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番外編:エドワード直筆メッセージ

 草いきれのする風が、頬に心地よい。太陽は、思い思いに休日を謳歌する人々を、優しく照らしていた。

 エドワードは、木陰のベンチに腰掛けて、ぼんやりと賑やかな公園の空気に身を委ねていた。

 特に予定のない休日は、こうして緩やかな時間を過ごすことが多い。散歩中の犬を眺めたり、野良猫の昼寝を遠巻きに見守ったりして、肩の力を抜くのも、時には必要なことだ。

「おーい! 騎士の兄ちゃん!」

 意識が大気に溶けかけていたエドワードに、ひとりの少年が、大声で手を振った。

 きっと、クリケットにも、スキットルにも飽きてしまったのだろう。地面に書かれた即席のコートは線がかすれ、ピン代わりの空き瓶が、そこら中に散らかっている。

「ジョージ。どうした?」

「兄ちゃん暇そうだし、一緒に遊ぼうぜ!」

「うん。別に構わないけど、何をするんだ?」

 ジョージは、この公園の近所に住んでいる。一度、梢の上に引っかかってしまったボールを取ってやってから、こうして何かと遊びに誘ってくるようになった。

「お絵かき! エイミーが紙持ってきたから、誰が一番かっこいいヒーロー描けるか勝負してるんだ。兄ちゃんも描いてよ。」

 ジョージは、言うが早いか、エドワードの手を引っ張ってずんずん進んでいった。

 エドワードは前屈みになりながら、子供達の輪の中へ入っていく。数人で輪になって、寝そべったり、膝を立てて座り込んだりしながら、思い思いに筆を走らせている。

「あら、騎士のお兄さんじゃない。一緒にお絵かきしてくださるのね!」

「うん。ヒーロー描けばいいんだっけ?」

 エドワードは、エイミーから紙とペンを受け取ると、彼女の隣にどっかりと腰を下ろした。

「そうよ。とびっきりのヒーローを描いてくださいな!」

 エイミーは、太陽よりも眩しい笑みを浮かべると、再び紙と向き合い始めた。

 エドワードも、彼女にならってペンを握る。とびっきりのヒーローと言えば、やはりひとりしかいない。子供達にも分かりやすいように、簡単な文章を添えて――。

 

 

 

「それでエディは、この絵を描いた訳か。」

「はい。俺の中でヒーローと言えばサミュエル兄様ですから。そうしたら、自分の分も描いてとせがまれました。」

 エドワードが描いた味のある絵を眺めながら、サミュエルは微苦笑を浮かべた。

 真面目な顔で、照れもせずに言い切るのだから、おかしいやら面映ゆいやら、不思議な気分である。

 彼の日記の端に描かれている絵も昔から似たような画風だが、これは一等趣があるように思えた。

「エディ。これ、貰っても構わないかい?」

 サミュエルが問いかけると、エドワードは太い眉をぴくりと上げた。金色の瞳が、心なしか輝いている。

 サミュエルは、返事の代わりに微笑みをひとつ送ると、二枚の紙を優しく懐にしまい込んだ。

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