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水行肝文のラップパート

【水行肝文とは】

日蓮宗大荒行などで行われる水行
その時に唱えているのは「お経」ではなく「肝文」と言われるものです
私の家族からは「お歌」、利用しているSNSにおいても「歌詞」などと言われ、抑揚があるので確かに「歌」とも受け取れるかもしれません
どちらにせよ興味を持ってもらえてとても有難く存じます
自らの知見を広める為にもその内容に触れてみたいと思います

【ラップパートってどういうこと?】

ラップパートなんてものは本来ありません
先述したSNSにおいて肝文の解説をする際に印象付けるために咄嗟に出てきてしまったパート分けから生まれてしまいました
一番速く読み上げて、いざ水を被るぞ!という大変盛り上がる(?)ところなのでインパクトが欲しかったんですね(遠い目)

【肝文の全文】

SNSで解説した内容に即してそれぞれのパートごとに直訳や適宜解説を入れていきたいと思います

(Aメロ)
若持法華経 其身甚清浄 不染世間法 如蓮華在水 得聞此経 六根清浄 神通力故 増益寿命
頭頂礼敬 一切供養 面目悉端厳 為人所喜見 口中 常出青蓮華香 合掌以敬心 欲聞具足道 身意泰然 快得安穏 婬欲皆已断 純一変化生 有大筋力 行歩平正
(Bメロ)
謹しみ敬って言上し奉る、南無仏、南無法、南無僧、南無本師釈迦牟尼仏、南無一乗妙法蓮華経、南無末法唱導師日蓮大菩薩、護世護法之天神地祇、別しては法華行者擁護、南無鬼子母大善神・十羅刹女、経王瓶水無漏相承修法之先師、常修院日常上人 佐渡阿闍梨日向上人 最蓮房日浄上人等、先師経王院日祥上人 心性院日遠上人 仙寿院日閑上人 遠寿院日久上人 智泉院日住上人等、祈禱勲功之先哲、各々来臨影嚮知見照覧なさしめ給へ
(Cメロ)
仰ぎ願わくば、天地清寧妙法広布、天長地久、五穀豊穰、国家安全、万民快楽、遠近檀越現当願満、沙門某罪障消滅、降伏怨魔経力不唐、加行成弁、感応道交
(ラップパート)
真観清浄観 広大智慧観 悲観及慈観 常願常瞻仰
無垢清浄光 慧日破諸闇 能伏災風火 普明照世間
悲体戒雷震 慈意妙大雲 澍甘露法雨 滅除煩悩焔
(サビ)
澡浴塵穢 着新浄衣 内外倶浄 安処法座
(賢者タイム)
我不愛身命、但惜無上道、一心欲見仏、不自惜身命、如那羅延堅固之身、世尊大恩以希有事、憐愍教化利益我等、乃能問釈迦牟尼仏、如此之事利益無量一切衆生、有供養者福過十号、是真精進 是名真法 供養如来
南無妙法蓮華経
是人意清浄 明利無穢濁     六番神咒

【Aメロ】

水行をすることで得られる功徳などを法華経の中から引用して唱え上げます
*[数字]は法華経の品数(方便品第二なら[2])を指しています
(引用『法華経(上中下3巻)』岩波文庫)

若持法華経 其身甚清浄 [19]
(にゃくじほけきょう ごしんじんしょうじょう)
若し法華経を持たば その身甚だ清浄なること

不染世間法 如蓮華在水 [15]
(ふぜんせけんぼう にょれんげざいすい)
世間の法に染まらざること 蓮華の水に在るが如し

得聞此経 六根清浄 神通力故 増益寿命 [20]
(とくもんしきょう ろッこんしょうじょう じんつうりきこ ぞうやくじゅみょう)
この経を聞くことをえて 六根清浄なり 神通力の故に 寿命を増益して

