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210228 第4回講演&トークセッション

記事および写真:パカノラ編集処 代表 小西 威史氏

【講演】
地域プラットフォームの作り方
【ゲスト】
高橋寿太郎さん(不動産コンサルティング会社・創造系不動産代表)
【調布市 まちづくりプロデューサー】
髙橋大輔、菅原大輔
【ファシリテーター】
松元俊介

 空き家を活用したまちづくりの実践例を学ぶ講演&トークセッション、締めくくりとなる第4回のゲストは「創造系不動産」代表の高橋寿太郎さんです。

 創造系不動産は、建築家やデザイナーとコラボレーションすることに特化した不動産コンサルティング会社です。「建築と不動産のあいだを追究する」をコンセプトに、既存の建物の再生や活用のために、建て主や建築家、銀行、入居者などをつなげる枠組みをつくって事業を進めます。

 空き家などを活用し、地方のくらしとビジネスの可能性を学ぶ「いすみラーニングセンター」も千葉県いすみ市で運営しています。地域を動かすときに必要な、人が集まるための「プラットフォーム」について、講演していただきました。

1.建築家やデザイナーとタッグを組む仕事

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 高橋さんの講演は、東京都墨田区にあった、築56年の鉄筋コンクリート3階建ての建物の再生プロジェクトの話から始まりました。
 今ではそのビルの1階に、洗濯機や乾燥機、ミシンやアイロンを備えた「まちの家事室」付きの現代版喫茶店「喫茶ランドリー」が入り、話題となっています。
「建築家の山崎裕史さんがプロジェクトリーダーとなり進められたプロジェクトです。『創造系不動産』としては建物がある地域の世帯やマーケットなどを調査して、再生がいいのか、建て替えがいいのかなどを含めた、全体の収支を考えていきました。銀行に説明をして建て主が融資を受ける算段をしたり、喫茶ランドリーのオーナーとこの物件をつないだり、事業全体を円滑に進めるための調整などを行いました」と高橋さん。

 そして、会社の事業スタイルをこう説明しました。
「創造系不動産は、建築家やデザイナーとタッグを組む仕事しかしません。日本では『建築』と『不動産』が業界的にはっきり分かれています。ただ、一つの建物を見るにしても、建築家と不動産の専門家では、日当たりや耐震強度を見るのか、土地の評価的な部分を見るのかで、まったく違う側面でその価値をはかることになります。両者がいっしょに見ることで、一番いい価値をお客さまに提供できますし、地域のためにもいいと思うのです」

2.失敗してもOK、成長しなくてもOK、競争しなくてもOK

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続いて、千葉県いすみ市で、2年前から始めた「いすみラーニングセンター」の話になりました。「地方のくらしとビジネスの可能性を探求する」をコンセプトにした学びの場で、東京を中心とする会員が毎月1回、いすみ市に行き、地域で活躍する人の話を聞いたり、自分がやりたいビジネスの「自由研究」などを行っています。
「空き家調査でいすみ市に行く機会があり、このまちには移住者などでイノベーティブな活動をされている方がとても多くいることに気づきました。そこで、このまちでは『不動産』の仕事はせず、仲間といっしょに何かを学ぶ場につくろうと考えました」と高橋さんは話します。
ほかにも、一般向けの「いすみツアー」や「空き家巡り」を企画したり、地域にたくさんある空き家を1日だけ借り、お店やラジオ局、ミニ4駆の大会などメンバーがチャレンジしたかったことをその空き家でやるイベント「おさんぽマッチ」も開催しました。
「そんな活動を通して見えてくるのは、地域には『コンテンツではなく、プラットフォームが必要』ということです。それぞれの地域ではなにか活動をしていて、それを発信したい方がいます。地域の資源を活用してもらいたいという人もいます。そしてなにかをやるために情報が欲しいという人もいます。そういった方が交流できる場があって、新たな価値が生まれます。その交流の場がプラットフォームです」
 そして最後にこう締めくくりました。「ラーニングセンターでは『失敗してもOK』『成長しなくてもOK』『競争しなくてもOK』を合言葉にしています。失敗することを恐れていては、何もできないからです。空き家を使ってまちづくりをするときにも、うまくいくこともあれば、失敗することもあります。『失敗してもOK』という気持ちで、まずはやってみることが大切だと思います」。


3.トークセッション01

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講演後に行われた高橋寿太郎さんと髙橋大輔さん、菅原大輔さんとのトークセッションの一部を紹介します!

