絶対虐待撲滅マン 第2話 絶対三つ編み不可ウーマン

 りゆの記憶
 母の部屋で正座をさせられ、父に怒られている
父:(ヘアアイロンを持って)こんなもん、どこで買った?ん?お金はどうしたんだよ?
り:…友達に、借りた
父:ほぉーん、こんなの使って何するんだ?男にでも会いに行くのか?うん?
 母の化粧台のコンセントに繋がったアイロンは温まっている
父:…あち!うわー、こんなあぶねえもん、怪我したらどうするんだよー?肌に当たったら、これ
 りゆの腕をアイロンで挟む
り:っぎゃあああ!!!
父:ふはは、ほら熱いだろ?危ないんだよお?これ(もう一度別の箇所を挟む)
り:きゃあいたあい!ごめんなさいごめんなさい!
 泣いて震える娘を見て
父:うーん、ごめん俺使い方分からんくてさ、髪に使うんか
 耳を焼かれるりゆ。痛みの中、
りM:いつからだろう、家の中がこんな地獄に変わったのは。いつだっただろう、こんなろくでなしが父親になったのは
 会話の無い食卓や孤立した学校での様子を映し
り:家の中にも、外にも、安らぎがない。半袖を着て傷を見せても、誰も助けてくれない、気づいてくれない
 視界におでこから何か生えている知らない男の子が入ってくる
り:…誰?
 部屋を覗く妹に気づく
り:…ああ!だめ!
り:ん?おい何見てんだあ!
 妹、さっと立ち去る。りゆ、追いかける父の足にしがみつき
「妹はやめて!私にしてえ!」とすがる少女
 簡単に振り払い部屋を出る父、抜けるコンセント
 別室から焼かれる音と妹の泣き叫ぶ声、走って追いかける少女
り:おいくそじじい!
りM:誰も私たちの苦しみなんて分からない。私の家族の中で起きていることだから
 二人で父に蹴られる少女達
りM:私が守らなきゃ。私しかいないんだ…!
 父が酒瓶の転がるリビングから財布を持って玄関へ向かう。リビングの壁には家族写真が複数飾られている。
りM:私は誰にも必要とされてない、私が苦しんでも誰も悲しまないんだから…(妹の顔に絆創膏を貼りながら)でもこの子は、こんな可愛い子なんだから…(入口の方を向きながら)この子だけは、守らなきゃ…!
 優斗と目が合う
り:(部外者が見てんじゃねえよ)_さっきから誰、父さんの知り合い?出てってくれない?
 優斗、びっくりする
りM:なんでお前が驚く
 優斗が必死に説明するが、少女は聞いていない。
りM:小学生?中学生?またどっかから押し付けられたんだろう。あんな男に子供を任せるなんて、世の父親はどうかしている
優:_君が寝てる間に…
り:?!てめえ!_
 自室のタンスの前で、下着を隠し持ち、言い訳する優斗の場面
りM:どいつもこいつもくずばっか。みんなそうだ。私を苦しませることが好きなんだ
兄:誰と喋ってんだよ?うるさいんだけど
り:なんでもないっ…!
兄:なんか隠してね?うん?(机の端に隠されるようにスマホが置かれているのを発見し)はっ、なんだよ壊れたって母さんに聞いてたけど、買い直したのか
兄:うっ、返して!
 兄にスマホの存在を父へばらされる場面、兄は笑いながらこちらを見ている
りM:皆、いじめられる誰かを探しているだけ。自分より怖い人には媚びへつらって、自分が攻撃されないように、身代わりを探している…
 父に縛られ、殴られる場面
りM:私は絶対そうはならない…!私は自分より弱い人を守る、お前らとは違う。お前らとは、お前らとは、お前らとは!…熱いも痛いももう分からなくなっても、妹を抱きしめたときの柔らかい温もりは、忘れなかった
 幼いころ、母に怪我を心配されハグされた時の場面
りM:母に抱きしめられたときの温もりは、忘れなかった。その温もりだけが…
 現在の妹の泣き声、母の叫び声を聞き
りM…またあの温もりを体に取り戻したい、ただ一つの家だから、あの子と、あの人の腕の中だけが…(父の怒号を聞き)やめろ、奪わないで、一人にしないで…お前らと暮らすのは嫌だ、あの人たちをお前らに渡すのは嫌だ、苦しくてもいい、希望なんかなくても、でも私の大切な人だけには…
優:大丈夫?
 優斗の「君を悪夢から守るため」の台詞を思い出す。
りM:悪夢…そうだ、気づいたら、悪夢みたいな生活だった。(父と泣きながら取っ組み合う母を見て)なんでこんな普通じゃないの、いつも泣いてばっかで、もう、無理だよ、何もかも…
 悲しみに目を閉じ、開けると、優斗が父親を蹴り飛ばしている。少女は初めて希望を見る
