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本屋での「夜ばなし」と、僕たちの夏休み。

はじめは、会いに行くつもりだった。

会いに行くつもりだったけれども、気づいたら会いにきてくれていた。この日を迎えるまでに僕の周りで起きたいくつもの出逢いを、そして繋がりを。どう表現したらいいのだろう。


さかのぼること、1年3ヶ月前。

僕はいくつかの出逢いを書きしたためていた。

小鳥書房さんとの出逢い。本屋ウニとスカッシュさんとの出逢い。文芸ユニットるるるるんさんとの出逢い。そして、この記事を読んでくださったmakijakuさんとの出逢い。(既に6回も「出逢い」が登場している…!)

この記事を簡潔に振り返ると、「東京の本屋さんに地元長崎の本屋さんを教えてもらいました」という内容だったのだけど、今日の記事は「東京の本屋さんを地元長崎の本屋さんに連れて行ってしまいました」(やったぜ!)というお話。

どうか最後まで、お付き合いいただけるとうれしいです。

makijakuさん、落合さん、もりきょん、河原さん、ぼく。

7月17日に横浜で行われる友人の結婚式に出席することになっていた僕は、ここしかチャンスはない! と思い立ち、小鳥書房の店主・落合さんに「小鳥書房へ遊びに行きたいです」とメールをお送りしました。

しかしながら、その日は定休日。〈本屋夜話「小鳥書房文学賞」詞華集〉のプロモーションの時期と重なっていたこともあり、「お会いしたかったのですが、ぜひまた次の機会に…!」というお返事が届きました。

「そっか~そうだよね~~~」と肩を落としていた僕……だったのですが、続けてきたメッセージを見てびっくり仰天。なんとその翌週に福岡に行かれる予定があるとのこと。

「なにか一緒にできそうであれば、それを口実に長崎へ行けるかもしれない」とお話をいただいたので、大急ぎでもりきょん「落合さんが来てくれるからイベントやろう!」と猛烈アピール。こうして、今回の催しを行うに至りました。

『本屋夜話「小鳥書房文学賞」詞華集』が届く

「どんな企画をやりましょうか」と話を進めていく中で、落合さんは僕ともりきょんがTwitterのスペース配信で行った〈るるるるんの読書会〉をたびたび話題にあげてくれました。

僕がプレゼントした『るるるるん』を読んだもりきょんが、「おもしろすぎる、読書会やってみたい」と言ってくれたことがきっかけで実現した、2人にとって初めての読書会。

あれを聴いた次の日から『るるるるん』を読み始めました。2人が『本屋夜話』の読書会をしてくれたら、興味を持ってくださる方がいると思うんです。(落合さん)

読書会のいろはも分からないまま行った配信に、そこまでの価値を感じてくださっていたことがとても嬉しくて、「これは読書会をやらねば…!」とあたたかい(というより熱い)気持ちになりました。

そして、献本していただいた本が届いた日の夜。

「僕たち〈てんびん座〉の考えをまとめて、落合さんの意見も聞いてみよう」ということで、じっくり打合せをすることに。

(届いた喜びを落合さんへびゅんびゅん飛ばす僕たち)

ぼく「落合さんだけに届けるライブ配信!」
もりきょん「公開ラブレターですね」

いつものようにゆるゆると話し始めた僕たちから落合さんに提案したことをざっくりまとめると、このような感じでした。

  • 〈てんびん座〉の2人で『本屋夜話』の読書会をしたい

  • 小鳥書房文学賞や小鳥書房、落合さんのお話を聴きたい

  • 本とのかかわり方(書く人、編む人、届ける人)が異なる人たちでお話がしたい

  • 参加者さんをまじえて本屋夜話を交わしたい

「夜話」という言葉には、"夜にする話"、"気軽に聞ける話"、そして"それらを書き記した本"という意味があるそうです。陽が落ちた谷保のまちに、ひっそり息づくダイヤ街商店街。橙色の光に包まれた夜の小鳥書房には、まちのみなさんがさまざまな話を持ち寄ってくれます。人びとが緩やかに溶け込むこの空間で、これまでいくつの物語が紡がれてきたでしょう。このような夜の小鳥書房のあたたかい雰囲気の中で、作者のみなさんや読者のみなさん、そして小鳥書房の私たちが、ひとつひとつの作品を通して「夜ばなし」をかわすあの時間を、この本を通して少しでも体現したいのです。
(『本屋夜話「小鳥書房文学賞」詞華集』あとがきより)

そして、前回の記事でも引用させていただいたこちらの一文に心打たれた僕が一番伝えたかったこと。それは、落合さんがこの本を通じて体現したいと話す「夜ばなし」をかわす時間を、長崎の本屋さんで、僕たちなりの形で届けたい。そして、「夜ばなし」を交わす時間をともに過ごすことで、『本屋夜話「小鳥書房文学賞」詞華集』に興味を抱いてほしい。ということでした。

届いたばかりで物語は読めていませんでしたが、あとがきに綴られていた落合さんの想いを、参加される方に少しでも感じていただきたかったのです。

およそ1時間にわたる公開ラブレターでしたが(長い!)、落合さんはお忙しい中でも「受け取りました!」と、丁寧にお返事をくれました。本当にありがとうございます……!

