見出し画像

おすすめ本を教えてもらいました

stand.fmにて
ブックコミュニケーションサロンの第2回目の放送をお送りしました。

ブックコミュニケーションサロンとは
チャンネルをお聞きの方(noteをお読みの方)の
おすすめ本を紹介するという配信です。

今回は私の友人である
さゆほさんのおすすめ本3冊ご紹介します。

梨木香歩 著 「裏庭」
なぜか毎年読みたくなり、読んでいます。私の変化とともに「裏庭」の物語も変わっている、そんな風に感じられる本です。
正木晃 著 「お化けと森の宗教学―となりのトトロといっしょに学ぼう」
以前ちささんのnote「イギリス児童文学的異世界へ行く方法」を読んで、お好きかも、と。
どちらにも属さないような、いつの間にかふいに迷い込むような、間(あわい)の感覚を、日本人の自然観、宗教学という切り口で説明されてて、興味深かったです。
岡野玲子 著「陰陽師」。
全13巻ある漫画です。タロットを知ると、主人公の晴明の台詞や扉絵など、また深く、読み応えあります。外宮に奉祀されている豊受大神も…描かれています。
もしどれか、興味そそられましたら幸いです

さゆほさんは
神秘学の勉強を一緒にしている同志のような存在、と
私が勝手に思っています。

神秘思想もですが、植物に詳しく
植物が人の心身に与える影響や
植物からいただく恵みに関する探求をされている方です。

そのためこちらの3冊というのが
非常にさゆほさんらしい選書だなと感じました。

noteで記事を書いておられますので
ぜひご覧になってみてください。

梨木香歩 著 「裏庭」

まず『裏庭』についてあらすじをAmazonから引用します。

昔、英国人一家の別荘だった、今では荒れ放題の洋館。
高い塀で囲まれた洋館の庭は、近所の子供たちにとって絶好の遊び場だ。
その庭に、苦すぎる想い出があり、
塀の穴をくぐらなくなって久しい少女、照美は、
ある出来事がきっかけとなって、
洋館の秘密の「裏庭」へと入りこみ、
声を聞いた――教えよう、君に、と。
少女の孤独な魂は、こうして冒険の旅に出た。
少女自身に出会う旅に。

深層心理の庭

裏庭というのは当然、ただの裏庭ではありません。
洋館の中にある大鏡が入り口になっていて
鏡の向こう側に広がっている異空間が裏庭です。
心の中、深層心理を反映したような世界となっています。

あらすじに「孤独な少女」とありましたが
過去のある悲しい出来事をきっかけに
主人公の照美だけではなく
家族みんながお互いに心を閉ざし
一見穏やかで問題がなさそうに見えるのですが
互いに無関心になっていました。

裏庭が照美の心の中がそのまま現れている空間のため
川は干上がっており
荒廃し、滅びに向かっているとされていました。

これは照美の心が乾き切って荒んでいることの表れで
もし滅んでしまったら
生きていても心が死んだ状態になるのだと思われます。

この裏庭は照美の心だけではなく
その館にゆかりがある関係者全員の集合意識とつながっていました。

心の傷をおおう鎧

小説の中には
「自分の心を守るために鎧を着る」
というような表現が出てきます。

これはあまりにもショックなことを経験した場合の
自然な防御反応で、ある種必要なことといえます。

苦しみや悲しみを
その瞬間にビビットに感じてしまうと気が狂ってしまうので
心がそのように反応すると言われています。

ただこの鎧の副作用というのは
長く着続けると脱ぎ方を忘れるというところにあります。
自分が鎧を着たということすら忘れてしまうのです。

この状態になると
全ての感情というのが薄く感じられるようになってしまい
照美の家族のようにお互いに関心になったり
無感動になったりということが起こります。

「心の傷は時間が癒す」という言葉がありますが
この鎧を着ているとその癒しが起こりません。

自分の中でその傷というのが
「無かったこと」ということになってしまい
単に臭いものに蓋をしただけで
何かの解決になっているわけではないためです。

こうなると、いつもどこか悲しかったりイライラしたり
ずっと心が曇り空というような状態が続きます。

ただ自分がそうなっている理由というのが
もうすでにわからなくなってしまっているので
放置されてしまうということが起こります。

物語が進むにつれて、照美の母
さらにその母親(照美の祖母にあたる方)も
鎧を着込んだ結果
自分の娘を無意識に傷つけるという
負の連鎖を起こしていたということがわかってきます。

