2023アイドル夏曲ダービー

はじめに

 本稿はタイトルの通り2023年にリリースされたアイドル楽曲群のうち、筆者が「夏曲」として捉えられるものを観測範囲内から10曲抽出し、それを順位付けしたものになります。順位そのものというより、本筋は次節で記載するような評価項目に基づいて各楽曲に向き合ったときのポイントの言語化、そしてその言語化過程で気づく楽曲やグループの魅力に触れること、といった側面を主眼にしたいと思っています。正直に言えば、Spotifyで「アイドルポップ・ジャパン」のプレイリストを開いてもらえればわかるように2023年リリースのアイドル楽曲なんて無数にあるわけで、その中から全部吟味するのは現実的ではありません。ならば自身が触れてきた/観測できた範囲内でやってみよう、というのが本稿です。なので必然的にいわゆるメジャーアイドルが多くなるわけですが、これもまた氷山の一角でしかないということは念頭に置きつつ読んでもらえればと思います。「アイドルの世界は豊穣である」というのがわたしのnote自体のスタンスです。それではどうぞ。


評価項目/着目ポイント

①タイトル/歌詞
・季節としての夏を象徴するワードの有無/多寡
・情景描写
・登場人物の感情や行動、関係性
・テーマ

メロディー
・音色/音像
・展開(コード進行とかはわからないので感覚ですが)

MV
・構造
・画

個人的経験
・現場/MVなどで最初に浴びた感想

ランキング

第10位:おひとりさま天国(乃木坂46)

 乃木坂46の33枚目シングルにして、5期生の井上和をセンターに据えた本楽曲。グループの色んな事情とかに思うことはあれど、ひとまずは楽曲単体で考えたいと思います。

 タイトル。「おひとりさま天国」は「天国」の部分に夏要素を感じなくもない。ただ「乃木坂から「おひとりさま天国」というタイトルの楽曲が出ること」自体にわりと驚いたのが正直なところでした。でも去年は好きロックだったしここ2年位のスパンで見れば不思議ではないのか、とも思う。「あの頃(任意)の乃木坂」を心の中に強く持つ人達にとってはどんな風に映ったんだろう。

 歌詞。主人公が「私」だし、主題は「恋愛至上主義からの脱却」なのでいま時分な感じもあり、康なりに現代へとアジャストしようとした形跡は見られる気がします(じゃあAKBの新曲は何だったんだよ)(ここで挟む必要はないけれどちょっとどうしても書いておきたくて)。夏にまつわる単語やフレーズとしては「海でも山でもキャンプでも」くらいで、全体としては恋愛に象徴される諸活動や時制(誕生日だとかクリスマスだとかバレンタインデーゴールデンウィーク)が羅列されたのち、自分のペースでエンジョイしよう、自分で見出す本当の自分、という点でのIt's the single life。軽やかな「おひとりさま」の肯定をやっている点は、少なくとも恋愛至上主義に対する一定のアングルがあると思います。「浮気に二股略奪心変わり」はわりと問題視(?)されていたけれど、恋愛によって引き起こされる問題(トラブル)の羅列なのであって、それ自体を彼女らが肯定する文脈ではないので、発語すること自体の倫理を問うのはここでは無意味かと。そもそも恋愛とは「自分じゃない本当の自分見つけたい」ですからね…(『なぜ 恋をして来なかったんだろう?』)。なので歌詞においては行間を読ませるような詩的要素は無くストレートにわかりやすくパキッとした印象でした。遊びとか奥行きはあんまりない。

 メロディー。イントロからまじでAVICIIだった。夏の野外で放水曲。メロだけだったらかなり上位に食い込むくらい。ブレイクのところでアニメ声モードの和ちゃんの「It's the single life!」が来て笑っちゃったけど、そうか井上和にはこんな使い方もあったんだ、と思ったりもしました。ここまで書いててお気づきかと思われますが当初より割りと受け入れている部分があります。曲に関しては。井上和に白石麻衣をさせる必要は微塵もないよ。井上和だから。という気持ち。