こうして、かけ足の企画はまたたく間に固まり、いよいよ告知がスタートします。

そして小鳥が舞い降りる

とってもありがたいことに定員10名の枠は日ごとに埋まっていき、開催2日前にして満員御礼。初めてのイベントということで不安もありましたが、ウニスカの河原さんも店内にフライヤーを掲示してくださったりなど、たくさんの方が力を貸してくださったこともすごく嬉しかったです。

そしてその日、落合さんがついに長崎の地へ降り立ちました。

朝から激しい風雨に見舞われた長崎でしたが、午後からは晴れ間の戻る回復っぷり。まち全体で落合さんを歓迎しているような空模様にわくわくしました。

落合さん、河原さんと夜ごはんの約束をしていた僕たちが向かったのは、海鮮台所 さかなや。地元で採れた新鮮なお魚が食べられるお店だったのですが、お刺身が出てきてはぺろり。揚げ物が出てきてはぺろり。もりきょんはけっこう食べる方だけど、落合さんもけっこう食べる。連れてきて良かった~! と嬉しくなりました。

本屋さんの話をしたり、出版についてのお話を聴いたり、2日後にイベントが迫っているというのに、みんながみんな惜しげもなく話すもんだから楽しくなって、当日まであたためておこうと思っていた『本屋夜話』の推しの1話までしっかり暴露してしまう。

それからかにやのおにぎりを食べて、河原さんとばいばいして、3人で湊公園に行って夏休みを満喫しました。終わらなければいいのに。そう思ったけど、終わらないと夜話できない。のどまで出かかった言葉を飲み込む。

結婚して子どもが生まれてから、初めての夜更かしだったと思います。この時間を許してくれた家族にもありがとう。

ながさき本屋夜話、当日。

(まさかの漫才スタイル、M-1かと思った)

ここからは、イベントの流れに沿って振り返っていきたいと思います。


〈てんびん座〉の読書会

「お互いに、推しの1話について話そう」と決めていた読書会。もりきょんもどこかのタイミングでながさき本屋夜話を振り返ってくれると思うので、この記事では僕の推しを紹介させてください。

僕が選んだのは、『鳴いて、そして香れば』(鞠子まりこさん)。

12話のどれもがおもしろくて、ひとつひとつのおもしろさも色がちがったので、僕はおもしろさで選ぶことができませんでした。けれども、僕はこの作品の冒頭3行を読んだときに「推しはこの物語だ」と瞬時に判断していました。言葉の美しさに惹かれたんだと思います。

なんでもない景色の中に紛れる、なんでもない人が、なんでもない暮らしを送っている。見上げた空の鳥はもちろん、他者の描写が多いことも興味深くて、「ここで描写されたあの人には、どんな物語があるんだろう」と思わずにはいられませんでした。

僕はなんでもない日にケーキを買って帰ることも多いし、いちいち落ち込むくせに寝ると忘れてしまう。どうしてこの人は、そんな日常をここまで美しく表現できるのだろう。どうしてこの物語は、どこまでも身近に感じられるのだろう。

記事に残るので物語の深い部分には触れませんが、僕はこの物語を読んだことがきっかけで、広辞苑を買ってしまいました。いつか、著者の鞠子まりこさんとお話ししてみたいです。

落合さんと小鳥書房、そして文学賞の話

続く2部では、落合さんにもお話しいただくことに。(僕ともりきょんの間に落合さんが立たれたので、漫才スタイルからブルゾンちえみ with Bスタイルに進化しました)

今からおよそ7年前に立ち上げられたひとり出版社、そして小鳥書房のお話からスタートしたのですが、このあたりから参加してくださったみなさんが会話に入ってきてくださいました。

「本を企画する上で大切にしていることは?」「編集者って何をするの?」という質問や、「どのくらい売れたらペイできるんですか?」と踏み込んだ話まで。ひとつひとつの質問に丁寧に答えていく落合さんの姿が、とても印象的でした。

僕自身が特に記憶に残っているのが、出版社に勤められていた頃のお話。「目の前にいる人を大切にしたいけれども、売れないことを理由に本にすることができない。そういう部分に限界を感じていた」という想いを抱えていた落合さんが、自分が命をかけて、自分さえ生きていれば届けられる出版社をつくりたいと決心して生まれたのが小鳥書房。

商売をすることで暮らしが成り立っていることはもちろんだけれど、そこで命をかけてと表現される人は多くありません。たとえ、心の中で思っていたとしても。落合さんがたびたび話されている「50年続く本屋さん」への覚悟のようなものが垣間見えた瞬間だったように思いました。

書く人、編む人、届ける人の話

最後に、いろんな角度から本に携わる4人でトークセッション。まずは、河原さんが『本屋夜話』を仕入れたきっかけのお話からスタートしました。書籍そのものの佇まいや、宣材写真のかっこよさ。そして、気軽に読める短編であったことなどが理由だとか…!

