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タロットカード海賊版の注意喚起についての私見

みなさんこんにちは。長南です。
最近の世相を反映してか、タロット占いの勉強を始める人が増えてきているように思います。タロット占いをやるためには道具を揃えないといけないわけですが、一番重要なのはもちろんタロットデッキ(カード)です。このタロットデッキですが、最近は中国で作られた「海賊版」が出回っているようです。最近ではタロットカードやトランプを扱っているニチユーのTwitterアカウントがこのように注意喚起を行っています。

まあ「海賊版」なんて出回らないほうがいいに決まっているわけですが、このように注意喚起を行っている業者や占い師の方の言説を見るとそれはそれでどうなのかなと思うところがあります。

タロットカード発展の歴史は模倣の歴史

タロットカードは最古と言われる「ヴィスコンティ・スフォルザ」版から現在に至るまでコピーと模倣の歴史といっても過言ではありません。当初は「プレイングカードとして遊べる」「占いに使える」ことが第一で誰も意匠や絵柄の権利について気にする人はいませんでした。

ヨーロッパで大流行したマルセイユ系のデッキはコンヴェル版、グリモー版をはじめとして現在に至るまで多くのバリエーションが存在しています。「バリエーション」と書きましたが、ぶっちゃけ「パクっていい感じに改良して」売っていたわけです。もっとも当時著作権という概念は存在しなく「やったモノ勝ち」的なところもあったのでしょう。

現在でタロットカードとして広く絵柄が知られているウェイト版も同じで、数え切れないほどのコピーやバリエーションが作られています。現在新作のタロットカードはほぼすべて「ウェイト版に準拠」していると謳われていますが、ウェイト版すなわちパメラの絵柄をそのまま借用、あるいは参考にして作られています。同人誌的な言い方をすると「現代の新作タロットデッキは『ウェイト版』の二次創作」だと言うことができます。

トートのタロットについてはあまり派生版が出ることを見聞きすることはないのですが、トートについてはあれはあれで原理的な側面があるので、変に派生版を出すというところには向かないのかもしれません。

オリジナルのタロットデッキの定義は?

では、そんな中で「オリジナル」あるいは「海賊版」というのはどう定義すればよいのでしょうか?

これは人によって見解が分かれるところでしょうけれども、厳しい言い方をすれば、マルセイユ系、ウェイト系ともに派生デッキはすべて「オリジナルではない」と言うことができます(そう主張してしまうと、タロットカードの歴史の大部分を偽物と認定しないといけないわけですが...)。

新しいデッキの作者が海賊版が出て憤慨してみても、その作者はマルセイユ系やウェイト系の作画や意匠を参考にしている以上、程度の差はあれ「海賊版と何が違うのか?」ということになります。

また「オリジナル」とされる版そのものにも問題がああるように思います。マルセイユ系のものは、そもそもが木版で技術的な面で稚拙なところが目立っていたために「もっとちゃんとしたものをウチの会社で作ってみた」というところが出てきていますし、近年も「本来の意図はこうだった」として「復刻」する試みが行われています。

ウェイト版については彩色を変更したものを「オリジナル」と謳ってみたり、ウェイト氏パメラ氏の名前を勝手に使ったコピーデッキなんてのも多く存在します。そして一番問題なのは、現在最もスタンダートだとされているUS Games社の「Rider Tarot Deck」(黄色い箱のデッキで目にした人も多いかと思います)自体がロットによって彩色や紙質、カードのタイトル(手書きから活字に変更されています)と、節操ない変更を繰り返しているところです。本家本元が「オリジナル」を維持する素振りをあまり見せていないように見えているのが問題です。もっともUS Games社は出版当時のデッキを「Smith-Waite Centennial Tarot Deck」と称して再現したものを出している点を評価したいところです。

つまるところ単に「海賊版が出回っているので注意喚起」と一言で片付けられるような状態ではないということ、それを無視して単に注意喚起だけを行うのは底が浅い考えでしかないということです。

なぜ海賊版を手にするのがよくないのか

ではなぜ海賊版を手にするのがよくないのかというと、世間で言われているごくごく常識的な事以外ではこのようなことがあります。

・ 作者の意図したものではないデッキである可能性がある
・ 品質が一定していない可能性がある
・ 安定して入手できない可能性がある

第1に上げたのは「海賊版」が「コピー元」と同じである保証がないということですね。そっくりコピーならそれでよいかもしれませんが、それすら保証されていないということです。品質が一定していない可能性もリスクとして見ておかなければいけません。Rider Tarot Deckでさえ、品質的なところが勝手にいろいろ変更されているところ、海賊版が変更されていないという保証はありません(そういった意味ではRider Tarot Deckは「海賊版」並だと個人的に考えています)。そして海賊版は供給の点でも安定していない可能性があります。知らないうちに市場から姿を消すということも十分考えられます。