りM:突然現れた、角の生えたその子は、私を救い出した、私の指ごと縄を切って…いや、やっぱこいつも私をいたぶった
 玄関の向こうに果てしない光が続く
りM:でも、今までにないほど痛かったのに、今までにないくらい、風が気持ちよかった_」
 博物館のような場所
 目をゆっくり開ける少女
り:…はあ!!!…ここは?
「おはよう」
 振り向くとオトナが優斗の額に包丁を刺し戻している
り:…ここはどこですか?
オ:ここは…皆が寝てる場所、ずーっと
り:…はあ
オ:優斗君に、あなたを起こすように頼んだのは私なの
 りゆ、優斗の台詞を思い出す。
オ:長い間辛かったね。もう大丈夫だよ
 りゆ、その言葉を聞き、なぜか憑きものが取れたようにどっと泣き出す。ぎゅっと少女を抱きしめるオトナ。
 ばっと優斗が目覚める。
優:かはっ!!はあ、はあ、死ぬかと思ったー!
オ:優斗君、抜いちゃダメだって言ったでしょ?
優:あっ…ごめんなさい。でも抜いたらなんか、変な感じがして
オ:?どんな?
優:なんか、視界がおかしくなって、全然別の世界が見えたんです。夢の中の世界が、急にまた別の世界に…あと、頭が冴えてきたというか_
オ:(遮るように)優斗君、このナイフはね?あなたの生命線なの。これを抜いてしまったら、頭の中を傷つけて、出血多量であなたは本当に死んでしまうの。今回だって、本当に危なかったんだから
り:確かに、血がすごい出てた…
優:…分かりました。今度からは気をつけます
オ:分かってくれたらいいの…どうだった?この子の夢の中は?
優:あ…いえ、なんというか、めちゃめちゃな感じで…
 りゆが見つめてきているのに気づき、少し照れながら
優:なんか、すごいピンチだった。大きなゴブリン…男の人がこの子と、他の子も虐めて…すごい可哀想だった
 りゆは黙って優斗を見つめる
オ:…そのゴブリン?男の人?は、どうしてこの子を虐めてたのかな
優:うーん、なんか、よく分からなかったけど、お父さん…?
り:…はい、そうです
オ:二人とも、世の中にはね、そうやって自分より小さい人を虐める大人が沢山いるの。ここで眠っている子たちも、実はそういう大人たちに、夢の中で苦しめられてる。りゆちゃんみたいにね
り:…どうして私の名前を?
オ:そうした苦しい悪夢から、一人でも多く助けてあげたい…それが私の願い。優斗君、りゆちゃん?
 びくっとする二人
オ:あなたたちには、皆を助けるヒーローになってもらって、お手伝いをしてほしいの
二人:ヒーロー…?
 オトナ、腰に手をついて
オ:私はもう大人になってしまったから…皆の夢に入って起こすことはできないの。だから、あなたたちに代わりに起こしてほしい
り:はあ…
優:今回みたいに、大人をやっつければいいの…?
オ:そう、やっつけるだけじゃないよ?皆を意地悪な大人から解放してあげてほしいの。二人ならできるわ!ここにいる誰より、強い子だもの…
 二人、少し嬉しがっている。
り:わ、私に何かできるか分からないけど…りかは?お母さんは?また会える?
オ:…その二人もきっとここのどこかに眠ってる。
 りゆ、顔を明るくし、ガラスの外へ飛び出る
り:じゃあ!二人も起こせばもうあの地獄とはおさらばってこと?!ここで平和に過ごせるの?
オ:そうよ
 りゆ、辺りを駆けまわって妹と母を探す。
優:ぼ、僕も、殺されそうになったけど、大丈夫かな?
 オトナ、優斗の頭を撫で
オ:大丈夫、もう一人、君が助けたんだよ?君ならきっとできる
 優斗、明るい笑顔で
優:よし!じゃあやってみる!おーい!りゆちゃん!
 りゆを追いかける。それを見てほほ笑むオトナ
 りゆ、立ち止まり、手を見る。親指と中指がない。鏡に映る自分の姿を見る
り:…ぼさぼさ
 手首のヘアゴムで結ぼうとするが、指が少ないため中々できず、いらいらする
優:少女ちゃん!お母さんたち、見つけに行こう!
り:…めえよお
優:え?
 りゆ、優斗を殴り飛ばす
り:てめえのせいでまともに髪も結べねえじゃねえかあ!
 遠くに飛ばされる優斗
り:こんなんじゃご飯も食べられないじゃない
優:いってえ…
り:(…でも、あの悪夢から助けてくれて、ありがとう)…早く探しに行くぞ!
優:…へい

#創作大賞2023


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