 MV。コンセプトとのマッチ度は高い気もする。それぞれの「おひとりさま天国」が画面内に展開されており、それのショーケース。メンバーも可愛い。ただ、それらが本当に「羅列されているだけ」の印象は拭えなかったのも事実。CMって感じ。別にCMが良い悪いの話をしているわけではなく、CM的というか。コンテナの作りはブレワイ/ティアキンのイチカラ村じゃんとなった。ファンメイドのMADにも近い感覚。EDMだからというのでそのままクラブシーンみたいなのは安直では___とも。ただ終盤の白衣装なぎちゃんがいろんな「おひとりさま天国」を見て自分を見つけていくような未来の顔をしていたところは割と好きです。サムネはなぎちゃん単体で良かったとは思う。

 このラインナップとしては10位ですけど、悪いとかじゃなく佳曲って感じでした総じて。突き抜けて夏曲でもなく。ただメロディーは特筆すべき価値がありました。と言いつつも、この曲が乃木坂である必然性、およびこの曲のセンターが井上和である必然性は楽曲そのものからは伝わっては来なかったな、というのが正直なところです。

第9位:大空、ビュンと(≒JOY)

 9位はニアジョイ。TIFでイコノイジョイを体感してから急速にTLに放出する情報量の割合が変わってきているでおなじみのわたしです。本楽曲はイコラブの『ナツマトペ』にカップリングとして収録されている模様。

 タイトルと歌詞。こちらも主題が「夢に向かって地元を離れる決意」であり、いわゆる夏曲度で言うならばそんなに高くなく、「大空」「青空」というあたりくらい。センターの市原愛弓さんは元STUらしく、その文脈を踏まえると「誰かのためなりたかった 最後の夢もう一度だけ」という歌詞の重みが伝わってくるという。指原莉乃さん____あんたって人は___。「ターミナル」に夢への出発点という役割を与えることにより、空へ飛び立つことはすなわち夢に向かってその一歩を踏み出すという意味合いを重ねるのが上手いと思います。

 メロディー。期待感が持てるイントロから10秒経ったのちギターがかき鳴らされてこれこれ〜〜となる上々の滑り出し。「それでも私進んでみたかった」からサビの「大空、ビュンと飛んだ日」への展開はつんのめった感覚というか、想像してたよりも性急な感覚が残ったりはしました。おそらく全体の構成はシンプル、故にサビの中で「夢が叶ったら帰ってくるよ」という旅立ちの決意→「いつか笑ってる信じてるんだ」という夢に向かって飛び込んだ先での努力や葛藤とそこで目指す未来→「遠くで頑張る私見てて。」という、夢の地で奮闘する側の視点から青空を見つめ故郷の大切な人を想う気持ち、という変遷が胸を打ちます。

 MV。ターミナルで母からの手紙を読むカットから始まり、その後はターミナルでのダンスカットとメンバーのリップシンク、そして市原愛弓さんのソロカットという組み合わせを主体として進んでいく構成でした。2番冒頭で東京にやってきてから豚骨ラーメンのお店に入るも、食べてみたらなんか違うな…と首を傾げる描写がとても良くて、故郷への郷愁と違う場所に来ているという現実をあの数秒で画に残すのが素晴らしい。アイドル活動それ自体をMV中に映し出しているのはMVでいうと乃木坂の『僕は僕を好きになる』的な感覚です。本作のMV主人公である市原愛弓さんはMV中だと例えばアー写撮影とかでもうまく表情を作れなかったり、あるいは自分で作ったホットケーキも焦がしてしまったり、また母親からの優しいLINEに膝を抱えるような描写もありましたけど、ラスサビで母親が持つスマホで流れるMVを観るカットからは「大切な人今日も笑っていて」で素敵な笑顔を見せているという対比がこれまた素晴らしい。「楽しかったです!」で終わるのいいよね。

第8位:好きになっちゃった(SKE48)

 SKEの31枚目シングル表題曲である『好きになっちゃった』。センターは末永桜花さん。最近Team Eオリジナル新公演が始まったらしくいっぺん見てみたいという気持ちが大きくなっています。かつて別現場で名古屋はそれなりに行っていたこともあり愛着があります。

