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【弁護士が解説】フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドラインについて(3)

第1 はじめに

 前回の記事では、「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(以下「ガイドライン」といいます。)において、独占禁止法で禁止されている「優越的地位の濫用」についてどのように考えられているかや、実際に問題となる行為として、ガイドラインが挙げている具体例の一部をご紹介しました。今回は、引き続き具体例についてご紹介していきたいと思います。

第2 優越的地位の濫用として問題となり得る具体例(前回の続き)

 前回は、ガイドラインが、優越的地位の濫用として問題となる場合として挙げている12項目のうち、①報酬の支払遅延、②報酬の減額、③著しく低い報酬の一方的な決定、④やり直しの要請についてご紹介しました。今回は、⑤一方的な発注取消し、⑥役務の成果物に係る権利の一方的な取扱い、⑦役務の成果物の受領拒否、⑧役務の成果物の返品、についてご紹介します。

1 一方的な発注取消し

 ガイドラインでは、発注事業者がフリーランスに対して行った発注を一方的に取り消す行為について、以下の通り、優越的地位の濫用として問題となると指摘しています。

取引上の地位がフリーランスに優越している発注事業者が、正当な理由がないのに、一方的に、当該フリーランスに通常生ずべき損失を支払うこ となく発注を取り消す場合であって 、 当該フリーランスが、今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり 、優越的地位の濫用として問題となる (独占禁止法第2条第9項第5号ハ)。

ガイドライン8p

 その具体例としては、
・特定の仕様を指示した役務等の委託取引を契約し、これを受けてフリーランスが新たな機材・ソフトウェア等の調達をしているにもかかわらず、自己の一方的な都合により、当該フリーランスが当該調達に要した費用を支払うことなく、当該契約に基づく発注を取り消すこと
・フリーランスに対し、契約時に定めていない役務等を無償で提供するよう要請し、当該要請をフリーランスが拒んだことを理由として、フリーランスが既に提供した役務等に相当する報酬を支払わないまま、一方的に発注を取り消すこと
などが挙げられています。

2 役務の成果物に係る権利の一方的な取扱い

 フリーランスが発注事業者から仕事を引き受け、提供した役務の結果、一定の成果物が出来上がることがあります(フリーランスがデザインしたイラストやコンピュータプログラム等)。このような成果物の内容によっては 、フリーランス側に、成果物に関して、著作権等の権利が発生する場合があります。ガイドラインでは、このような著作権等の権利について、発注事業者が一方的に取扱いを決めることは、以下の通り、優越的地位の濫用として問題となると指摘しています。

この場合において、取引上の地位がフリーランスに優越している発注事業者が、自己との取引の過程で発生したこと又は役務の成果物に対して報酬を支払ったこと等を理由に、当該役務の成果物に係る権利の取扱いを一方的に決定する場合に、当該フリーランスに正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなるときは、優越的地位の濫用として問題となる(独占禁止法第2条第9項第5号ロ・ ハ)。

ガイドライン9p

 ここで、「不当に不利益を与える」かどうかについては、①発注事業者が対価の支払を行っているか、②その対価は発生する不利益に相当しているか、③成果物の作成に係る報酬に権利に係る対価が含まれる形で交渉が行われているか、④当該権利の発生に対する発注事業者による寄与はあるかなどを勘案して総合的に判断するとされています(ガイドライン注14)。

 上記の具体例としては、
・フリーランスが著作権等の権利の 譲渡を伴う契約を拒んでいるにもかかわらず、今後の取引を行わないことを示唆するなどして、当該権利の譲渡を余儀なくさせること。
・取引に伴い、フリーランスに著作権等の権利が発生・帰属する場合に、これらの権利が自己との取引の過程で得られたことを理由に、一方的に、作成の目的たる使用の範囲を超えて当該権利を自己に譲渡させること。
などが挙げられています。

3 役務の成果物の受領拒否

 フリーランスが、発注事業者から依頼を受け、成果物を作成したにもかかわらず、発注事業者が、何らかの理由で、成果物の受取りを拒否することがあります。このような場合について、ガイドラインは、以下の通り、優越的地位の濫用として問題になると指摘しています。

取引上の地位がフリーランスに優越している発注事業者が、当該フリーランスから役務の成果物の提供を受ける契約をした後において、正当な理由がないのに、役務の成果物の全部又は一部の受領を拒む場合であって、当該フリーランスが、今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり、優越的地位の濫用として問題となる(独占禁止法第2条第9項第5号ハ)。 

ガイドライン10p

 「受領を拒む」とは、「役務の成果物を納期に受け取らないこと」であり、納期を一方的に延期することや、発注を一方的に取り消すことにより納期に役務の成果物の全部又は一部を受け取らない場合も、これに含まれるとされています(ガイドライン注16)。

 上記の具体例としては、
・フリーランスが、発注に基づき役務の成果物を提供しようとしたところ 、業績不振に伴い当該役務の成果物が不要になったことを理由に、当該役務の成果物の受領を拒否すること
・フリーランスが役務の成果物の仕様の明確化を求めたにもかかわらず、正当な理由なく仕様を明確にしないまま、フリーランスに継続して作業を行わせ、その後、フリーランスが役務の成果物を提供しようとしたときになって 、発注内容と異なることを理由に、当該役務の成果物の受領を拒否すること
・発注した後になって、あらかじめ合意した納期を、フリーランスの事情を考慮せず一方的に短く変更し、その納期までに提供が間に合わなかったとして役務の成果物の受領を拒否すること
などが挙げられています。

4 役務の成果物の返品

 フリーランスが、いったん、発注事業者に成果物を納品したにもかかわらず、後から、発注事業者が、成果物を返品すると告げてくることがあります。このようなケースについて、ガイドラインは、以下のような場合に、優越的地位の濫用として問題となると指摘しています。

取引上の地位がフリーランスに優越している発注事業者が、当該フリーランスに対し、当該フリーランスから受領した役務の成果物を返品する場合であって、どのような場合に、どのような条件で返品するかについて、当該フリーランスとの間で明確になっておらず、当該フリーランスにあらかじめ計算できない不利益を与えることとなる場合、その他正当な理由がないのに、当該フリーランスから受領した役務の成果物を返品する場合であって、当該フリーランスが、今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合には、正常な商慣習に照らし て不当に不利益を与えることとなり、優越的地位の濫用として問題となる(独占禁止法第2条第9項第5号ハ)。

ガイドライン11p

 具体例としては、
・単に役務の成果物を購入した客から返却されたことを理由に、フリーランスに返品すること。
・直ちに発見できる瑕疵であったにもか かわらず、役務の成果物の検収に要する標準的な期間をはるかに経過した後になって、瑕疵があることを理由にフリーランスに返品すること。
などが挙げられています。

第3 終わりに

 以上で、ガイドラインの紹介第3回目を終わります。次回、ガイドラインにおいて、優越的地位の濫用事例として具体的に挙げられている項目の残りについて紹介していきます。

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