頭頂礼敬 一切供養 [4]
(ずちょうらいきょう いッさいくよう)
頭頂をもって礼敬し 一切をもって供養すとも

面目悉端厳 為人所喜見 [18]
(めんもッしッたんごん いにんしょきけん)
面目(おもざ)しは悉く端厳にして 人に見んと喜(ねが)わるることをえん

口中 常出青蓮華香 [23]
(くうちゅう じょうすいしょうれんげこう)
口の中より常に青蓮華の香を出し

合掌以敬心 欲聞具足道 [2]
(がッしょういきょうしん よくもんぐそくどう)
合掌して敬心をもって 具足(完全な経)の道を聞きたてまつらんと欲す

身意泰然 快得安穏 [3]
(しんにたいねん けとくあんのん)
身も意も泰然として 快く安穏なることを得たり

婬欲皆已断 純一変化生 [8]
(いんよくかいいだん じゅんいちへんげしょう)
婬欲を皆、己に断じたれば 純一なる変化生にして

有大筋力 行歩平正 [3]
(うだいごんりき ぎょうぶびょうじょう)
大筋力あり 行歩すること平正にして

【Bメロ】

通常で言うところの「勧請」になります
如来、菩薩、天人や先師をお呼びして、「これから水行するから来てください」とお願いしている箇所になります
私の知る限りの解説を加えさせていただきます

南無仏=南無本師釈迦牟尼仏
南無法=南無一乗妙法蓮華経
南無僧=南無末法唱導師日蓮大菩薩
護世護法の天神地祇(すべての神々)
法華行者を擁護する南無鬼子母大善神・十羅刹女
先師の勧請、常修院日常上人・佐渡阿闍梨日向上人・最蓮房日浄上人・先師経王院日祥上人・心性院日遠上人・仙寿院日閑上人・遠寿院日久上人・智泉院日住上人等

【Cメロ】

お願い事をしているようなところです

天地清寧妙法広布
天地が清らかで安寧していて広く正しい教えが皆に届き

天長地久
天地は永遠に変わらず物事がいつまでも続き

五穀豊穰
五穀に恵まれ

国家安全
国が安全であり

万民快楽
すべての人々が快く過ごし

遠近檀越現当願満
檀家や信者の現世と来世の願いが満ち

沙門某罪障消滅
修行する私も罪障が消え

降伏怨魔
悪いものは無くなり

経力不唐
お経の力はむなしくなく

加行成弁
この行いによって願いが叶うことを

感応道交
仏と人、またそれぞれの思いが互いに通じ合うことを

【ラップパート】

水行の際に水を被る直前の所作が入るところで、特に速く読み上げるため一部の方より「ラップパート」と認識されたためそれを採用しました

観世音菩薩普門品第二十五の偈言の一部であり、無尽意菩薩が「なんで観世音っていうのですか?」と尋ねている章。お釈迦様がそれに対して「この娑婆世界において三十三の姿となって苦しむ衆生を救済する菩薩だから」と説き、それを聞いた無尽意菩薩が感動して語った偈言の箇所です

真観清浄観 広大智慧観
(しんかんしょうじょうかん こうだいちえかん)
真の観・清浄の観 広大なる智慧の観
(輝かしい眼の持ち主よ、慈眼の持ち主よ、理知と智慧の顕著な眼の持ち主よ)

悲観及慈観 常願常瞻仰
(ひかんぎゅうじかん じょうがんじょうせんごう)
悲の観及び慈の観あり 常に願い常に仰ぎ見るべし
(憐みの眼をもち、清浄な眼の持ち主よ、美しい顔と美しい眼を持つ愛らしい者よ)

無垢清浄光 慧日破諸闇
(むくしょうじょうこう えにちはしょあん)
無垢清浄の光ある 慧日は諸の暗を破り
(汚れなく濁りなき輝きある者よ、暗さのない智慧の持ち主よ、太陽の輝きをもつ者よ)

能伏災風火 普明照世間
(のうぶくさいふうか ふみょうしょうせけん)
よく災いの風と火を伏して あまねく明らかに世間を照らすなり
(吹き消されることのない燈火の輝きのある者よ、汝は照り輝いてこの世を照らす)

悲体戒雷震 慈意妙大雲
(ひたいかいらいしん じいみょうだいうん)
あわれみの姿たる戒は雷を震うがごとく 慈しみの意は妙なる大雲のごとし
(憐みの徳を持ち慈しみを轟かせ、勝れた徳と慈悲の心を持つ大きな雲のごとき者よ)

