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平壌に新しく出来た電気自動車ショールーム

平壌市の和盛 (ファソン) 区域は金正恩総書記の指示の下、2022年から1万世帯用住居の建設が急速に進められ、ランドマークとなるタワーや清涼飲料店等が多く立ち並ぶ新興区域である。

その中にマドゥサン電気自動車展示場 というショールームがある。2023年4月にネット上に投稿された写真には和盛区域の通りに立つ店舗の外観が確認できる他、微博に投稿された動画には店内の様子が映し出されている (現在当該動画は削除済み)[1][2]。

左がマドゥサン電気自動車展示場 (微博)
場所はここと思われる (Google Earth)

この施設には、中国の新型電気自動車 (EV) が数台展示されている。現在積極的にEVを生産するBYDの元プラス、秦プラスEVの2種類だ。元プラスは2022から生産が開始され、ATTO 3として海外にも展開。日本では2023年1月から販売が開始されたコンパクトクロスオーバーSUVである。一方秦プラスは2021年にデビューした4ドアセダンで、プラグインハイブリッドのDM-i、バッテリー式EVのQin Plus EVがある。マドゥサン電気自動車展示場にある秦プラスは後者で画像では4台の秦プラスEV、1台の元プラスが確認できる。

3台の秦プラスEV (微博)
左が元プラス (微博)

更に、2024年6月16日にYoutubeチャンネルのPaektuTVがマドゥサン経済連合会という対外貿易会社のPVを投稿[3]。映像ではガソリンスタンド経営、マドゥサンブランドのスマートフォンや海上輸送等の紹介に加えて、電気自動車の輸入と販売を活発に行うと主張する映像ではBYDの漢EV (Han EV) が雨の中の和盛区域を走る姿がCGやドローン撮影を駆使しつつ演出されている。漢は2020年から生産されているEセグメントセダンだが、映像に映るのは2022年のフェイスリフトでフロントマスクとリアエンドのデザインが変更された漢EVである。

なお、映像では最大走行距離を720kmとしているが、これはBYDの公式発表とは異なる虚偽の数値である。複数のバッテリー搭載モデルが存在するが、その中でも最長のモデルの数値 (715km) を上回る[4][5]。それ以外のスペックについては言及されていない。

「最大走行距離720km」(PaektTV)
水しぶきを上げながら走る漢EV (PaektTV)
「マドゥサン電気自動車技術交流所は、海外の有力な電気自動車生産会社、電気自動車サービス会社との協力と交流のもと、電気自動車の輸入と販売を積極的に行っています。」(PaektTV)
リアはナンバープレートレスだが、北朝鮮でナンバープレートを隠す際に使用されるボカシ処理が見える (PaektTV)
フロント中央にあるはずの「汉」エンブレムが隠されている (PaektTV)
別のカットでは無加工のため見えてしまっている (PaektTV)

映像ではブラックの漢EVが走行し、途中でスーパーカーらしき車が数台ハイウェイを走り抜けるCGが挿入された直後に走行中を横から捉えたカットに入る。スピード感を出しているつもりなのだろうか……。なおこのシーンはフリーのイントロメーカーのテンプレートを使用しているようだ[6]。
最後は展示場に入庫、フロントの「マドゥサン電気自動車」のナンバープレートにズームアップして終了。

海外のイントロメーカーを使用したシーン。「徳川」「平壌」の標識がある (PaektTV)
展示場内。左端は元プラス、右に秦プラスが並ぶ (PaektTV)
「マドゥサン電気自動車」(PaektTV)

マドゥサン電気自動車技術交流所は電気自動車の輸入と販売を謳っているが、自動車が個人所有ではなく国の所有となる北朝鮮では、そもそも自由に個人で購入できない。マドゥサン電気自動車展示場も名前の通り単に他国の最新EVを見せびらかすショールームに過ぎないので、あくまでもプロパガンダである。ただ、個人的には興味を惹かれる存在なので、今後どう扱われるか、展示車両に何か変化があるか注視をしてみたい。

画面音楽「輝く祖国」に登場したマドゥサン電気自動車展示場。左右に秦プラスEVがある (KCTV)


参考資料

[1] North Korea imports new Chinese electric vehicles for self-branded showroom

[2] 北, '전기차 전시장' 있다는데 목탄차는 아직도

[3]

[4]

[5] BYD Han - Wikipedia

[6]


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