 タイトルと歌詞。「途中の停留所から乗ってくる知らない制服」「バスの中いつも見かける君だから」で康全開になってる。康はバスと川が好きだと思っているので(?)。主人公は「僕」であり、「君」に対しての恋心を自覚し始めてからの心の揺れ動きを表現しているという点では奥ゆかしい。夏服に君が着替え始めた頃、という部分は制服の切り替わりによる季節感の醸成と自身の気持ちが加速していくのを表していて巧いなと思います。「誰かのこと好きになるとホントの僕じゃなくなって自分を嫌いになるよ」は恋愛のある一側面をしっかり切り取っている気がします。声をかけられないけどそれで十分だ大好きだI・N・Gとは同じシチュエーションでも主人公の心情が全く違うので興味深いです。

 メロディー。上述の2曲と対比するとかなりしっとり目なイントロからスタート。BPMも抑えめ。坂のメソッドというか要素というか方法論が応用されている感覚があります。歌詞を通すと「君」に思いは馳せるし恋心を止められないという意味での感情の揺れ動きがサビのあたりに現れている気がしますが、全体としては「僕」は告白をしていないし不器用でもどかしいが何もできない、という状況の変わらなさは全体の抑えめなトーンに表れているようにも感じました。

 MV。水を抜いたプールに色とりどりの風船が飾り付けられた空間、ここで全編メンバーのダンス・歌唱を映していくシンプルな構成。ラスサビには風船が宙に浮かぶことで恋心の開花を視覚的に表現している…?ラスサビには空も夕暮れになり段々と日が短くなる夏の終わりの感覚も匂わせつつ、夏と恋の有限性を感じます。繰り返しますがMVの映像としては非常にシンプル。故に歌詞の素朴な感情をメンバーのダンス、表情に委ねた部分も多いのかなと思います。後述する虹コン楽曲みたいな楽しい!!!夏だ!!!!という夏曲もあれば、本作のような17時の鐘(あるいはサイレン)が鳴ったあとのような一抹の寂しさを覚える楽曲もまた夏曲であるなあと思います。

第7位:マイレージラブサマー(虹のコンキスタドール)

 知らないうちにめっちゃメンバーが入れ替わってたり的場華鈴さんが予科生になっていたりでお馴染み(?)の虹コン。わたしのイメージは『THE☆有頂天サマー!!』が根底にあるので、ずっとストイックに夏曲を出し続けている点でとても信頼しています。わたしは虹コンなら鶴見萌さんか蛭田愛梨さんです。あと神田ジュナさんに宮地すみれさんを感じる(?)

 タイトルと歌詞。絶対に夏曲に夏あるいはサマーという文言をタイトルに含める気概を感じる。「「かわいい!」ってそれ本音ですか!?」「「好きです!」はマジなやつですか!?」での歌い出しは夏恋という感じマシマシで冒頭から迸っている感覚です。「キミの住む街まで一瞬で行きたい」という会いたい気持ちの表現を飛行機、マイレージラブとして表現しているのが好き。サビはひたすらに会いたい!を連呼している。ただ2番では自分のめんどくささ・重さへの自覚も吐露しつつ、それでも夏の恋そのものに自分を委ねて突っ走る勢いを止めない。この自分を見失うぐらい好きに突っ走るのも恋愛だよねえとなっています。

 メロディー。管楽器が聞こえてくると夏を感じるのは甲子園のブラスバンドが由来なのかもしれないとも思った。『ドローン旋回中』に近く、スカ要素も見え隠れしつつ、ギターもベースもドラムも遊び倒してて楽しい。2番冒頭の「嬉しいくせに不安なんです」ではちゃんと抑えめな音色にしつつそれでも2サビで再び全力疾走していくのが気持ちいい。ラスサビのあと(これはCメロ?)に「キミが!キミが!」で始まる節から畳み掛けるラッシュ。オフボーカルでも夏曲だって伝わると思います。

 MV。もう説明不要なくらい夏。夏曲の原点がポニシュシュで育った人なので。ただこちらはANAが全面協力しているので夏!水着!パート以外にもANAの機体自体が(!)映る状態の整備倉庫で撮ってたり、星野リゾートで撮ってたりと豪華。夏曲度合いの戦闘力がシンプルに高いのでここに置きました。楽しい。

第6位:見たことない魔物(日向坂46)

 日向坂の10枚目シングル『Am I ready?』に収録されている四期生楽曲。センターは北海道出身の藤嶌果歩さん。すでにnoteでは本楽曲について1記事書いているので大部分はそこを参照いただくとして、各要素については軽めに触れます。