タロット占いを行うにあたって、タロットデッキは1組準備してあれば良いように思えますが、どんなに大切に使ったとしてもいつかは汚れ破れてしまう宿命にあります。そうなったときに代わりのデッキを準備できない、どんなにお金を出しても手に入れられないというのは大きなダメージで、占い師としての生命に関わるといっても過言ではありません。

また海賊版とは言わなくてもオークションなどで入手するのは、占い用の道具として使うのであればおすすめできません。「未開封」と書かれていてもどんな管理を行っていたのか分かりませんし、「中古」となると前の持ち主のクセがあるわけで、安定した鑑定ができるとは思えません。

良いタロットデッキを手に入れるためには

では良いタロットデッキを手に入れるにはどうしたらよいのかということですが、私がおすすめしたいのはこんな方法です(おすすめ順)。

・ 「魔術堂」でド定番のデッキを購入する
・ Amazonで販売元、出荷元を確認した上で購入する
・ ニチユーなどの取り扱い業者から通信販売で購入する

まず「魔術堂」ですが、秋葉原のケーブル屋さんを間借りした実店舗を構えていますが、タロットデッキについては海賊版を売っているわけではないようです。ただイロモノデッキも取り揃えているので、はじめにド定番のものを購入し、それこそ歴史を含めて勉強しつつ、他のデッキにも手を広げるというのがよいでしょう。

次にAmazonで購入する方法がおすすめです。しかしAmazonには海賊版業者普通に紛れ込んでいるので「販売元 Amazon」「出荷元 Amazon」となっているものに絞って購入する必要があります。また定番デッキについては日本語版ではなく、よりオリジナルに近い英語版を選ぶのがポイントです。Amazonからの購入はしっかり販売元出荷元を確認し、販売価格の相場感を持っていないと難しいのは事実ですが、人間の運勢を知ろうとするのですから、この状況をかいくぐるくらいのリテラシー能力は持っててあたりまえのようにも思います。
(追記: URLの最後に「&emi=AN1VRQENFRJN5」の文字列をつけることで販売元・出荷元にフィルタかけることができるというTipがあります)

ニチユーは不定期に展覧会を行っているので、それにタイミングが合えばよいのですが、「いつでも買える」わけではないので注意が必要です。また、輸入したデッキに対して値段を多めに上乗せする傾向があり、また、あまり役に立たないウェイト版向け日本語ブックレットがついている(独自色の強いデッキにも!)ので、ちょっと敬遠したいところです。

その他、書店や玩具売り場で取り扱いがある場合がありますが、種類が少ないケースが多いので過度な期待はしないほうがよいでしょう。パワーストーン屋さんで扱っている場合もありますが、これは言うまでもなくちょっと遠慮したいところです。

「信頼できる人に見てもらって」というのも悪い選択でないのですが、残念ながら業界の今の状況を見ると「あまりよく分かっていない」人が多く、普通に海賊版掴まされたり中古のデッキを平気で使っていたりするので、他人の目を使うよりは自分の目を磨くほうが良いように感じます。

良いデッキ選定は良い鑑定の第一歩

ここまで書いてきたわけですが、正直なところ「良いタロットデッキを選べないような人は、他人(依頼者)の人生を見極めることなんてできないだろう」というのが本音です。プロの占い師ならそんなこと誰から言われなくとも見分ける術を持っていて当然ですし、それができないようなら廃業したほうが依頼者のためだとも思います。

「本流とは何か」というところにこだわるのも必要だと思っています。私も趣味的にいろいろなデッキを購入していますが、ちゃんとした鑑定で使うのはSmith-Waite Centennial一本です。物事の本質に迫るのであればそこまでする必要があると思っていますし、派生デッキ使っている人を見ると「この人はどこまでにこだわっているのだろう」と思いながら内心マユにツバつけニヤニヤする感じで観察しています。

そもそもタロットカードを入手することが難しかった時代というのも昔はあったわけですが、それに比べて現在は(海賊版に警戒する必要はありますが)入手性という点で恵まれた時代になったのではないかと思います。

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