澍甘露法雨 滅除煩悩焔
(じゅかんろほうう めつじょうぼんのうえん)
甘露の法雨を注ぎて 煩悩の焔を滅除す
(人間どもの煩悩の火を鎮め、汝は甘露である教えの雨を降らす)

【サビ】

水を被りながら唱える文言です
一部の方からは「サビ」と呼ばれるようになりました
教えを説く場所「法座」に着く前に身を清めていることを言っています

澡浴塵穢 著新浄衣 内外倶浄 安処法座 [14]
(そうよくじんね ぢゃくしんじょうえ
 ないげぐじょう あんじょほうざ)
塵穢れを洗い 新浄の衣を着て 内外ともに浄くし 法座に安処して

【賢者タイム】

水行の後に訪れる清々しい気持ちの中で唱える文言です
実はこのnoteを書くまでよくわからずに唱えていました(汗)

我不愛身命 但惜無上道 [13]
(がふあいしんみょう たんじゃくむじょうどう)
我は身命を愛せずして 但、無常道のみを惜しむなり

一心欲見仏 不自惜身命 [16]
(いッしんよくけんぶつ ふじしゃくしんみょう)
一心に仏を見奉らんと欲して 自らの身命を惜しまず

如那羅延 堅固之身 [24]
(にょならえん けんこししん)
那羅延(ヒンドゥー教の神)の堅固の身の如し

世尊大恩 以希有事 憐愍教化 利益我等 [4]
(せそんだいおん いけうじ りんみんきょうけ りやくがとう)
世尊は大恩にましませば 希有の事をもって 憐愍し教化して われ等を利益したもう

乃能問 釈迦牟尼仏 如此之事 利益無量一切衆生 [23]
(ないのうもん しゃかむにぶつ にょししじ りやくむりょういッさいしゅじょう)
乃ち能く釈迦牟尼仏に、かくの如きの事を問いたてまつりて、無量の一切衆生を利益せり

有供養者福過十号
(うくようしゃふくかじゅうごう)
供養するもの有れば 福は十号(如来の十号)に過ぎたらん

是真精進 是名真法 供養如来 [23]
(ぜしんしょうじん ぜみょうしんぽう くようにょらい)
これ真の精進なり これを真の法をもって 如来を供養すと名づく

南無妙法蓮華経×3
(なむみょうほうれんげきょう)

是人意清浄 明利無穢濁 [19]
(ぜにんいしょうじょう みょうりむえじょく)
この人の意(こころ)は清浄 明利にして穢れなし

六番神咒
(ろくばんじんしゅ)

【まとめ】

Aメロ
水行をすることで得られる功徳

Bメロ
それを見守る仏様や諸天善神、先師先哲を呼び出す

Cメロ
世の中が良くなるように祈る

ラップパート
衆生を救ってくれる観音様を称える

サビ
身を清めることで人の前に立ち正しい道のりを示す

賢者タイム
自らはその命と引き換えに人々に救いがあることを祈り、またそれに供養する人は如来ともいえる存在に成りうる
これらは正しき行い、教えであって仏様への供養ともいえる
こころは清らかで幸福であり汚れることは無い

【最後に】

思ってた以上にすごいこと唱えているなぁって思いました(まるで他人事)
しかしながら、「身を清める」行為とはわかっていましたが、これほどの思いが込められているとは考えもしませんでした
(実際、修行の最中はそれどころではなかったので、今になってその真髄に近づけたかもしれません)
最後になりましたが、10月1日~3月31日まで、毎朝6時を基本としてこの水行を行っています
配信も行っていますので、ご興味のある方はどうぞご覧ください(アーカイブも少し残っています)https://twitcasting.tv/choribeans

今後、きちんとした解釈など、気が付いた際には記事の更新を行いたいと思います

難解、駄文等、読み苦しい箇所もあったかと思いますが
最後まで御拝読いただきありがとうございました
質問等があれば可能な限りお応えしたいと思いますので、今後ともよろしくお願い致します

合掌

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