 タイトルと歌詞。「見たことない魔物」というタイトルだけ先に聞いた状態だとどんな楽曲が来るのか、かっこいい系…?なんて想像をしていたけれど、蓋を開けてみるとど直球応援ソングであるというギャップがあります。康は歌詞とタイトルをあんまり結び付けないというか、インパクト先行で最近は付けてる?と感じる楽曲もチラホラありますが、こちらの魔物はまだその効果が裏目には出ていない状態ではあると思います。歌詞においては「見たことない魔物」に対して「僕ら」で立ち向かうぞという流れ。「そう僕を信じてくれないか」には「青春の馬」であり「約束の卵」イズムを感じます。そう、歌詞に夏要素は殆どないと言っていい状態なんですよね。でも後述するメロディーとMVがあまりにも夏なので夏曲カウントしています。正確には「夏曲の皮を被ったど直球の普遍的応援ソング」としての位置づけです
。『大空、ビュンと』が「私、頑張る」だったのに対しこちらは出口が見えない道の途中でも「僕ならここにいるよ」で手をとりともに歩むという。

 メロディー。『荒野の七人』のフレーズが大胆に引用されている(と思われる)のが特徴的ですが、その他にもラスサビでバンッ!と余韻なしに終わらせたりイントロ歌唱の最後の拍を少し短くしている(と思われる)部分があったりと、結構ギミックが盛り込まれているようにも感じます。音像として目立つのはシンセとビート。サビでは打楽器(吹奏楽的な意味での)の響きが夏空への響きを感じさせています。それゆえマーチ感が個人的には強く、分類するなら『世界にはThank youが溢れている』に近いかなと。

 MV。ドレミソラシドを彷彿とさせる「水を抜いたプール」。「好きになっちゃった」にも出てきた。制服で、各メンバーのソロショットが多めの作りもドレミソラシドリスペクトと思っています。青春感をパッケージするには彼女らのそのままを切り取ればいい、という潔さもあります。プールに飛び込んじゃったり、雨の中でもダンスしたり、画面いっぱいに楽しいとキラメキが迸っています。セルフドキュメンタリーの藤嶌さんパートだったかな確か、どこ出典か正確に思い出せないのであれですが、「アイドルになることで普通の青春は送れないと思っていたから、こうしてMVで青春を感じられて嬉しい」といった旨の発言があって、だとしたらこの選択をしてよかったとみんなには思ってもらえればいいなと思うし、応援できればいいなと思ったわけです。TOP10の中ではいちばんポカリスエットCMではある。

第5位:八月(fishbowl)

https://big-up.style/5ikE5Icr3s

 静岡県を拠点に活動する4人組アイドルfishbowlの楽曲。ジャケットはこの構図にピンとくる人もいるかと思いますが、はっぴいえんどの『風街ろまん』オマージュ。

 タイトルと歌詞、メロディー。これら含めサビではEarth, Wind & Fireの『September』のオマージュをやっています。「バーディア それは来月のこと」。「夏だ」からの「めっちゃ熱い波が押し寄せてきます」だったり「砂浜に書いたぜんぜん読めない名前とか恋とかも回収しよ」で情景を描くとともに、「あっちー八月が今年もきたよ」というサビ頭で夏休み感を存分に表現しています。夏曲であっちー夏だ!!という温度感をそのまま持ってくるのはかなり好き。わたしがいちばんこの曲で好きな歌詞は「今年が勝負だからなんですもう、ああ!」です。

第4位:ドローン旋回中(櫻坂46)

 櫻坂46の6枚目シングル『Start over!』のカップリング楽曲。センターは田村保乃さん。スタオバ(表題)や静寂の暴力(三期生楽曲:共通カップリング)については過去記事がありますが、ドローンについても書いていきます。

 タイトルと歌詞。まず曲名だけ出た段階だと「ド、ドローン?!」ってなったのでまあまあ不安だったんですけど、蓋を開けてみれば確かにドローン旋回中のフレーズもそのまま使われてはいるものの、これも夏曲(概念)でした。「ポニーテールの君を追いかけたいけど」「背中を見送るしかできないのか」という康の「僕」らしいスタンス。好きな子がいるけど見つめることしかできない、が多い。スケートボードで飛び出しているのは「ポニーテールの君」なんだよな多分。もはやポニーテール自体に夏の要素が含まれている気がしないでもないです。実際にドローンを飛ばしているかどうかが問題ではなく、「ドローンを飛ばしていつでも君を見つめていたい」くらいに恋心が溢れている。ただ、ドローンであるがゆえにこちらの存在にあちらは気づいていない、この非対称性。たぶん「君」はこっちを見ないのだろうな。とは思います。ただ最後は「ここから恋したい」で締めているので、果たして勇気を出せるのか…!という若干の期待感も感じます。

