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#226 【病原性集中講義】Part9: 外毒素、内毒素、遺伝毒素。

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現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠

病原性集中講義第9回は、ビルレンスファクターとしての毒素として、外毒素および内毒素に焦点を当ててお話していきます。外毒素はグラム陰性細菌の細胞膜に存在するリポ多糖、内毒素は病原体が産生するタンパク質です。これらがどのように宿主の代謝を阻害するのか、詳しくお話していきます。また、内毒素や外毒素には該当しないが、発がん性が疑われる遺伝毒素についてもお話します。

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外毒素:Exotoxin

外毒素はタンパク質であり基本的には熱に弱く、ホルマリン処理によって毒性を失活させながら抗原性を保つトキソイド化処理が可能です。

毒性に応じて腸管毒、細胞毒、神経毒、溶血毒、白血球毒などが知られています。これは、毒性を及ぼす対象による分類です。 今回のエピソードでは、毒性発現の機序による分類から、毒素の詳細に迫ります。前国立感染症研究所長の吉倉廣先生が記した微生物学講義録 第18章細菌感染症 18-3-3 細菌毒を参考に、①細胞表面のレセプターへ結合する毒素、②細胞表面に孔を開ける毒素、③結合部位と毒性発現部位が異なる毒素に分けてお話をします。

免疫細胞のレセプターへ結合

免疫細胞のレセプターへ結合する毒素は、抗原提示のメカニズムに対して作用します。具体的には、抗原提示細胞の主要組織適合抗原(MHCII)とT細胞のTCRに結合し両者を架橋することで、T細胞が過剰に活性化されてショック症状を引き起こします。

この毒素はスーパー抗体(Superantigen)と呼ばれ、黄色ブドウ球菌(S. aureus)のToxin shock syndrome toxin (TSST-1)や化膿レンサ球菌(S. pyrogenes)のSuperantigen Aが代表的です。

細胞表面に孔を開ける

細胞表面に孔を開ける毒素は、細胞膜に結合して重合を繰り返すことで孔を開けます。補体が連携して病原体へと孔を開ける膜侵襲複合体の形成と似ています。孔のサイズに際限の無い化膿レンサ球菌のストレプトリジンOや、際限がある黄色ブドウ球菌のα毒素が確認されています。

赤血球に対して作用することで、細胞へ孔を開けて破壊することから溶血毒(Hemolysin)とも呼ばれています。

孔を開ける機序としては、細胞膜での分子の重合だけでなく細胞膜成分の加水分解による毒性の発現も知られています。大腸菌に由来するへモリシンは、細胞膜成分を加水分解します1)。

結合部位と毒性発現部位が異なる毒素

結合部位(Binding)と毒性発現部位(Acting)からなるAB毒素は、細胞質の標的分子に対して毒性を発揮します。病原体から産生されたAB毒素は、B部位で宿主の細胞に結合し、細胞質へ運び込まれたA部位によって毒性を発現します。

多くの毒素に共通して、ADP-リボース化と呼ばれるタンパク質翻訳後修飾によって、タンパク質の機能を阻害することで毒性を発現します。また、酵素を切断したり細胞輸送を阻害したり、酵素を細胞質に送り込むことで宿主細胞の代謝を擾乱します。

内毒素:Endotoxin

リポ多糖 (Lipopolysaccharide: LPS)は、糖脂質とも呼ばれるグラム陰性細菌の細胞壁外膜に存在する成分です。リポ多糖はO-抗原多糖、コアオリゴ糖、リピッドAからなり、リピッドAが細胞壁外膜に固定されて存在します2)。リピッドAが免疫系を亢進することで過剰な炎症応答を惹起することで、敗血症や臓器の機能不全、ショック症状(エンドトキシンショック)の原因となります2) 。

エンドトキシンショックでは、免疫応答の結果として血管拡張による低血圧や血管内血液凝固応答を誘導します3)。

遺伝毒素: Genotoxin

外毒素や内毒素とは異なり、病原体が産生するDNA損傷性の化合物として、遺伝毒素が存在します。遺伝毒素としては、大腸菌のコリバクチン、クレブシエラ属菌のチリマイシン、Morganella morganiiの産生するインドミリンが存在します。

コリバクチンは構造中にある反応性の高いシクロプロパンによるDNAへの共有結合生成、チリマイシンはDNAのアルキル化によって遺伝毒性を示します。この変異が修復されない場合には、変異の入った細胞が増殖し、アポトーシスなどを受けずに、細胞増殖関連遺伝子に変異が入る場合はがんにつながると考えられます。

外毒素、内毒素、遺伝毒素

まとめると、外毒素の多くは宿主の機能を阻害することで毒性を発現するのに対して、内毒素は宿主の免疫機能を病的に活性化することで毒性を発現します。また、遺伝毒素は宿主のDNAを傷害することで、宿主の健康に悪影響を与えることが考えられます。

毒素と一括に表現しても、その機序は様々です。ここまでのお話で、毒素について詳しく解説しました。しかし、病原性を考える上では、重要な点が抜けています。細菌の宿主に対する接着です。次回は、接着にフォーカスをしてお話します!

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今日も、お疲れさまでした。
また次回、お会いしましょう!

参考文献

吉倉廣, 微生物学講義録 第18章細菌感染症 18-3-3 細菌毒. Access: 20230410, URL: http://jsv.umin.jp/microbiology/main_018.htm

1) Grimminger F, Sibelius U, Bhakdi S, Suttorp N, Seeger W. Escherichia coli hemolysin is a potent inductor of phosphoinositide hydrolysis and related metabolic responses in human neutrophils. J Clin Invest. 1991 Nov;88(5):1531-9.

2) 健康用語の基礎知識, リポ多糖, ヤクルト中央研究所, Access: 20230410, URL: https://institute.yakult.co.jp/dictionary/word_6698.php.

3) エンドトキシンショック、実験医学online、実験医学増刊 Vol.34 No.7 特集「細胞死 新しい実行メカニズムの謎に迫り疾患を理解する」、Access: 20230410, URL: https://www.yodosha.co.jp/jikkenigaku/keyword/3681.html.

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