「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリデイ」のこと。

人には色々事情がある。嫌われてる人にも。

1970年代、有名私立男子高バートン校のクリスマス休暇、
帰省できず学校に居残ることになった一人の生徒と先生、寮母の2週間とその後の物語。
途中ロードムービーになったり。

見た目は大きくなったけど、まだまだ子供、問題児の高校生と、
もうだいぶおじいちゃんの域に達している、生涯独身、堅物、変り者の古代文明の先生、
息子を戦争で失ったにも関わらず、周りから敬意を払われない、黒人の寮母。
まったく異なるバックグラウンドの3人だけど、
「嫌われ者」「つまはじき」という点では同じだった。

普通にしていたら、ただの嫌な奴だったりするけど、
みんな事情がある。
どうしても体臭のきつくなってしまう体質だったり、そういうコンプレックスがあったり。
複雑な家庭の事情から来る反抗的な態度だったり。
息子の死を誇りに思いながらも、人種的不利益のせいで息子を失ったという気持ちが拭えなかったり。
ストーリーが進むにつれて、それぞれの抱える葛藤や虚無感、諦め、恐れなんかが見えてくる。

お互いを理解した時に初めて心を開いたり、歩み寄ったり、正しいと信じた助言をしたりできるのだ。
今の世の中、他人に干渉しないこと、個人主義や自己責任論が賢明とされているので、
あまり他人は他人を気に掛けない、手出ししない風潮だが、
ちょっとした声掛けや寄り添いで、救われるものがある。

誰かを嫌ったり、批判したりする前に、その人の事情を想像する想像力を私たちは与えられているはず。
もっと想像力を働かせて人と関わろう。
人間関係が希薄になってしまった時代だからこそ、もう一度多少なりとも関わった人の人生に寄り添うことを諦めたくない。
そんな気持ちにさせてくれる作品だった。
そして寛容であること。
今の時代に欠けてしまったことだと思う。

先生は、アンガスを、自分のこの先の人生を懸けるに値する人間だと、ちゃんと見極めた。
自分のような挫折をもうこれ以上味わってほしくなかったのだろう。
ちゃんとした大人の背中を見せてくれた。
きっともうアンガスは大丈夫。

アレクサンダー・ペイン監督作って、じんわり心に沁みる作品であることにかけては
裏切らないなぁ。
コメディなんだけど、笑っちゃうんだけど、時に痛々しくて切ないところもあった。
サントラもその時代の空気感がとても伝わる選曲で、フォーキーでノスタルジック、
クリスマスソングがキラキラとしていて、冬に聞きたい。

ちょうど最近、本業のITの仕事が辛くて、仲間内で弱音を吐いたところ、
ちょっと言葉の綾もあるんだけど、思惑が伝わらなかったこともあって、
みんなから反感を買った形になり、とても落ち込んでいた。
中でも一番厳しいことを言いそうな人が、「でも、そう口に出すくらい、本当に辛かったんだよね」
って言ってくれて、ちょっと泣いた。
私はもう理解されることを諦めてきた人間なので、思いがけないその人の言葉に驚きと共に、
「あ、私ですら、本当はまだ理解して欲しかったんだ。」と思った。
そして、周りに同調せず、自分の意見を率直に言って、私に寄り添ってくれた彼女に、心から感謝した。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?