見出し画像

〝真珠〟と名づけたキャビア。

文・撮影/長尾謙一 

ペルーラ ロイヤルキャビア(ブラック)
(素材のちから第35号より)
※「素材のちから」本誌をPDFでご覧になりたい方はこちら

画像13

「グリージョのキャビアが一番おいしいキャビアだ。」とシェフから聞いた。グリージョはイタリア語でグレーの意味だ。天然のキャビアで人気の高いベルーガの色はグレーで、明るい色のものが評価された。表面はきめ細かく繊細で、味は濃厚でクリーミーな熟成感を持つ。スプーンでたっぷりとすくったこのキャビアもグリージョだ。長い時間をかけてつくられた養殖キャビアは〝真珠〟の名前をつけられた。

画像2

「ペルーラ ロイヤルキャビア」は、およそ20年の時をかけてつくられた。ベルーガとアムールをかけ合わせた種を独自に開発し、標高700m以上にある大自然に囲まれた美しい湖で12~15年をかけて育てる。取り出した卵にミネラル分豊富なやさしい海の塩を加えて約8か月間熟成させることにより、キャビア本来の濃厚でクリーミーな味わいを持つ。

恵まれた自然環境と、ゆっくりとした時間がつくり出すキャビア。

天然から養殖へキャビアづくりは競い合う時代へ

チョウザメが1975年に締結されたワシントン条約の規制対象になって以来、キャビアは天然のチョウザメの卵を原料とするものから養殖のものへと移行してきた。これにより、それまでカスピ海などの大産地が圧倒的な量を占めていたキャビアづくりも、世界各地へ広がることになった。

日本でも、宮崎をはじめ、北海道、岐阜県、香川県、愛媛県、高知県などが取り組んでいると聞く。チョウザメを育てる養殖環境の違いは卵にも反映されるだろうし、キャビアをつくる技術の違いはブランドごとに味の違いも生み出すだろう。

独自開発した種を恵まれた環境でゆっくりと育てる

さて、今回は中国産の「ペルーラ ロイヤルキャビア」をご紹介したい。中国産というと環境問題がすぐに頭に浮かぶが、養殖しているのは福建省の省都である福州から車で4時間、標高は700mを超える山の中だ。美しい自然環境には国家指定の飲料水として使える綺麗な水をたたえる湖があり、そこにある養殖所の広さは東京ドーム45個分にあたる。

こうした広大な恵まれた環境で12~15年かけてゆっくりとチョウザメは育てられる。

画像3
画像4

育てるチョウザメはベルーガとアムールをかけ合わせ、濃厚でクリーミーなキャビアの味わいを目指して開発した独自の種だ。

キャビアは、つくり手の技術によっても味が左右されるという。チョウザメの表面を丁寧に洗浄した後、開腹して卵の取り出しを行う。これを熟練の職人の手作業で丁寧に解卵する。この作業の間に卵の温度が上がらないように氷水で冷やしながら作業していく。不純物は徹底的に取り除き、塩を加えて約8か月間熟成させる。キャビアの原料はチョウザメの卵と塩だけだ。塩の役割は大きい。このため目指す味を手に入れるために、いくつもの塩を試したそうだ。

「ペルーラ ロイヤルキャビア」は品質を維持する手段として冷凍を選んだ。これにより、防腐剤の添加も低温殺菌も必要ない。

すべてのキャビアは、いつ、どのチョウザメの卵から製品化されたのか、また、製造ロット(1個体/1製品)別に製造管理され、製品化されたキャビアはサンプルを保管し、いつでもチェックできるよう完全なトレースを可能にしている。

さて、そろそろ「ペルーラ ロイヤルキャビア」を味わってみたいが、私の味の物差しではかなりレベルが心もとないので、キャビアのおいしさをよく知るシェフに料理していただき、その感想をお伺いしたいと思う。

この熟成感がたまらない。

画像13

最適な自然環境で時間をかけて育んだチョウザメの卵をやさしい海の塩でじっくりと熟成させたキャビアは、濃厚でクリーミーだ。まろやかな甘みとコクがさらに広がり余韻は長く続く。これがキャビアのおいしさだ。

