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#218 【病原性集中講義】Part2: 自然免疫と獲得免疫。

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現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠

病原性集中講義の第2回は、病原性の発現を考える上で重要なヒトの免疫系を構成する2つの機能、自然免疫と獲得免疫についてお話します。自然免疫や獲得免疫は高校生物でも登場する、免疫の基礎的な知識ではありますが、登場する細胞が意外に多いので、何も見ずに説明をするとなると難しいのではないでしょうか?

今回は、そんな自然免疫と獲得免疫について、整理してお話をしていきます!

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免疫系の役割分担

免疫系の役割分担からお話をスタートします。

免疫系とは免疫細胞や器官と免疫細胞が産生する物質を介したコミュニケーションにより異物を排除するシステムを指します。異物を排除することにより、生物の体内は外来の微生物が繁殖することも無ければ、恒常性が脅かされることはありません。免疫系は、安定的に生きていく上で必須のシステムであるといえます。

免疫系は、機能的に異なる複数のシステムに分けて考えることができます。それが、自然免疫と獲得免疫です。自然免疫は、昆虫からヒトまでに見られる原始的な免疫系です。獲得免疫は、脊椎動物にのみ見られる発達した免疫系です。自然免疫は抗原非特異的に免疫応答をして異物を排除するのに対して、獲得免疫は抗原特異的に免疫応答をして異物を排除するのが特徴です。

漫画やゲーム風に例えるのであれば、自然免疫はスピードに優れ、獲得免疫は遅いですが抗原に特化した攻撃力に優れます。これが、免疫系の役割分担です。

自然免疫

自然免疫は英語でInnate Immunityです。Innateは生まれつきを意味しており、Innate Immunityは先天性免疫とも呼ばれます。

基本的には、樹状細胞やマクロファージ、好中球による異物の認識と食作用が行われます。

樹状細胞を始めとする免疫細胞には、ヒトなどの高等な多細胞生物にはない微生物に特有の分子パターンを認識するパターン認識受容体が細胞表面には存在します。この分子パターンは、病原体に関係する分子パターン(Pathogen-associated molecular patterns: PAMP)と呼ばれています。

PAMPの認識には、Toll様受容体(Toll Like Receptor: TLR)やNod様受容体(Nod Like Receptor: NLR)に代表されるパターン認識受容体(pattern-recognition receptors : PRRs)が働きます。

パターン認識受容体が働くと、樹状細胞やマクロファージによる食作用が起こります。食作用 (Phagocytosis)では、樹状細胞を始めとする貪食細胞が異物を細胞膜で包んで細胞内部に取り込む1)ことで完了します。

細菌などに由来する非自己=異物のシグナルを読み取るパターン認識受容体と食作用によって、スピード感のある自然免疫は遂行されます。ちなみに、自然免疫では免疫記憶の機能は無いと考えられていましたが、現在は自然免疫のプライミング効果 (Innate Immune Priming)として免疫記憶に類する機能が発見されています。

獲得免疫

獲得免疫は、脊椎動物に見られる抗原特異的な免疫系です。

獲得免疫を大別すると、細胞性免疫と体液性免疫に分けられます。細胞性免疫では抗原特異的な免疫応答を主に細胞が担うのに対して、体液性免疫では抗原特異的な免疫応答を体液に溶解している成分=抗体が担います。

細胞性免疫

獲得免疫を考える上では、自然免疫とのつながりを考える必要があります。後のエピソードでもお話しますが、樹状細胞、マクロファージはプロフェッショナル抗原提示細胞と呼ばれています。樹状細胞やマクロファージは、異物を細胞内に取り込み、細胞内で断片化し、一部を細胞表面に提示します。断片化された異物を細胞表面に提示する働きを抗原提示と呼びます。

抗原提示は、自然免疫から獲得免疫への橋渡し役です。

抗原提示を受けたナイーブT細胞の一部は、ヘルパーT細胞の一種(Th1細胞)に分化します。Th1細胞はNK細胞、キラーT細胞、細胞傷害性T細胞、制御性T細胞を活性化します。すると、提示された抗原をもった異物を特異的に攻撃します。

宿主の細胞=例えばヒトの細胞内に侵入する細菌やウイルスに対しては、細胞ごと攻撃する細胞性免疫が効果的です。

体液性免疫

獲得免疫において、細胞性免疫と双璧を成すのが体液性免疫です。体液性免疫では、抗原提示細胞からの抗原提示を受けた一部のナイーブT細胞がTh2細胞に分化します。分化したTh2は、B細胞を活性化し、抗原を認識するとともに形質細胞へ分化します。分化した形質細胞から、抗体が産生されます。

抗体は、抗原と結合する抗原抗体反応を起こし、抗原抗体複合体を形成します。抗原抗体複合体になることで、①抗原の活性が失われたり、②貪食細胞による食作用が促進するオプソニン効果が起きたり、③補体活性化作用が起こります。

補体活性化作用とは、血液に含まれるタンパク質の一種である補体が、抗原抗体複合体に結合することで、異物の細胞に穴を開けて細胞溶解をさせたり、貪食細胞による認識を促進したりします。

抗原に結合した抗体を目印として、速やかで着実な免疫応答が起るのが、体液性免疫です。

免疫系による異物の除去は同時進行する

自然免疫も獲得免疫も、異物を除去するために同時に進行する免疫機能です。自然免疫と獲得免疫が正常に働くことで、異物に侵されずにヒトは生きています。免疫系の働きを知ると、やっぱり生物はすごいなあと、神がかっているなあと感じます。

次回は、細胞分化の観点から免疫系を概観します!以上、自然免疫、獲得免疫について詳しくお話しました。

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今日も、お疲れさまでした。また次回、お会いしましょう!

参考文献

1) 白土明子 (2015), 自然免疫としての細胞貪食によるアポトーシス細胞と細菌の排除機構と意義, Kagaku to Seibutsu 53(1): 38-44 (2015).

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