菅原:調布市には観光地があり、大学もあり、“映画のまち”でもあって、さまざまな魅力がモザイク状に詰まったまちです。新宿から特急電車で約15分という距離にあって、調布の価値は高いと考えています。それでも、駅前を離れると空き家が少しずつ増え始めています。(価格的な)価値は落ちませんが、空き家は増えています。
そんななか、空き家を活用してなにかに挑戦したい人が出てきた時、がんばって買うのがいいのか、借りるのがいいのか、なにかいい判断基準はあるでしょうか。

高橋寿太郎:どういう評価軸で捉えるかですが、ファイナンシャル・プラン的に考えると、借りたほうがいいです。購入すると、それなりに費用がかかるだろうし、とくにその場所のことがまだよくわからないようであれば、最初は借りたほうがいいです。
 ただ、借りるということは所有者がいるということで、借りた家の使い方について、所有者と相談できる仕組みがあるといいですよね。日本では、借家を勝手にいじってはいけないという慣習があります。出る時の原状回復というルールです。でも、これから成熟社会になっていくなか、その慣習を変える必要はあると思います。原状回復なしでDIYができる賃貸借契約とか。実際にそういう借り方も出てきているので、そんな方法も学びながら借りていくのがいいのかなと思います。
 一方で、別の捉え方もあります。ある町で空き家ツアーをしたときにある人から「買ったほうがいい」と言われました。なぜなら「仲間が増えるから」と。買って、仲間とDIYで楽しく造り変えていく。そんな人が出てきています。また、郊外で家を買って、DIYをして貸すという投資スタイルも出てきています。それは新しいスタイルです。

高橋大輔:調布市の空き家エリアリノベーション事業は、最終的には地域のみなさんの力で未来に向けたまちづくりを進めていけることを目指しています。今日はプラットフォームの話をしていただきましたが、まずは地域で何かやりたい人を、私たちのような専門家がサポートできるような仕組みをつくっていきたいと考えています。参加していただく方をどう見つけて、サポートしていくか、そんなことを考えながら進めています。

高橋寿太郎:その地域で活躍してくれそうな方をどう発掘していくか、地方マネジメントの分野でもまだはっきりとした方法が見つかっていない状態だと思います。本当は調布で大活躍したほうがいい方が、都心の超高層ビルのオフィスで「なにか合わないな」と感じながら働いていたりする。そういう方にどういうふうにアクセスしていくか、腕の見せどころですよね。

4.トークセッション02

トークセッションでは会場参加者からの質問も出ました。

会場参加者:調布でなにか活動を始めるとき、場所が見つかったとしても、運営にはお金がかかります。自分はお金を借りられるのか、返せるのか。ボランティアだけでなく利益が出る形で活動できるのか、心配になります。

高橋寿太郎:私も経営者ですが、自分のことは、自分にはわからないものなので、私はいつも第3者の意見をよく聞きます。自分がやっていることが自分に合っているのか、客観的な意見を聞くようにしています。
また、地域に根ざしてそこの課題を解決していくような活動にするなら、半径500メートルくらいの範囲を対象に、利益が出るのかどうかを考えるようにしたほうがいいです。歩いて行ける範囲です。
 ただ、なにをやってもそれがヒットするかどうかはわかりません。外れるかもしれません。そのためにそこに別の価値を被せておくといいです。たとえば、三重くらいに。どれが成功するかなんてわかりません。iPhoneだって、だれも成功するなんて思っていませんでした。でも蓋を開けると、世界最大の価値を持つものになりました。

菅原:小さなニーズを拾ったり、自分がやりたいことに未来のビジネスの種があるんでしょうね。それをどうやって明確化し、収益化していくかということだと思います。いずれにせよ、初めはお金を借りるということになると思うのですが、自己資金はどれくらい用意しておけばいいものでしょうか。いろんなことに挑戦したい方はいるのですが、資金のことがわからず、そこで諦める人もいます。

高橋寿太郎:たとえば、調布市で100平方メートルくらいを借りてなにかやりたいと思ったのなら、やはり、自己資金として初期費用の2割か3割は持っておいたほうがいいかなと思います。
 そんな資金はないよ、という方もいるかもしれません。でも、少しずつでもお金を貯められる性格の方でなければ、持続的な事業経営はできないと思います。性格は急には変えられませんから。まずは無理をせずに、小商いなどでスモールスタートを切るのもいいと思います。

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