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金星トラクター工場 チョンリマ-804

・概要


チョンリマ(千里馬)-804は、2016年に開発が完了した新型トラクター。金星(クムソン)トラクター工場の現在の主力生産モデルである。

チョンリマ-804は2016年5月8日に初めて公開された。北朝鮮メディアは100%自国技術で開発した自力更生の創造物と主張しているが[1]、外観と特徴的なカラーリングから、CNHインダストリアル傘下の農業機械・建設業機械ブランド「ニューホランド」が生産しているトラクターを模倣したものであることが分かる。より厳密には、CNHグローバル社とSAIC(上海汽車集団)の合弁会社である上海ニューホランドのトラクターを輸入し、部品の国産化を取り入れたものと見られる。
なお、開発完了が報道される一ヶ月前の4月7日に開催された太陽節慶祝国家産業デザイン展において既にチョンリマ-804の図案が公開されており、報道内容から金正恩自らが計画段階から指導という形で関与していたようだ[2]。

チョンリマ-804(arirangmeari)
国家産業デザイン展のチョンリマ-804の図案(KCNA)


朝鮮の新たな技術力の一つとして、チョンリマ-804は2016年5月の機械設備展示会にて勝利自動車連合企業所の新型貨物車トラックや清津バス工場のジプサン-2などと共に展示され、金正恩も視察した[3][4]。

金正恩元帥は、金星トラクター工場で作った新型の80馬力トラクターを見た。 すべての技術的性能が世界的水準に堂々と上がった能力の大きい新型のトラクターを100%われわれの力と技術で作ったのは、大した成果であると大きな満足の意を表した。

"金正恩元帥が機械設備展示場を視察" (KCNA)
機械設備展示会でチョンリマ-804を見学する参加者たち(KCNA)
チョンリマ-804に乗る金正恩(KCNA)

2017年には量産に移行しており、同年11月15日の報道では金正恩が金星トラクター工場を現地指導し、そこで大量に並んだチョンリマ-804の内の1台を試乗する様子が公開された[5]。チョンリマ-804は従来の古いトラクターに代わる主力として今日に至るまで量産が続けられ、従来の国産旧式トラクターや外国製トラクターと混じって各地で導入されている。

また、労農赤衛軍ではロケット砲などを牽引する役割を果たしており、2021年の共和国創建73周年慶祝民間及び安全武力閲兵式に初めてオリーブドラブ色に塗装された軍用仕様が登場した。これまでにもチョンリマ-28が同様の役割で使用されており、チョンリマ-804も労農赤衛軍で牽引車輌として活用していると見られる。

運転席に座って自ら運転する金正恩(KCNA)

・チョンリマ-804の詳細

ネナラによれば、チョンリマ-804のスペックは以下の通り。

△仕様
駆動形式:4輪型
エンジン形式:4サイクルの直列水冷式直接噴射ディーゼルエンジン
シリンダー数:4つ
シリンダー直径×ピストン行程:110×125(mm)
運転出力:80㏋(58.8㎾)
定格回転数:2200r/min
燃料消費量:175g/(㏋×h)
圧縮比:17
エンジン重量:490kg
牽引力:17kN
回転半径:4000mm
最小作業質量:3800kg(質量錘を含む)
変速段数:前進12段、後進12段
最大速度:33.75km/h

"「チョンリマ-804」号トラクター(ネナラ)"[6]

スペックの80馬力と四輪駆動は名称に反映されており、チョンリマ-804の「80」は馬力、「4」は4気筒を意味する。

外観は前述の通り上海ニューホランド製トラクターを模倣したものだが、スペック上はSNH804に近く、ホイールはSNH904に近い等細かい差異が見られる。完全なコピーではなく、国産化した部品を組み込んだ自国生産に適応させるため変更が加えられていると思われる。内装も従来の国産トラクターから格段に近代化されたものとなっている。

運転席(KCTV)
チョンリマ-804とSNH804の運転席の比較(KCNA、Alibaba.com)[7]

量産が続けられているチョンリマ-804だが、日本などのような厳密な規格に基づいたきっちりした量産車ではなく、細かく見ると微妙に差異がある個体が見られる。例えば、ウィンカーが横形と縦形の二種類が混在する他(ウィンカー自体未装備または取り外したものも存在)、フロントタイヤのボルト数が8本から6本に減らされたものや、何らかの理由でヘッドライトが小さな円形タイプになったもの等である。この辺りは北朝鮮で国産として生産される乗り物に共通する部分であり、技術的に完全な規格通りの量産が難しく、結果として微妙な差異が生まれてしまっているのだろう。

ロールーフとハイルーフ。実際は後者が多く生産されている(ネナラ)
良い業績を収めた農場に送られたウィンカーレスのチョンリマ-804(労働新聞)
シャシー部分。まだリムが赤色で、この後白く塗装しているようだ(arirangmeari)
小さな円形タイプのヘッドライトを装備したチョンリマ-804。左は初の国産トラクターのチョンリマ-28(労働新聞)
生産途中の様子(KCNA)
2021年9月9日の共和国創建73周年慶祝民間及び安全武力閲兵式に登場したチョンリマ-804。122mmロケット砲を牽引している(労働新聞)

2024/1/3追記

2023年12月26日、労働新聞は新型の80馬力トラクターを完成させたと報道。このトラクターはチョンリマ-804カ (천리마-804가) という名称であり、新型のトランスミッション搭載や滑らかなエンジンカバー等がアピールされているが、実質は新型というより改良型と思われる[8]。外観上はチョンリマ-804によく似ているが、フロント左のエアフィルターで区別できる。

チョンリマ-804カ(労働新聞)
「農業機械工業発展-2023」で展示されたブルーのチョンリマ-804とレッドのチョンリマ-804カ(KCNA)[9]


・出典


[1] 당 제7차대회에 드리는 로력적선물, 금성뜨락또르공장에서 새형의 80hp뜨락또르를 개발http://www.arirangmeari.com/index.php?t=news&no=362

[2] 国家産業デザイン展が開幕 http://kcna.kp/jp/article/q/6fdb24c01994aa0921a262e0ae4483851cfd6beecb3161b69e582ab5b8ecfeda66e9f5e074f5e6fca8e180419aea1130.kcmsf

[3] 金正恩元帥が機械設備展示場を視察
http://kcna.kp/jp/article/q/b6bc1eef2f3ade46f15226c66d05cc79.kcmsf

[4] 朝鮮労働党第7回大会の参加者が機械設備展示場を参観http://kcna.kp/jp/article/q/6fdb24c01994aa0921a262e0ae4483851cfd6beecb3161b69e582ab5b8ecfeda6ab55724ba588d1dd0f0dfa4822eeb9c.kcmsf

[5] 金正恩党委員長が金星トラクター工場を現地指導
http://kcna.kp/jp/article/q/7a8b3f14a38b52c225e5ebe44205b8cf.kcmsf

[6] 「チョンリマ-804」号トラクター http://naenara.com.kp/main/search_first?sVal=%E3%83%88%E3%83%A9%E3%82%AF%E3%82%BF%E3%83%BC&csrf_test_name=9bb2c5e59592290a3a3860f4371003fa

[7] https://m.alibaba.com/product/1600459734269/Used-New-Holland-SNH804-80HP-Agricultural.html

[8] 새형의 80hp뜨락또르 개발완성 금성뜨락또르공장에서
http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?OEAyMDIzLTEyLTI1LU4wMDNAMTlAQOucqOudveuYkOultEAxMTA=

[9] 金正恩元帥が農業機械展示会場を見て回る
http://kcna.kp/jp/article/q/61e489a154d56184fb258ec379056459.kcmsf

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