 メロディー。櫻坂でこのイントロが来るとは思っていないし、ましてやスカ(ムラマサ☆的な)が来るなんてという驚きで圧倒されました。絶対楽しいやつやん、それにタオル曲やん、と初手で確信しました。2サビからの感想ギターソロで拳突き上げちゃうと思います。櫻坂が王道夏曲できるじゃん!!!!って思って嬉しかったんですよね。

 MV。初手に風が吹き込む部屋の中心にノイズが走ったモニターが映り、直後台風の天気図が映し出される時点でまあまあ不穏。しかも何かが激突したような音からイントロがスタートしています。公開当時の様々な感想や考察を眺めていると、MVに出てくるひとりひとりの登場人物は実は死んでいるのではないか、だとかドローンは「どろんどろん」なんじゃないか(下記引用)みたいな節が飛び交っており興味深かったです。お盆に水辺はあかんで絶対に。

 個々の能力だとかについては掘り下げるつもりはないものの、天ちゃんの縁側JKはあまりにもニッポンの夏で正直もうここで100万点あげたい気持ち。夏はきらびやかであると同時に終わりとか死のイメージ(それこそお盆だとか)を内包している概念だと思っているので、歌詞とMVでやってることはぜんぜん違う、ように見えて重ねると別の解釈が生まれる作りにしているのがかなり好きでした。ライブで早く体感したい。

第3位:Summer Glitter(私立恵比寿中学)

 私立恵比寿中学のファミえん23に合わせて出されているデジタルEPの1曲。なのでMVは無いです。エビ中自体は過去の主現場であり9月にもまた行く予定があるので長いスパンで好きなグループなのですが、新メンバーも迎えたこの夏にバチボコ良いEPが出てわたしは大変嬉しいです。(かつて松野莉奈さん推しであり、いまは桜木心菜さん推しです)

 タイトルと歌詞。Glitterとはキラキラそのものでありこれをどう歌詞に反映させるかと思うと、いわゆるキラキラ!!!夏!!海!!水着!!ではなく南国の空気漂うワードが並んでおり一線を画しています。あえて強調するような英語の発音を混ぜたりしているものの、「開くpaletteでI'm a mermaid」だとか「Eye shadowはemerald」とか「恋のモーション」「このシチュエーション」「カラーグラデーション」「君へメンション」「夏のテンション」「イマジネーション」で韻を重ねていくのも良い。波音にノリ踊り出すDance It's summer time!はTWICEの『Dance The Night Away』を思い出します。

 メロディー。の前にSummer Glitterのビジュアルも一時期のヨチンっぽいいう反応も見られましたけど、サウンドとしてはボサノヴァに近いというか、K-POPのフォロワーでもなく、かつて『playlist』などで様々なアーティストとコラボして音楽性の幅を広げていったように「私立恵比寿中学」としてのサウンドをしっかり鳴らしているように思います。砂浜で流したいメロディー。コロナビール片手に。

第2位:あの夏の防波堤(AKB48)

 AKB48の61枚目シングル『どうしても君が好きだ』に収録されている研究生楽曲。MVが無い。なんでだ!!!!!!なので劇場の映像しか多分見られないと思います。ただ、歌詞とメロ、そして劇場公演で体感した個人的なインパクトから2位にランクインしています。

