絶対虐待撲滅マン 第3話 絶対親ガチャ当選マン

 とある男性の精巣の中。広大な海のよう。
 一匹の精子が泳いでいる
当選マン(以降、当)M:どうも、精子です。皆さま、いかがお過ごしでしょうか?私はいつものように広い海を泳いでいます。今日は少し上機嫌です。なぜなら_え?なんで精子が喋れているのかって?実は、私には特別な力があるんです。それは…誰の金玉の中かが分かるのです
 精巣からズームアウトする。金玉の持ち主が現れる。彼の生活を描きながら精子のモノローグ。
当M:梅杉治夫、33歳。彼は一流企業の社長で、24歳のトップ女優を妻に持っています。昼は会社で優雅な時を過ごし、家に帰れば家事もスタイルも完璧な奥さんが出迎える。仕事もひと段落つき、妊活を始めたのです
 夜、妻の待つベッドの前で、旦那が服を脱ぐ
当M:そう!本題はここから!あまり性交渉を好まないこの人が、いよいよ今夜、子供を作るために一肌脱ぐのです!総勢1億匹のレースが始まります!これはうかうかしていられない。だって、この勝負を勝ち抜けば、私は超絶勝ち組の息子!当然超絶勝ち組の人間として人生が始まるのです!
 妻に覆いかぶさる梅杉。
「うおおお!!!」
 おびただしい数のオタマジャクシが雄たけびを上げ、同じ場所に向かって泳ぎ出す。
当M:これは…!なかなかっ…一筋縄ではいかなさそうです…!(後ろから追い抜く精子にぶつかりながら)うおっ…スタートがっ…!遅れてしまった…!私としたことが…!このままじゃ一位には到底…!は!あそこ、この抜け道に乗れば!
 群衆を抜け小さな流れに乗ると、その流れはものすごい速さで、一気に前に進んでいく。
当M:うおお!一気に流れが変わりました!どんどんみんなが後ろに流れていく!このまま乗っていけば、もしかしたらゴールにたどり着く!このまま、このままあー!
 フラッシュアウトする。
 当選マン、赤ん坊になっていて母に抱かれている。目を開けると安心した両親の顔が。
当’(…ありがとうございます、産んでくれて)
 時が流れ、当選マン8歳。
 リビングでおもちゃであそんでいると、母が若い男を連れて帰ってくる。
男:ちょっと、大丈夫なんすかー?
母:いいのよん、最近だめなのよあの人
男:あ、こんにちはー
当:…(首をコクリ)
母:あれ?もう帰ってきてたのー?プールはー?
当:プールは明日だよ
母:あーそっかそっか、これお腹すいたら勝手に買ってきていいからねー、あ、二階来ちゃだめだぞっ
男:大丈夫なんすか?(二人二階へ)
当M:ー勝ち組だと思っていた人生は、どうやらどこか歪んでいる人生であるみたいだ。
 おもちゃ、ゲーム機、誕生日の場面
当M:平均よりお金もある。皆が欲しがるものは全部買ってもらえて、皆が羨む人とも繋がりがある。女優の遺伝子のお陰で顔もよく、大人達からは可愛がってもらえる
 運動会で他の親と喋る両親、連れて行ってもらった両親の仕事場等のシーン
当M:よく私を自慢してくれる。あなたは誰よりも特別と優しい言葉をかけてくれる。だけど私の手を握ってくれるのは人前の時だけ。何一つ不自由のない人生、いや、放任された人生
 他の家庭の親子たち
当M:哀れだと思う。不自由だと思う。子を大事そうにするその様子は、犬と子犬が身を寄せ合う構図と似ている。ああではないのが当たり前だと思っていた。だけど親が離れて教室でみんなと一緒にいる時、彼らは私より、どうしてあんなに温かいのか…
 二階からかすかに喋り声が聞こえる。イヤホンをし財布を持って外に出る。
当:はー、お母さん今日の授業参観忘れてたの気づいてなさそうだな…
 スーパー、子供が好きそうなお菓子をかごに入れていく。
当:あ、夕ご飯も買っとくか
 店を出て道路を渡る。
当:…ていうか、はずれじゃね?…ん?
 横を見ると、トラックが突っ込んでくる。
 しばらくすると、海の中で目を覚ます。
当M:…あれ?うそ…振り直しか
 泳いでいる精子に声をかける。
当:すみません、ここはどこですか?
精子:ここ?ここはーなんだっけ、元ヤンの19歳フリーターだっけな?そこかしこで出してるから、入れ替わり激しいよここは。
当M:なーんだ外れ株だなー。ま、若いなら余計排出量も多いだろうし、今回はさっさと死んでもうちょいマシな株に…うお?!
 突然水流が強くなる。混乱する一帯。
当:な、なんだ?!急に始まったぞ!(精子をかき分けて進む)よし、短い間だったけどお邪魔しましたー、次はせめて正社員…ん?なんだ、この匂いは…?
 大きな水流と他の精子達の雄叫びとともに押し出される当選マン。進む先に大きな球体が。
当M:ああっ!あれは…あれはー!!
 当選マン、気づくと茶髪6歳女児になっている。幼稚園で遊戯の時間。
当M:ーや、やっちまったー!まさかあの時が本番のときだったとは!!ちくしょう、23でもう子作りかよ…!まだ幼稚園児なのにこの髪型!この服!この爪の色ー!…父だけでなく母も元ヤンだとは。このまま育てば、14歳で同級生に孕まされ、厳しい社会をわたりゆくママになる未来が…なんとしても普通側にいかなければ…!
