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ゆめにっき どこから罪か

  1. 寝起きでメモした後、その日の内に誤字等をチェックして記録しています

  2. 空気感が印象的な夢のみ、読む際にそれを思い出せそうな文に書き換えることがあります(内容はそのまま)

  3. そもそもメモの精度にムラがあります

  4. 暫くはスマホに残っているストックを載せます


もう出ることは出来ないこの部屋で

高校生の私が、見知らぬ四畳半の部屋で1人寝転がっている
この部屋には家具が全くない
おまけに壁も床も真っ白だ
窓はあるものの、そこから見える景色は隣のアパートの外壁のみ
ただ無に囲まれているという感じだった

私は何をするでも無くボーっと天井を眺めていた
すると、部屋で音が響いていることに気付く
どうやらさっきからずっと鳴っていたようだ
その音は文字に起こすと『ボーン、ボーン』という表現が近く、振り子時計を想起させた

(どこかに時計があるの?)
私はむくりと起き上がり周囲を見渡したが、やはり部屋には何も無かった
この音はどこから聞こえるのか

四方の壁や床、窓の外を覗き調べてみる
それでも音の出所は分からない
調べていないのは出入り口のドアのみになってしまった

(時計は部屋の外にあるのかも知れない)
憶測で結論を出し、私は捜索を諦める
音について探るよりも、ドアに近付きたくない気持ちの方が上回ったのだ
何となく、戸を開けるという行為が怖かった

この時の私は何故か『きっと部屋の外には出られない』と感じていた
ドアノブを捻ると、それが確信に変わってしまうかもしれない
恐れていたのだ

しかし、このままではこれ以上何かが前進することは無い
(これからどうするべきなの…)
窓の先、アパートの外壁を眺めながらため息をつく
手持ち無沙汰で煉瓦の欠けばかりに目が行く

外ばかり見たって仕方が無いので、室内の方へ振り返る
すると、突然2脚の椅子が視界に入る
いつのまにか、部屋の中心に並んでいたのだ
(いつのまに?どういうこと?)
私は思わず駆け寄ってしまう
それは背もたれが木で出来た、小学校の教室でよく使用されているものであった

馴染み深いデザインに何となく安心した私は、
退屈しのぎにと椅子に座ったり持ち上げたりしてみる
「懐かしいな…」
つい過去を思い出して黄昏てしまう

その時、背もたれの裏に赤い油性ペンで文字が書かれていることに気が付く
『5年3組』
そこで私は思い出す

ここは妹の部屋だ



5年3組には、年の離れた妹が通っていた
妹はわがままでひがみ屋で、あまり可愛げのない子供であった

去年のクリスマスだって酷かった
その頃、妹と私はどちらもスマートフォンをねだっていた
しかし希望通りのものを貰えたのは妹のみで、私が貰ったのは振り子時計だった
「元はおじいちゃんの家で大切に使われていたものなのよ~」と母は笑う
ようは、祖父の終活と私のクリスマスをドッキングさせただけであった

内心悲しかったが、プレゼントは気持ちだ
ちゃんとお礼を伝え、折角なので飾る場所を決めることにした

私が時計を抱えてキョロキョロしていると、妹はそれを見るなり『ずるい』と騒ぎ出した
「おねえちゃんだけ変わった時計!なんで!私も時計がいい!」
「スマホなんてやっぱりいらなかった!」
「やだ!スマホも時計も取らないで!」
妹の言動はめちゃくちゃで収拾が付かない
両親もオロオロするだけで、叱りも宥めもしない

気持ちが昂った妹は勢い任せで私に飛びつき、私はバランスを崩す

ガチャン!

「私の時計が!おねえちゃんのバカ!」
先に叫んだのは妹だった
振り子時計のガラス面が割れてしまったのだ
(お前のじゃないんだよ…)

そのまま妹が泣き出したことで、クリスマス会は有耶無耶に閉会した

こういった出来事は日常茶飯事だった
大人気ない私は、日々の繰り返しで徐々に妹を厭悪していった


そんなある日、4ヶ月ほど前だろうか
妹は晴れた空の下をびしょ濡れで帰ってきたのだ
ランドセルは薄ら汚れていて、靴はかたっぽうだけであった

その日を皮切りに、妹は毎日酷い姿で帰ってくるようになった
妹が今学校でどんな目に遭っているのか
そんなことは姿を見るだけで明白であった

私は何もしなかったし、お互い特に会話することもないまま日々は過ぎていった
妹は次第に部屋に篭るようになり、食事もまともに取らなくなってしまった
リビングから口喧嘩が聞こえることも増えた
妹は学校を辞めた

みかねた両親は妹をそのまま祖母の家に預けることに決めた
祖母の家は山奥にあり、簡単に会える距離ではない
両親は「自然に囲まれた環境で~」とかなんとか言っていたが、
妹を鼻つまみ者とし、この家から追い出したいという雰囲気が漂っていた

私がまた傍観していると、あっという間に引越しの目処は立っていった
妹はあっさりと目の前から居なくなってしまったのだ
暫くして両親も離婚した

今私が立っているのは、そんな妹が使っていたあの部屋だ


もうがらんどうの部屋
もう居ない妹
ここが何処か、どうしてすぐ分からなかったのだろう

今思えば、妹に優しくしたこともちゃんと叱ったこともなかった
私はいつだって黙って睨みつけていただけ
でも沢山我慢していた

もっと話し合えばよかったのかもしれない
そんなこと言ったって、私だってお姉ちゃんになりたかった訳じゃない
家から追い出したのも、いじめたのも私じゃない

「どうすればよかったっていうの」

この部屋はその答えが出るまできっと出られない
全てを思い出した私には、ドアノブに触れなくとも分かった
私は椅子にへたり込む

怒っても泣いても、後悔しても開き直っても、もう何もかも遅い
家族はもうとっくにバラバラだ

私も妹ももう等身大で生きることが出来なくなったんだ

答えはきっと出ない
後悔しているのか、理不尽に怒っているのか
どうして今私はここに居るのか
そもそもここは現実なのか
何が何だかさっぱり分からなかった

覆水は盆に返らない

絡んでもつれ、切れた糸は戻らない

そういったことだけが、ハッキリと分かった



※現実では、私に下の兄弟は居ません

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