「仕入れた本は売らなければいけないので、はじめは少部数から」と話す河原さんでしたが、『本屋夜話』を読んだときに確かな手ごたえを感じられたそうです。

1冊の本を何度もSNSに掲載することは少ないけど、この本に関しては1話読むごとにストーリーズにアップしてました。

このひと言にもまた、『本屋夜話』の魅力が詰まっていました。

そして、出版社でありながら本屋さんも営まれている落合さんは、選書の際に「届けたい人の顔が浮かぶか」「作り手の顔が見えるか」といった部分を大切にされているそうです。これには河原さんも大きく頷かれていました。

その中で、小鳥書房では『本屋夜話』と『ウニスカ開業記』が並んでいるという話も出てきたのですが、もりきょんが話していた言葉もグッときたので紹介させてください。

隣同士で本が並んでいることがすごいなあと思って。SNSを通じて繋がったご縁で、本が手に取れる。それがいま、目の前で起こっていることがおもしろい。出版社と本屋さんと書き手が、同じ空間で一緒に話せる機会なんてそうそうないと思うんだよね。

ながさき本屋夜話

ここから参加者さんも交えた「ながさき本屋夜話」が繰り広げられていくことになるのですが、その内容はとっっっっっても素敵なものばかりでした。

出版社としても、こんなにしっかり話を聞いてくれて、ちゃんと薦めてくださる本屋さんは本当に稀有な存在で、河原さんは神様みたいなお方なんです。河原さんの熱量はきっとこの本だけじゃなくて、それに後押しされる方もたくさんいるんだろうなあと思います。
僕たちも初めてのzineをつくったとき、勇気がなくて50部しか発行できなかった。ありがたいことにすぐ完売して、「次号まで時間がかかるんですけど…」と話をしたときに、河原さんが「時間をかけてファンをつくりましょう!」と言ってくださったんです。一緒に走ってくれているんだなって。最初は自分たちが書きたいものをつくりたい気持ちが先行してたけど、恩返しがしたいなってすごく考えるようになりました。
zineをつくったとき、最初にぶつかる壁が「どうやって届けよう」だと思う。でも、ウニスカさんがその挑戦に寛容でいてくれたから、このまちで表現する人たちが増えているんだと思います。
ウニスカさんがなかったら、私はzineを出すという人生を送っていませんでした。表現の場をくださったご縁も、今日こうして集まった人たちとのご縁も、大切にしていきたいと思います。
本は物語なんだけど、本をきっかけに現実で変化が起きていることが「夜話」の意味にすごくリンクするなあと思う。ウニスカさんが書き手、読み手を問わず繋がっている感じがイメージできました。
河原さんは、世間話の中でそっと自分に合った本を薦めてくれる。誘導じゃなかけど(笑)、柔らかく教えてくれる感じが心地良い。『本屋夜話』を購入したきっかけもそういう会話で、思わぬ出会いが生まれたことが嬉しいんです。いつか河原くんが驚くような「この作家さんの本ば読んだよ!」という話を教えてあげたい。私にとっては、居場所のひとつです。

本屋さんになりたいと夢見る中学生の男の子や、小鳥書房へのインターンを控えている大学院生。物語や演劇が好きな女の子や、ウニスカさんでのイベント開催を知って参加を決意してくださった方など、それぞれのきっかけから集まってくださった10名の参加者さんたち。

そして、夜の本屋さんという素敵な環境を提供してくださった河原さんと、遠く谷保から長崎まで来てくださった落合さん。

催しこそ僕たち〈てんびん座〉主催だったけれど、「夜ばなし」を交わす時間をともに過ごすことで、『本屋夜話「小鳥書房文学賞」詞華集』に興味を抱いてほしいというのは僕たちの欲求で、この素敵な空間をつくってくれたのは、他でもないみなさんでした。


冬に来たとしても、夏休みしましょう!

イベント後に湊公園で2日ぶりの夏休みを楽しんでいるとき、落合さんが言いました。

次は僕たちが遊びに行きます。

場所はもちろん、汽車ぽっぽ公園で。

だい、せい、こうっ!

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