伯に別れを告げた。別れを告げたことも、佐伯が智美と結婚することも、お互いの人生を思っているからだろう。
・鉄太の宙への告白いいな。『川瀬の周りっていつも静かで居心地がいいんだ。だから、一緒にいたい』大人びてるー
・鉄太の家は父子家庭。高校生で子供を産んだ姉がいる。別れた夫からのモラハラで実家に出戻り。姪の葵と一緒に。普通の家族を持たない者同士、感覚が合うのかな?変に大人びているというか、考え方が達観しているというか。
・鉄太の家に行く宙。葵への接し方が温かい。佐伯にしてもらったように。オムライスを作ってあげた。もちろん佐伯から教わったもの。
・お料理教室は智美との結婚の話を聞いた日が最後。二人の姿を見ながらなんて無理だと宙が断ったのか。佐伯寂しそう。
・鉄太と葵と3人で買い出しに出ると、ビストロの前で佐伯に会う。4ヶ月ぶり。鉄太の家のことで相談する。店を休みにして鉄太の家に行くことになる。
・ここで私めちゃくちゃ泣けてきて。佐伯の温かさに。ここで初めて会った人に何かしてあげたいと思い、それを実践できるのは凄いよなあ。
・佐伯の作ったポタージュを食べて、泣く鉄太の姉:佳澄。ひとを労り包みこむような料理をいつも作ってくれる。
・心が疲れてくると『自分に手をかける』ことが罪のように感じてしまう。智美も佐伯に助けてもらったんだ。
・鉄太と佳澄の父、正彦が帰ってきた。まさか佐伯と同級生だとは。娘がいきいきと食事をしている姿を見て嬉しそうだ。
・鉄太と付き合ったのは別れまでを経験するため。なんとなくわかってたんだろうな。でも本当に好きになったきたから苦しいんじゃないかな?
・ひとというのは、しあわせの山を登る生き物なんだと佐伯は言う。それぞれが新しい山で歩いているのなら、わたしも自身の山を歩かねばならないのだな。
・佐伯がきのこのポタージュを渡してくれた。花野さん、何も言わなくても佐伯が作ったものだとわかる。
・鉄太からメールがきた。宙のことを知り、改めて付き合いたいと。
◎第四話 思い出とぱらぱらレタス卵チャーハン
・高校2年生になった。
・八十年を超える川瀬家は、どこもかしこも老朽化していた。大掛かりなリフォームをすることに。
・出てくるものほとんど廃棄にしてるけど大丈夫?あとで風海に怒られそう。そもそもリフォームのこと言ってないの?やば。
・曽祖母の勝負アクセサリー。『必要』ではなく『保留』の箱に入れているというのに、風海にあげるのは嫌。厳しい仕打ちを受けたのは自分だから?
・シンガポールから大阪に戻っていた風海と康太。子供達はシンガポールで進学して残ることに。康太は出張続きで不在がち。国内にいるだけで気持ちが違うよね。予想通りほぼ全捨てにしたからガチギレ。
・記憶の中の風海は優しくて穏やかな人なのに、今はヒステリックで感情の起伏が激しい。萠に言わせれば昔かららしい。幼い頃の記憶だからなあ。毒親だって。
・平然と宙の頬を打ったぞ!?田本さんにも嫌な言い方するし。家を守ることに固執しているというか。
・昔から見たものを見たまんま受け取りがちなんだよな、と思う。裏を想像する、というのが下手だ。わたしも!!!
・鉄太とは別の高校だけど交際は続いている。
・中学の卒業式で鉄太の父の姉がきたが、宙に対して失礼なこと言うなあ。花野さんのことも嫌な目線で見る。やなやつー。
・昔のゴシップのせいだけど、そもそもなぜ花野さんはキャバ嬢として働いていたのか。
・智美は2度妊娠したが、どちらも産声を上げなかった。
・向かいの通りに鉄太。隣には鉄太と同じ高校の制服を着た女の子がいて、ふたりは仲良さそうに手を繫いでいた。泣いている宙に謝る花野。ゴシップ誌のせいで普通の恋愛もできないと花野を責めるが謝るだけ。
・風海もリフォームのことでまた怒ってるし、花野に怪我させるし。普通じゃない母親なんていらないと言っても許されるよ。
・海外生活で馴染めず、その分家族に対して束縛が強くなり、家族も離れていく。気を引こうと家出騒ぎを起こしていたらしい。
・椿原第二町営団地。昔10歳まで住んでいた所に風海はいた。
・豊かではないが幸せな暮らしをしていた。父がわずかな貯金を持って消えて、川瀬家へ戻ることになる。
・川瀬家は虚栄だった。それを知られないために風海には秘密にしていた花野。無垢なものって、無意識に守りたくなるのかもしれないなあ
・花野さんがご飯作ってる…そうだよね。今までは昔の厳しい仕打ちを思い出すから作りたくなかったよね。でも今回の件で精神的に解放された。宙につくったら料理を囲んで笑い合える。
・だんだんと人間関係の裏側が紐解かれてきて、見え方が変わってきた。
