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勘違いに巻き込まれた家族

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[登場人物]

・私 (都会で夫と二人暮らし)
・夫

・お義父さん(夫の父・地方でお義母さん、弟と3人暮らしだったが2023年夏前に他界)
・お義母さん(夫の母)
・弟(夫の弟・無職・実家暮らし)

・叔父さん(3人兄弟のお義父さんの弟・妻と同地方で2人暮らし・子供なし)
・叔父さんの妻(叔母さんが2人出てくるので叔父さんの妻とする)

・叔母さん(3人兄弟のお義父さんの妹・嫁いで同地方で夫と2人暮らし)

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叔父さんと私達夫婦が電話で口論した翌朝、
私は仕事前に弟が働き出した、
お義母さんがデイサービスで御世話になっている介護施設に
事の内容を確認するため電話をした。

その日は土曜日で、責任者である社長が不在だったが、
携帯に電話して頂けたら電話に出ると思うので、と番号を教えてくれた。
そして介護施設の社長と初めて話をした。

自分の立場を説明し、まずお義母さんがお世話になっているお礼。
そして弟が1週間程前からお世話になり始めたと聞いて、とお礼を伝えた。
社長は男性で、物腰のとても柔らかな話し方だった。
そして本題へ。

「急に働き始めたと聞きまして、私達は何も聞いていなかったので
びっくりしていたのですが、さらに昨日夜勤が始まると聞きまして…」
と夜勤についての内容を聞こうとした時、

「え!いやいや、夜勤なんてとんでもないです!
あの、介護のお仕事ってやっぱり他人様と関わるお仕事なので、
働き始めたばかりの人に夜勤なんかお願いすることは先ず無いですよ?」

驚いたように社長が少し取り乱した。
「。。。そうですよね?笑 私も急にまた夜勤と聞いてびっくりしまして」
と答えると、
「えぇ、あの全然、夜勤なんてもっと先の話だと思うので!」
と返した。

このやりとりだけで、この介護施設はそこまでブラックではないのはわかったが、
弟から聞けていない事もあるだろうと、もう少し詳しく聞いてみようと思った。

「そもそも〇〇(弟)さんが働き出した経緯ってどういう経緯なんでしょうか?
こちらが本人に聞いてもはっきり教えてもらえなくて。」
そう聞くと、社長はこう答えた。

「あの、まず先にお義母さんの介護をさせて頂くようになってしばらくしてから、
彼が突然私の方へ来ましてね、働かせて欲しいってお願いされたんですよ。
仕事柄、私も今まで〇〇(弟)さんのような、
働きに出ずに社会から孤立しておられる方はたくさん見て来ていたのでね、
だからまぁ、お断りすることは簡単なんですけど、お義母さんの事もありますし、
まぁそしたら、少しずつ、社会に慣れてもらうという意味で今は来てもらってるんです。」


「では、今は雇用という段階ではなく、
まだまだその前段階の、お試しという感じという事ですか?」

社長
「そうですそうです、こういう方を受け入れるというのは、
とても繊細なことではあるのでね、もし本人が上手く続いてくれればと思いますけど、
もちろんダメになるパターンもありますので、
とにかく今は、彼に対しては色々気を配りながら現場と話し合ってやってる状態です。」

私は社長が神様のように思えた。
20年近く無職で他人とも殆ど関わってこなかった人間を、
受け入れて職業体験させてくれるだけでもありがたいじゃないか。
しかし、そもそもなぜ社長と面識があったのか、なぜ突然不躾にも社長に直談判に行けたのかは
聞きそびれて謎のまま。
しかし現場や指導者は手を焼いているという想像も容易いので、
本当に続くかどうかは本人しだいだ。弟に心配はそもそもしていないが安心もしていない。

私は恐らく弟が家の中の事をそんなに話せていないだろう、
社長にはこれまでのことと、お義母さんがお世話になった経緯、
弟のこと、そして一番知っておいて欲しい叔父さん夫婦の事も話した。


「今年の夏にお義父さんが亡くなったんですが、
私達は介護認定の再調査の結果が出しだいすぐ、10月の末あたりでお義母さんをこちらに引き取って、
私達で介護をする予定でして、弟はずっと無職で家にいたので、
お義母さんを引き取る手続きが終わって引き取るまでは弟に見て頂いている予定だったんです。
弟自身は、お義母さんを引き取るタイミングで信仰している〇〇教の修行に行くと伝えられていたのですが、
それが1週間ほど前に急に叔父にあたる親戚からの電話で働き始めたことを知らされまして、
働き始めるとお義母さんが一人になってしまう時間が増えるので、
それをどうしてるのかを聞いたら、その叔父さん夫婦にお義母さんを見てもらっていると言うんですが、
叔父さん夫婦は見ていると言っても本当に見ている、監視しているだけで、お義母さんには指一本触れないんです。
先日はそれを『こきつかわれている』と言って、私達に早くお義母さんを引き取れと言われているんです。
叔父さん夫婦は弟にはとても優しく、よくやっていると喜んでいるのですが、
弟が出る度に叔父さん夫婦が借り出され、こちらに文句がくる状況なんです。
弟自身の性格としても、食事と紙オムツを変える程度の事以外のその他の介護や掃除、
自分のことに関しては何もできていなくて、こちらとの連絡も会話が成り立たず、困っている状態です。」

矢継ぎ早に出てくる愚痴に近い説明を私は話続けたが、
社長は、
お義父さんが亡くなった事は初耳だった、
叔父さん夫婦の事は、面識があったようで「そういう感じの方ですねぇ」とのこと。
弟に関しても、コミュニケーションが難しい事はもちろん、
性格の事も、そうですねそうですね、と相槌を打って共感してくれた。

社長
「そうですね、とりあえず状況はわかりました。
まぁ先程もありましたように、言い方は悪く聞こえるかもしれませんが、
ああいう方を受け入れるのはこちらもかなり神経を使う事ですので、
できるだけ本人のペースに合わせてしていこうと思ってはいます。
夜勤についても、この先本人が続けられてしっかり仕事ができるようになればという話で、
恐らく現場の指導者がそういう意味で「ゆくゆくは夜勤もある」と説明したのかもしれません。
私達も本人がそれくらいまで続けばいいなとは思いますけど、こればっかりは本人しだいなので。」


「もちろんです。お義母さんの件でお世話になってる上に、さらに重ねてお世話になり、大変申し訳ございません。
本当にありがとうございます。今後、家族の件で何かありましたら、
主人は基本的には仕事中はほぼ電話に出られない身ですので、私まで電話ください。」

社長
「ありがとうございます、こちらも家族の方とお話しができて良かったです。
今後ともよろしくお願い致します。」

そうして電話を切った。
いわゆる「夜勤騒動」は、単なる弟の思い込みで、
それによって家族全員を巻き込んだのだ。
それでなくても、急に働き出したら周りが慌てるという事に考えが至らない。
直談判して、明日から来るかとなっても、
せめてお義母さんがデイサービスに行く日だけ一緒に出勤するなどして、
お義母さんが一人にならないように予定を交渉することもできない。
来るかと聞かれたら行かないといけない、夜勤と言われたらすぐに夜勤に入らないといけない、
そう思ってその事で頭がいっぱいになり、周りが見えなくなる。
それに私達は振り回されただけだった。
私は、こんなしょうもない事で叔父さんに怒られたのかと思ったら、
ぐったりと体が重くなった。


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