極上のキャビアがつくり出す素材の一体感

極上のキャビアには、濃厚でクリーミーな味わいの中にコク味をグッと押し上げる塩味を感じる。この塩味がすべての素材に行き渡り、ねっとりと全体を一体化させる。絶妙な塩味が熟成感をさらに深めることは極上のキャビアの条件だ。

「ペルーラ ロイヤルキャビア」は、味と価格のバランスがとてもいい。

画像5

オーナーシェフ 片岡 護 さん

画像6

アルポルト 東京都港区西麻布
片岡シェフは日本にイタリア料理の流れをつくった。彼を巨匠と呼んでも異を唱える人はいないだろう。〝イタリア懐石料理〟は懐かしいコンセプトだが、今も新しい素材や技法に挑戦し独自の料理観を表現し続けている。常に熱意ある人の話をしっかりと受け止めて、真剣にアドバイスする誠実さを尊敬したい。

「ペルーラ ロイヤルキャビア」は〝クリスマス島の塩〟で熟成させる

私が「ペルーラ ロイヤルキャビア」を使いはじめたのは去年の8月からでしょうか。このキャビアのよさは、まず、昔使った天然のキャビアのような濃厚でクリーミーな熟成感を持っていることです。このコクのあるなめらかさを出すためにベルーガとアムールをかけ合わせて独自の種を開発したと伺いました。そしてもう一つは、品質に対してとてもリーズナブルな価格で安定して供給してもらえることです。養殖環境も時間もとても大きなスケールでゆったりとつくられることで実現するのでしょう。

キャビアの原料は卵と塩だけです。卵はベストなものを仕上げていますから、あとは少しでも理想の味に近づくように岩塩を使ったり、海の塩を使ったり、ブレンドしてみたり何度も何度も試したそうです。「ペルーラ ロイヤルキャビア」の熟成には、今、〝クリスマス島の塩〟が使われています。

画像14

私はこの塩がやわらかな塩味を持っていて浸透率がとてもいいことを知っていましたし、からすみを漬けるととてもいい色に仕上がって、味にも深みが出ると聞いていました。ですから同じ魚卵のキャビアにもいい効果があると思って推薦しました。するとすぐに試作して、8か月後に試食チェックしたそうです。ブラインドテストではほとんどのスタッフの方が〝クリスマス島の塩〟で熟成させたキャビアを選びました。やはり熟成感の強さが際立っていたのでしょう。

キャビアは見た目の飾りではなく味のまとめ役として使いたい

画像7

上のお皿はうちでずっとやっている料理なんですが、毛ガニとアボカドとキャビアのセルクル仕立てです。普段はこんなにキャビアをのせませんが、今回はスペシャルバーションです。それでも「ペルーラ ロイヤルキャビア」にしてから少し原価が落とせたのでのせる量を増やしています。

アボカドは小さく切って、ビネグレット、オリーブオイル、ほんの少しのバルサミコ酢で和えて下に敷き、それから毛ガニのほぐし身をのせます。その上にカニのミソから出たジュをかけて、オーロラソース、フルーツトマトの角切りをオリーブオイルと塩、胡椒で和えたものをのせ、さらにその上にキャビアをのせて金箔を少しのせました。裏漉ししたラズベリーの中にビネグレットとレモン、塩、胡椒を加えたソースを敷きます。食べる時にはそれを全部一緒にして食べる一体感がポイントです。キャビアを飾りとしてではなく、キャビアの塩味と熟成感を味のまとめ役に使いました。

お客様には、〝やっぱりキャビアはおいしい〟と納得していただけると思います。

濃厚な凝縮感とキャビアの香り

画像14

この料理はキャビアに十分な凝縮感がないと成立しない料理です。蒸したアワビとウニを鶏でとったコンソメのジュレ仕立てにしています。コンソメはダブルコンソメのような感じに詰めていきますので旨みがとても凝縮しています。蒸しアワビも旨みが凝縮していて、そこにウニが入ってくるわけですからとても濃厚です。全部の凝縮感が口の中に入ってきて、得も言われぬ味になっていきます。そこにちょっとオクラのねっとり感が加わり、さらにこのキャビアが加わります。

最後にクリームのソースや泡のソースをのせて全体をまとめるのもいいのですが、シンプルにキャビアをポンとのせて凝縮されたクリーミーなおいしさで全体をまとめるソースとして使いました。