鎧を脱ぐこと

この鎧を脱ぐということは並大抵ではいきません。
なぜなら、生々しい感情や受けた傷などを
直視しないといけなくなるためです。

照美は裏庭の中で
鎧を脱いだ自分の傷に直面し
激しい感情の噴出を経験します。

そして裏庭が集合意識につながっているがために
母の傷、祖母の傷、その他館に関係する人々の傷とも
向き合うことになっていきます。

自分の心ですら扱いかねるのに
なんてハードモードなんだろう…と思うのですが
あとがきの解説の中で心理療法士の方が
「クライアントとしてある子供と向き合う時
 やがてを個を超えた親子三代にわたる問題と向き合うことになる」
というように書かれており、まさに本作の通りで
その困難な旅を主人公の照美がやり遂げる
というストーリーになっています。

自分の心を癒すことが
自分とつながる人々も癒すことについては
本人の態度が変化した結果
それに影響を受けるというだけではなく
深層意識下でつながっているので
その中で影響を受けるということも
あるのではないかと思われます。

自分に関して言うと
「鎧、重にも着てるかも…」と感じます。

この鎧というのは
大きなトラウマによっても作られますが
そうではなくても
小さな嫌な事を一定期間継続して受けた結果
作られるということもあると聞きます。
そして見えない領域で起こっていることのためつい放置しがちです。

さゆほさんのコメントに
「私の変化とともに裏庭の物語も変わっている」
と書かれていたのですが
裏庭というのは本来豊かで美しいものだからだと思います。

雨が降り、日がそそぎ
花が咲いては枯れてを繰り返す
そういう空間なので
頻繁に意識を向けて整えていく必要があると感じました。

物語が必要な子供

もう一つこの小説の中に出てくるキーとして
「物語が必要な子供」というものがあると感じました。

孤独な照美を支えていたのは
近所に住むおじいさんなのですが
そのおじいさんが話してくれる様々な昔話や民話などに
照美の心は慰められたというエピソードが出てきます。

照美が裏庭に行った時
心の中に散らばっている物語のモチーフというのが
たくさん現れてきます。
昨年公開された宮﨑 駿監督の
映画『君たちはどう生きるか』とも似ているなと感じました。

少し話は変わるのですが
私の母の友人が早期定年退職をして
子供向けの古本屋さんを開いておられます。

遊びに行った時に母がその人に
「どうしてこういうお店を開いたの?」と質問したところ
その時の返答として印象的だったのが
「物語が必要な子供がいるからね」というものでした。

そのため彼らがお小遣いで買える値段で提供するために
古本という形をとっているそうです。
図書館で借りるというのもいいのですが
自分のものとしてお気に入りの物語を手元に置いておけるというのは
また別格かなと思います。

この「物語が必要な子供」というのはどういう意味かと言うと
お話から何か教訓を得たり
慰められたりする言葉を得るという意味ではなく
ただひととき自分のいる世界から離れて
別の世界で遊んでまた戻ってくる…
この一連の行いで
心を癒したり、生命力のようなものを
得ているタイプの子供のことを指すそうです。

つまり全ての子供が物語が必要というわけではなくて
音楽、絵、スポーツ、自然に触れるなど
その子によって様々な生命力の得方というのを
していると思います。

以前がコロナ流行していた頃
「不要不急」という言葉がよく言われたかと思うのですが
この時にアーティストの方々が
ご自分がやっている仕事が「不要不急」と言われることによって
自分がやってきたことは一体何だったのだろうと
悩んだという話を聞いたことがあります。

個人的にはアートや物語というのは
「急ではないが必要」と感じています。
それによって生きる力を得られるということが
大いにあると考えられるためです。

岡野玲子 著「陰陽師」

次に「陰陽師」を読んでみての感想について話をしたいと思います。
Amazonからあらすじを引用します

平安時代、稀代の魔術師と恐れられた陰陽師・安倍晴明。盟友にして管弦の道を究めた王子・源博雅と共に都の怪異に挑む。

こちら夢枕獏さんの小説を漫画化された作品とのことです。

現実と深層世界の境界が薄い時代

「裏庭」の物語と一緒に読んだせいもあるのですが
平安時代というのは
人の内面世界というのが人の中だけにとどまっておらず
現実に魑魅魍魎という形で現れていた時代
なのではないかなと感じました。

昔なので、月のない夜というのは本当に真っ暗闇で
もし誰かが私の鼻をつまんでも
それが誰だかわからないくらいという風に聞いたことがあります。

そんな中で鬱々と思いを巡らせていたら
自分の心の中でそれが渦巻いているのか
それともそれが表に現れてきてしまっているのか
その境界が薄くなってしまうのではないかと思います。

今、流行している『呪術廻戦』という作品も
結構似ていると感じており
外から、自分とは関係のないところから魔のものが来るのではなくて
人の中から溢れ出してくるものとなっているところからそう思います。