両親:うちゅ~可愛いでちゅね~!
 家、両親がベタベタ遊んでくる。
母:ちょっと!あんた甘すぎ―
父:はあ?!風邪ひいたらどうすんだ?なあきゅえる~?
 当選マン、服を何重にも着せられだるまのよう。
当M:名前きゅえるかよ
母:ゆーと、もうすぐ閉まっちゃうよー
 ショッピングモール。
父:きゅえる~プレゼントはこれがいいよな?!
 髑髏のついた太いチェーンネックレスを差し出す。
母:いやないない、このネックレスだよね~?
 ぴかぴか光るネックレスを差し出す。
父:おいおいんなだっせえの恥ずかしいだろ
母:恥ずかしいのはどっちよ!そんなのつけてたらどうなると思ってんの?!
父:馬鹿野郎!!こんな可愛い奴がこんないかついのつけるギャップがいいんだろうが!?
母:ここは無難に流行ってるアニメよ!きゅえる~つけてみ~?
父:きゅえるこっちだ、こっちの方が絶対いい
当:(いや、どっちも嫌なんですが…)お腹空いたー
 フードコート。
父:今日は食べたいのなんでも食べさせてやるからな~?
当M:…うわ、こんなところいつぶりだろう、安っぽい店ばっかだ
 離れた方のレストラン通りのシックな寿司屋を指さし
当:お寿司食べたーい
 父、娘を軽くげんこつし
父:馬鹿野郎!!んなたけえとこいけるか!!
母:ゆーと誕生日くらい奮発しなさいよ!
父:ガキに周らねえ寿司屋は早え、ちゃんと子供らしいとこで奮発してやるよ!
 当、目の前にトレイ一杯のハンバーガーセットを置かれ
父:ほい!今日はおかわりしてもいいぞ~?食え!
当M:…家庭の良し悪しは分からないものだ
 成長し小学生、両親が娘の髪や服をいじりながら口論する場面。
当M:とんでもないことになるかと思っていたが、しつこい親というのも案外悪くない
母:あんたは服のセンスないんだから、余計なことしないで荷物車に入れててよ!
父:おいふざけんな!んな服でいってクソガキ共に手ぇ出されたらどうすんだ!!
母:りりのとこも来るんだよ?なめられないようにしないと!
父:最近の小学生はませてんだそんな攻めたミニスカ許さねえ降ろせ!
 キャンプ場、親達が肉を焼く傍、モヒカンや紫色の髪の子供らが遊ぶ。
男子1:うぇーいケツー!
当:!!おい、触んなよ!
 父、殺意のある目で男子を見下ろす。
男子2:(エアガンを撃つ)うわエロい~、捕まれお前~
男子1:いってえ!てめえぶち殺すぞ!(追いかける)
母:おい!あぶねえだろてめーら
 派手な格好な母親達を見て
当:意外と見た目じゃ分からんもんだな...
男子3:ねえねえ(当の肩をたたく)
 振り返ると、顔にカエルをつけられる。
当:!?きゃあ!!
 驚いて下がると足を踏み外し川に落ちる。
父:!おいてめえら!きゅえるううー!!!
 川は急流であり、当は流されるうちに窒息し、目の前が暗くなる。
 視界が戻ったと思うと、何かの膜の中にいる。
当:(…あれ?いつの間に…まあなんだかんだろくでもない奴らに囲まれてたしいっか…あれ、動けない…これは…こっち側は初めてだな…なんだ、誰もいない_)
 突然膜が開かれて解き放たれ、漂っていく。
当:(うお、なんだ、突然広く…!?)
 すると、遠くからおびただしい数の精子が押し寄せてくる。
当:(う、うわあああ!!)
 当、波にのまれる。
 深夜、とある街。女が赤ん坊をロッカーに入れようとすると、男がそれを止め、女を殴り飛ばす。
男:勝手なことすんな(赤ん坊を抱えて去る)
 母、怯えて震えている。
 ホストの父親は家にまともに帰らず、街で飲み歩く。
 母親は髪はボサボサ体は痣だらけ。家はゴミ屋敷で、赤ん坊は残飯を口にしている。
当:(くっそ、腹減った…)おぎゃあ!
母:…るさい
当:(おっぱいをくれ!マルボーロでもいい…!棚の上のマルボーロ取ってくれ…!)おぎゃあ!おぎゃあ!
母:うるさいんだよ!!
 赤ん坊の頬を思い切りはたく。
当:(いったあ?!思いきり殴られた!いてええ!)おぎゃあああ!おぎゃあああ!
母:私の気持ちも知らないで…!お前はいいよな泣くだけでよお!!!(赤ん坊の頭を押しのける)
赤ん坊:おぎゃああ!おぎゃああ!
 母、涙を流しカッターを手に取り
母:くそ、くそ
 自分の手首に当てる。
当M:_完全に外しちまった。親が冷たくても治安が悪くても、飯食わせてくれるだけましだったのかな
 母、腕から血を流しながら壁に寄りかかり、眼を閉じる。
母:ふうー…
 赤ん坊、静かになる。
当:(はあ、眠い…うん?)
 当、意識が朦朧としていると、廊下からおでこに包丁を突き刺した男と指の欠けた女が歩いてくるのを見る。
優斗:ここは…海か?

 

#創作大賞2023


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