 タイトルと歌詞。「あの夏の防波堤」は非常に完成度高いタイトルだと思います。「あの」夏なのでかつて過ごした季節としての夏、そして「防波堤」という特定の場所。ここにどう歌詞が重なってくるか。冒頭は「海岸線を原付で走る 遠くの岬は僕のこと覚えているかな」と入り、そこから「君と二人でサンダルばきで歩いた砂浜 足跡も残せずに…」と続きます。すでに「僕」は過去の「君」との思い出を回想している、しかも「足跡も残せずに…」だったのはたぶん恋は成就していない(=片想い、しかも告白していない)ことが示唆されています。想いは波のように打ち寄せるけど、好きすぎるが故に「心の中に壁作って自制心の向こうに愛を感じてた」のが「僕」の初恋だったわけです。甘酸っぺえ。「夕陽が沈む水平線は誰かと誰かの曖昧な関係みたいだね」で始まる2番からは時制が進んで行くほか色彩の表現も増えていきます。「ぼんやり滲んだ暗闇に金の波」だったり「星空の防波堤」だったり。隣りにいる君に対して「好き」と打ち明けてしまうと曖昧な関係は崩れてしまう、そこに星ほどの遠さを感じてしまう「僕」の感情よ___。そしてラストでは「東京での暮らしには慣れたかい?」とともに「言い出せぬまま終わったあの初恋」であったことが判明するわけです。たぶん「僕」はまだ「君」を好きで、だからこそ東京に行った「君」のことを想っている、それは本人に伝わらなくとも。その回想にて思い出されるのが「あの夏の防波堤」だったというわけです。素晴らしい。

 メロディー。イントロから勝ちを確信するギター。作りとしてはオーソドックスというか王道というか。ただこのメロディーライン自体AKBが自らの文脈を積み重ねていったことで「王道」になっている楽曲のシグネチャーが入っているわけで、この文脈に対する愛着も多分に入っているところはあります。言ってしまうと新規性や斬新なギミックなんて無いんですけど、ど真ん中150kmを投げ込まれたらたまりませんよという感覚。

第1位:ナツマトペ(=LOVE)

 =LOVEの14枚目シングル表題曲である『ナツマトペ』。佐々木舞香さんと野口衣織さんのWセンター。TIFのイコノイジョイで完全に食らったのもあるんですが、この曲先行で見ていても夏曲ダービーはこの曲を超えてくるものはもう中々現れないと思います。そのくらい夏曲のスタンダードになり得る。

 タイトルと歌詞。ナツマトペ自体は造語で、夏とオノマトペのMIXであるところは容易に想像できるわけですが、歌詞の中にもオノマトペは各所に散りばめられていることがわかります。「飛行機ビュンと飛ぶ」や「ソワソワがひらり舞う」、「キラキラでギラギラな太陽も味方にして」「ドキドキは私だけじゃないはず」だとか。2番でも「うきわプカプカ水がパシャリ跳ねる 心もぴょこん跳ねた」、「もぐもぐしようキンキンシャーベット」が並んでいきます。それらの夏というイメージから想起されるオノマトペに対し、「目に映るトキメキを表す言葉ナツマトペ」とこの一文で鮮やかに定義してしまっているところがこの歌詞の凄まじい部分と思うわけです。

 また、歌詞世界においても「私たち」「みんな」で南の島に行く、「王子様に見せずにプリンセスだけで踊ろう」「王子様は要らないプリンセスだけでいようよ」という恋愛規範の相対化。夏曲といえば恋愛要素、という部分はこれまでも多かったとは思いますが、「私たちの夏」であることをこんなにも鮮やかに爽やかに打ち立てるイコラブ。2023年夏優勝です。

 メロディー。結構ピアノが使われているけれど、これは来る夏に向けてのワクワク感を細やかなピアノの1音1音で表現しているのかなとか。夏の予定が楽しみなときのあの指折り数える感じとか、楽しい予定のまだ帰りたくない感じとか、メロディーよりもその上に乗る歌唱と台詞部分の力が強いのは感じますけれども(代アニ)、声って世界に一つしか無い楽器ですからね。声が強いというのは楽曲における強い武器になります。

 MV。南の島、太陽、カラフル!をやっているので画的にもかなり夏。なんだけど水着とかじゃなくて色とりどりのワンピースとかトップスにショートパンツ、というのがファン層的なイメージでもイコラブだなあと思うし、そこに踏み切れるのが良い。衣装もみんなもめっちゃかわいい。MVにはエンドロールもついてたのでイコラブと過ごした夏という感覚になれます。キラキラな夏の具現化としてのMV。パーフェクト。

おわりに

 というわけで夏曲2023ダービーを書いてみました。お盆休みの方もそうでない方も、夏を感じてくれたら嬉しいです。それでは。

番外編


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