・やっぱり別れは経験するもんじゃないよ。鉄太のような人いないのに。
◎第五話 ふわふわパンケーキは、永遠に心をめぐる
・隣のクラスの遠宮廻が父親の刃傷沙汰起こし、退学をしたらしい。宙はそもそもその人を知らないけれど、同じクラスの奈々はものすごい勢いで語る。
・奈々の性格を分析して考える宙は、もう達観しすぎて。精神的な成熟度がすごい。
・親の影響で自分の人生に影響が出るところは、宙と境遇が似ているね。
・佐伯が事故で亡くなった、だと。なんでそんなストーリーになるんだ。宙の結婚式に参加してもらいたかった…智美は大丈夫かな。
・花野は決して、哀しいとも辛いとも言わない。体がやせ細り、目の下に濃い隈を作っている。柘植の時よりも感情をコントロールできるようになったということなんだろうけれど。感情を出して表現することが人間らしいと思う宙の気持ちもわかる。
・スーパーで、万引きさせるいじめ。今でもあるのかな?遠宮にも出くわす。読書の趣味が合いそう。
・樋野崎市グルメオブザイヤー。年に一回、一月に発売されている雑誌に佐伯の姿。不意打ちはやばいよ。
・二人とも家族愛の正解を物語に求めている感じがする。でも現実は真反対の境遇だ。遠宮には自分の人生を生きてほしい。
・万引き少年は佐伯を死なせた運転手の子供だった。ガーベラを買い店の前に供えていく。子供心にも刺さるものがあるのだろう。どうしたら、命のお詫びができるんですか。なんて言葉出てこないよ。
・遠宮も鉄太みたいに、誰かを想える人なんだな。少年のことを救いたい。
・智美が少年に大声をあげていた。今まで抱いていた優しいイメージとはだいぶ違う。それだけ辛い思いをしているんだ。過去になんてできないよな。
・遠宮と花野が少年に語りかける。赦されてはいけないし、謝りに行くことは暴力だと。少年はヒロムというらしい。ヒロムの母も呼んでご飯を食べようと花野が提案した。きっと佐伯もそうするだろうからだろう。
・悪いことをしたら謝るだろう?というヒロムに語りかける花野。宙の父の話もする。
・宙の父はいじめをしていて、命を奪ってしまった。宙を妊娠したことをきっかけに自分がしてしまったことを理解できたのだろう。何度も訪れて、被害者の父親に殴られ倒れ、打ちどころが悪くそのまま…
・花野の過去を聞き、それぞれが自分の境遇と重ねて思うところがあっただろう。
・ビストロに行き掃除を始めた宙。初めて訪れた時の温かみがない。遠宮も来た。パンケーキを作る。智美と直子に食べてもらうため。
・涙が出てくる!うわああ!職場の休憩室だぞこちとら!温かい気持ちで泣ける。
・宙!それが恋だぞ!
・宙は佐伯と同じ調理師専門学校を目指す。佐伯もいつか宙が店を継いでくれたらと言っていたらしい。
・花野の夢に、佐伯と宙の父親が揃って出てきた。それがヒロムと会った日。奇跡的なタイミングだ。
・ひとはきっと、いつでも変化の一歩を必死に踏んで生きていく。たくさんのものを抱えて、なお。そしてその一歩は自分だけの力じゃない。たくさんの大切なひととの思い出や、繫がりが奇跡のような力となって、手助けしてくれるのだ。
…とても良いフレーズ。
・料理人になった宙はビストロを子ども食堂として受け継いだ。花野は風海をマネージャーとして一緒に働いている。
○読み終わり
ぽかぽかハッピーものだと思って読み始めたから、登場人物それぞれの家族に対する想いやバックグラウンドの重みや厚みに驚いてしまった。だからこそ、感情を動かされたんだと思う。
やはり、佐伯の存在がデカい。
花野も宙も佐伯の心の温かさに救われたし、それが結果として周りの人たちを救うことに繋がっているから。佐伯にもたくさん幸せになってもらいたかった。
一回読み終わってから特別掌編読み返すと、佐伯の願いは叶ったなと思う。これからの人生でもふたりに美味しいご飯の時間はやってくるもの。
誰かと囲む食卓の大切さを感じた。一人でごはん食べることが多いし、作ってあげるタイミングもなかなかないし。休みの日は外で食べることが多い。
母が作ってくれた料理で思い返すほどに記憶に残るものって正直ないなあ。ご飯美味しかったけれど、多分囲む食卓を良い思い出にできなかったんだと思う。会話も多くなかったし。
ここに出てくる人たちのようにゆっくりご飯を作ってとか、みんなで食卓を囲んで食事を楽しんでとか、穏やかな時間を過ごせていないなあ。
生活リズムもあるのですぐに丁寧な食事をしていけるわけではないが、心もお腹も満たしてくれるご飯を作りたいなと思った。
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