安倍晴明というと本作の主人公もそうですが
非常に飄々とした性格をイメージします。
(実際どんな方だったのかっていうのはちょっと不明なんですけれども)

どうしてこういうキャラクターになっているのかを考えた時に
人の心のドロドロした部分が具現化したような世界
人の心が救われずに荒廃してしまったような世界を
平気な顔で出たり入ったりできる
メンタリティーのある人ということもありますし
人間という存在に対する深い知識や達観した態度があるからこそ
人の心から生まれた魔物を調伏できる
というところがあるのかなと思います。

正木晃 著 「お化けと森の宗教学―となりのトトロといっしょに学ぼう」

次に
「お化けの森と宗教学―となりのトトロといっしょに学ぼう」
についての感想です。

「あの世」がある場所

こちらの本は
宮﨑駿監督のアニメ「となりのトトロ」を題材に
宗教学のエッセンスを分かりやすく解説したものとなっています。

私がこの本の中で印象的だったのが
日本人的な「あの世」というのがどこにあるのかという話でした。

古来の日本人的感覚として
「あの世」というのは
身近な山や海などの自然の中にあったとのことです。
アイヌの文化や沖縄の文化の中に
そういう感覚が今も残っていると思います。

その後、仏教などの影響により
天国や地獄というのが
自分たちが暮らしているところから遠くにあるもの
というように考えるようになったとのことです。
(原初の仏教的には天国とか地獄という概念はありませんが)
様々な変遷を経てそのように考えるようになったとのことです。

そのため日本人の深い感覚としては
「あの世」が身近な自然の中にあり
ふとした瞬間に混ざり合ったり
入り込んだりしてしまうものという感覚があると思います。

トトロは可愛いですけれども
実のところ妖怪的な存在であり
妖怪というのはもともと神様だった存在ということも
本書の中で解説されています。

メイやサツキが迷い込んでしまうのは
子供が「あの世」と「この世」の境界、間(あわい)を
越えやすい体質を持っているからとのことです。

どろ亀先生について

こちらの本の扉には
「この本をどろ亀さんに捧げる」と書かれていました。

この「どろ亀さん」というのは
高橋延清先生という森林学者さんのことを指しているそうです。
高橋先生は東京大学名誉教授で
北海道の演習林で「森こそ教室」として
東京での授業や教授会よりも現場観察を重視し
いつも泥まみれで歩く姿と
自らを「ノロマでもこうだと決めたらコツコツやる亀」
に例えていたことから
「どろ亀さん」や「どろ亀先生」
という愛称で多くの人に親しまれた方とのことです。
「東大の教壇に立たなかった東大教授」とも言われているそうです。

さゆほさんは
このどろ亀先生こと高橋延清先生のことを
もっと多くの人に知ってもらいたいと話しておられました。

森というのはただ放っておいてもダメなのだそうで
高橋先生は「林分施業法」という
生態系への配慮から生まれた
独特な伐採方法による天然木の育成法を確立された方です。

この高橋先生が75歳の時に
プラタナスの木にガードレールが突き刺さっているのを見て
その痛々しさに衝撃を受けられたとのことで
日本の森が荒廃しているということを皆に伝えるために
林を出て積極的に啓発活動されるようになったとのことです。

日本の林が荒れているというのは
よく言われていることかなと思います。
これは海外の木材を輸入した方が安いので
日本の林業というのが衰退してきているためとのことです。

昨今の燃料高によりその状況は変わりつつあるもののやはり
まだまだ日本の林というのは活用されていないとのことです。

昨年の熊の出没が多いというニュースを
よく聞いたかと思うのですが
これは林業に携わる人が町と森の間を頻繁に行ったり来たりして
林の手入れをするということが
どんどん行われないようになってきているので
人が住む領域と森の動物が住む領域が
曖昧になってしまったためとのことです。

西洋文明では森は悪魔が住むところとされていますが
先ほどご紹介した通り
日本人の感覚では「心や魂が帰る場所」という感覚があると思います。

林や森が失われるというのは物質な面だけではなく
心の拠り所や心の足場をなくしてしまう
ということに等しいのではないかなと感じます。

このどろ亀先生の本も
ぜひ読んでみたいと思いました。

いかがでしたでしょうか。
今回ご紹介した本についてのコメントがあればぜひお寄せください。

「物語な必要な子供」というのは私自身もそうだなと感じます。
忙しいと小説はつい後回しで
実用書ばっかり読んでしまうのですが
物語はいいなと改めて感じました。

ブックコミュニケーションサロンは
今後、常時募集にして
お便りをいただいたらやるというようにしようと思っています。
ただ今回「小説いいなぁ」と思ったので
小説の紹介というのを
今後定期的にできたらと思っています。

カバー写真:Unsplashnadi borodinaが撮影した写真

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?