画像10

濃厚な風味をまとめるためには十分な凝縮感が必要ですが「ペルーラ ロイヤルキャビア」は、盛り付けの時にスプーンですくう前からねっとり感が見えるようで、素材の旨み全部をクリーミーに繋いでくれます。やはり昔使っていた天然のキャビアに凄く近いと思いますし、キャビア独特の香りを持っています。

キャビアは最高級のパスタソース

画像9

この料理はグアルティエーロ・マルケージというイタリアの偉大なシェフが考案したもので、彼の料理の中ではとても有名な一皿ですね。来日した時に蕎麦を食べてあのコシにびっくりして蕎麦屋の厨房を見せてもらったそうです。すると茹でた蕎麦を冷水で締めていました。日本では当たり前ですよね。でもイタリアではパスタを冷やすことは一切ありません。茹でてやわらかくなったパスタをアルデンテに戻すなどという考えはまったくなかったのです。それを見て彼は感動してミラノに帰り、冷たいキャビアのパスタをつくったのです。

冷たいパスタと和えるのは、オリーブオイルとレモンとエシャロットのみじん切り、みょうが、それから軽く塩、胡椒で和えておいたスカンピです。最後にキャビアをのせて、この料理でもキャビアはソースなのです。やわらかな表面の皮が壊れ、エキスのようなねっとりとした液体が濃厚にクリーミーにパスタと絡み合う。キャビアは全部をまとめてくれる最高級のパスタソースなのです。

昔に比べてキャビアは高価になりました。ですからたくさんは使えません。しかし、高級感を出すために飾りとして使うキャビアの価値は、昔のおいしかったキャビアの価値とは違うと思います。見た目を飾っても味はおいしくなりませんから、キャビアの風味に引き込むような料理をつくらなくては使う意味がありません。使う量と価格のバランスを取りながら、キャビアの魅力を発揮する料理をつくるのはなかなか難しいと思いますが、それをメニュー開発しなくてはなりません。それが私たちの課題になっていくでしょう。

キャビアづくりの大きなサイクルが回りはじめた。

理想の品質を求め続けて

「ペルーラ ロイヤルキャビア」がベルーガとアムールをかけ合わせて独自に開発されたハイブリッド種であることはすでに述べた。かけ合わせたものはそのベルーガの中でも希少とされるアルマスという種で、黄色がかった黄金のキャビアと呼ばれ、世界で最も高価なキャビアとして知られているそうだ。

一方のアムールも中国独自に生息しているもので、卵の粒が大きくグレーの色が特徴らしい。濃厚でクリーミーなキャビアづくりを目指して動き出し、このかけ合わせにたどり着くにも時間がかかっただろうし、たどり着いた種は養殖する年数を長く必要とし、発売まで20年間かかった。

画像12

世界中にさまざまなブランドのキャビアが増えていくのを見ながらも志を変えなかったことに敬意を払いたい。

キャビアの価格が下がるかもしれない

発売以来、価格と品質のバランスのとれた「ペルーラ ロイヤルキャビア」の評価は高い。

そして今、「ペルーラ ロイヤルキャビア」の養殖場には12〜15年ほどの成魚が2万5000匹以上いる。毎年800万匹ずつ稚魚を追加し、そこからもどんどん追加されるという。長い時間がかかったが、このキャビアづくりは広大なスケールでサイクルが回りはじめたのだ。

今でさえこれだけの規模なのに、さらに大きな単位で卵が獲れ、さらに大きな規模で熟成していくなら、今後、「ペルーラ ロイヤルキャビア」はどうなっていくのだろう。中国の世界的な観光地、桂林の絵のような美しい風景や、揚子江のような広大なスケール感を想像すればするほどそのポテンシャルは計り知れない気がする。生産供給量が増えることは価格に直結する。もしかしたら将来、キャビアの価格が下がるかもしれない。

画像11

おいしいキャビアを見極めて使うことは料理人のプライドだ。原価を考えながら料理をつくるのではなく、キャビアのおいしさだけを考えながら料理がつくれる時がくるかもしれない。大きなサイクルで動きはじめた「ペルーラ ロイヤルキャビア」の未来に期待したい。


お問い合わせ:クリスマス・アイランド21株式会社

(2019年9月30日発行「素材のちから」第35号掲載記事)

※「素材のちから」本誌をPDFでご覧になりたい方はこちら

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?