見出し画像

塩は料理の肝。

文・撮影/長尾謙一 

クリスマス島の塩(素材のちから第33号より)
※「素材のちから」本誌をPDFでご覧になりたい方はこちら

画像1

塩の使い方は難しい。料理にやさしい味を加えるのも、水分を抜いて旨みを凝縮するのも、その使い方は感覚的だ。強くても弱くても料理の組み立ては壊れ、バランスは失われる。塩こそ料理の肝なのだ。「クリスマス島の塩」は料理人の培ってきた勘に寄り添い巧みに料理を調える。

「クリスマス島の塩」で、変化する味わいを皿の中に組み立てる。

画像2

オーナーシェフ 高良 康之 さん

画像3

レストラン ラフィナージュ 東京都中央区銀座
「銀座レカン」の6代目料理長を務めた高良康之シェフが昨年10月、レストランを銀座にオープン。〝ラフィナージュ〟という店名は〝熟成〟という意味。この言葉には、店も料理もスタッフも、そして高良氏自身も新しく出会うお客様と一緒にどんどん成長しながら進んでいきたいという想いが込められている。時間をかけてじっくりと味わいのある人生を料理に表現したい。店名の〝ラフィナージュ〟は高良氏の目標である。

お客様を料理の物語へいざなうような塩の使い方をしたい

フランス料理には一皿の中に主役になる素材があって、ソースがあって、付け合わせがあります。私はこの3つの要素のバランスを大切にしたいと思っています。この3要素は盛り付けに必要な見た目の要素ではありません。一皿の中に一緒にある理由がちゃんとあるのです。

主役の素材を召し上がっていただきながら最後に完結するまで、それぞれの要素がうまくかかわり合うからこそ料理に意味合いをつくり出すことができるのです。素材が存在感をアピールしすぎたり、ソースばかりが強かったりするのではなく、料理のはじまりから終わりまで3つの要素が均等にちょうどいいバランスに整っているお皿をつくりたいと思っています。

もう一つ大切にしていることは塩の打ち方です。私はお客様が召し上がる最初の一口目に「おいしい!」と感じる塩の打ち方はしません。味わいは「おいしい!」と感じた時に完結してしまうからです。満足感がずっと続くことはありませんから、最初の一口目で満足してしまうと、そのまま食べ進めていっても味わいの変化を楽しめません。一皿を食べ終わる時には重くなってきます。

次のお皿が出て、また一口目が「おいしい!」と完結してしまい、次のお皿も同じようになる。これでは組み立てた料理の意味合いをお客様に楽しんでいただけません。ですから私の塩の当て方はちょっと弱めというか、何を引っ張り出すかという目的をはっきりさせて塩を使います。

最初に口に含んだ時に主役になる素材の味わいに興味が湧いてきて、その興味をずっと継続しながら食べ進んでいくうちに味わいの変化が生まれて、やがて付け合わせの理由が分かり、ソースと融合する素材を楽しみながら一皿が完結する。お客様を料理の物語へいざなうような塩の使い方をしたいと思っています。今日は3つの料理をご覧ください。

風味を一体化させるやさしくてまるい塩味

画像6

〝シャラン産鴨と春野菜のマルミット仕立て〟は、鴨に「クリスマス島の塩」をして皮面をフライパンで焼きます。半生くらいまで火が入ったらスッポンのコンソメに落として火を入れて鴨の焼けた香りをつけていきます。竹の子、なばな、そら豆は「クリスマス島の塩」とピュアオリーブオイルでコンフィしておいたものをフライパンで焼いてから加え、全体の味わいを一体化させて仕上げます。

鍋で一緒に炊けば火も入るし味はつくれますが、そこに焼いた香りをのせることで味わいをふくらませて奥行きを出します。

スッポンのコンソメを使うのは、牛肉のコンソメでは鴨の香りが負けてしまいますし、鴨のコンソメだと平坦な味になってしまいます。そこで旨みの違いで変化を持たせるためにスッポンのコンソメを使いました。

味つけに使うのは「クリスマス島の塩」だけです。この料理は鴨や春野菜の焼けた苦みをスパイスとして使うことでお客様に料理の〝香り〟を意識していただきたいのです。そして、その香りから春を感じていただけるよう組み立てました。苦みをスパイス感覚で使えるのも「クリスマス島の塩」のやさしくてまるい塩味のおかげです。

素材と素材の味をなじませるのも塩の役目

次は、〝フォアグラとあんぽ柿のトーション仕立て〟です。

画像5

フォアグラは「クリスマス島の塩」と白胡椒、グラニュー糖、ナツメグをふり、ポルト酒とコニャックで一晩マリネします。ここで塩が弱いと生臭みが浮きますし、濃いとフォアグラだけが主張されるので塩はギリギリのところを狙います。

これを湯煎し、氷水にとったあと冷蔵庫で1週間寝かせてからあんぽ柿と一緒に円柱の型に巻き込みます。これをさらに3日間寝かせて、両方の味がよくなじんでから使います。

付け合わせには、あんぽ柿とモロッコインゲン、マイクロセルフィーユ、エディブルフラワー、ソースにはルビーポルトと赤ワインのソースとあんぽ柿のソースを添えます。粉末にしたアールグレイの茶葉も添えますが、これはあんぽ柿の濃厚な甘みにアールグレイの渋みと香りを加えることで風味に立体感を持たせたのです。

こうやってフォアグラを真ん中に盛って付け合わせをまわりに置いたのは、ウキウキした春の明るいお皿にしたかったからです。

ミネラルの旨みを入れ、水分を抜く

最後は、〝トラフグのマリネ ロックフォール風味〟です。

画像5

トラフグを下処理し、身を「クリスマス島の塩」と胡椒、甜菜糖、コリアンダーシードでマリネして風味を入れていきます。トラフグの味わいにミネラル分が欲しいので「クリスマス島の塩」で味を入れますが、同時に水分を強制的に抜く目的もあります。3時間ほどマリネしたらマリナードを洗い流して、そこから2~3日置いて水分を少し調整し、歯切れのよい食感にしていきます。そうするとマリナードの風味が身に入りトラフグの旨みもそこにあって、噛むたびに旨みが出てきます。

「クリスマス島の塩」のミネラル感は、トラフグをはじめヒラメやカレイのような筋肉質で筋繊維がきめ細かく身に締まりがある魚にはぴったりですね。

皮はブランシールして棒状にカットしヴィネグレットソースと和えて身の上にのせます。これをロックフォールチーズのソースで召し上がっていただきますが、トラフグとロックフォールチーズ、両方の凝縮した旨みが重なって、思わず白ワインに手がのびてしまいます。

それにしても私がこの仕事をはじめた頃は、塩は塩味をつけるものだとしか思っていませんでしたが、塩は旨みを引き出す力や味をまとめる力も持っていることを学んできました。使う量、タイミング、素材にどうアプローチするのか、使い方は本当に難しいと思います。食べ物の味加減を〝塩梅〟と言いますが、「クリスマス島の塩」は私の勘に寄り添うように巧みに料理を調えてくれます。この塩は私にとって〝料理の肝〟です。


お問い合わせ:クリスマス・アイランド21株式会社

(2019年3月31日発行「素材のちから」第33号掲載記事)

※「素材のちから」本誌をPDFでご覧になりたい方はこちら

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?