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201226 第2回講演&トークセッション

記事および写真:パカノラ編集処 代表 小西 威史氏

【講演】
連鎖する関係性が掘り起こす
人と場とまちの可能性
【ゲスト】
宮崎晃吉さん(株式会社HAGI STUDIO代表取締役/他)
【調布市 まちづくりプロデューサー】
髙橋大輔、菅原大輔
【ファシリテーター】
松元俊介

 空き家を活用したまちづくりの実践例を学ぶ講演&トークセッション第2回のゲストは、「HAGI STUDIO」代表取締役の宮崎晃吉さんです。

 宮崎さんは東京藝術大学大学院卒業後、一級建築士として日本を代表する建築家の設計事務所で働いていましたが、2011年、東日本大震災を機に退職。ひょんな流れと偶然から、学生時代に暮らしていた東京都台東区谷中の築約60年の木造アパートを、カフェやギャラリー、美容室などが入る「HAGISO」にリノベーションすることになりました。建物のコンセプトは「最小文化複合施設」です。

 改修費などはオーナーとリスクを分け合い、建物の価値を上げ、さらには谷中のまち全体の新たな魅力を引き出しています。HAGISOオープンへの道のりや、そこから発展した谷中のまち全体をホテルに見立てる「hanare」などについて講演していただきました。

1.空き家=都市の綻び?

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 宮崎さんの講演は、世界がコロナ禍に見舞われたこの1年を建築家として振り返ることから始まりました。
 「新型コロナの蔓延は、人間が行ってきた開発が遠因だという見方もあります。人間が自然を支配し、管理しようとする人間中心主義の果てに起きたという見方です」
 その流れの中で「空き家」についても考察を続けます。「空き家は建築が腐っていくプロセスにあるものとされ、都市の『綻び』として排除されるものとして扱われてきました。まるで雑草のように、抜かれなければいけないものという扱いです」

 ただ、一方、コロナ禍で人々が自分の住まいがある場所に釘付けにならざるをえなくなったことで、これまでにない解像度で自分のまちを見直したはずだと指摘します。
 「とくに都市で働いていた人にとっては、寝に帰るためだけのまちを見直す機会となったはずです。これまでは『寝る』と『働く』の機能や用途が都市計画で分けられていました。でも、本当はいろいろなものがごちゃまぜで、まちを歩いていれば偶然の出会いが起きるようなまちこそおもしろく、いいまちだというように価値観が変わっていくはずです」


2.建物を「孤独死」させない

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 宮崎さんは学生時代、1955年に立てられた木造アパート「萩荘」で暮らしていました。その萩荘が、2011年の東日本大震災後、また大きな地震が来たら倒壊の可能性もあるかもしれないということで、オーナー夫妻は取り壊しを決めます。
 その決断を聞いた宮崎さんは、そのつい最近も近所の銭湯が取り壊され、更地になっていたのを思い出しました。
「本当にいい銭湯だったのに、建築家の自分は何もできず、守ることができなかった。そして萩荘もなくなることになった。みなさんはまちを歩いていて、更地に出くわし、『あれ? ここ、前はなんだっただろう?』と思うことはありませんか。それって、建物の『孤独死』だと思うのです。萩荘はせめて『お葬式』をして、みんなの記憶に残そうと、萩荘を会場にしたお別れのアートイベントを仲間と一緒に開催することにしました」

3.がんばっていれば、地域の人は見てくれている

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 そのアートイベントには1500人以上の来場者が集まり、多くの人が「いい建物なのに、取り壊しなんてもったいない」と言ってくれました。萩荘が人で賑わう光景を見て、そして「素敵な建物だ」と言ってもらえたことに、オーナーの気持ちが動き、萩荘は解体ではなく、リノベーションされることに。
「オーナーにはどのように活用していくのかの事業計画を見せて説明をしました。そして改修費用の3分の1を自分が出すことにし、リノベーション後は自分が借りることも説明して、リスクを共有するようにしました」
そうしてできたのが「最小文化複合施設」の「HAGISO」。身の丈にあった公共的な施設にしたいという思いからでした。
また、その後は、まち全体をホテルの施設に見立てる「hanare」もオープンさせました。HAGISOから100メートルほどの距離にあった空き家を宿泊棟に改修し、お風呂は地元の銭湯を紹介します。夕食は地域の飲食店に行ってもらい、お土産は商店街で買っていただく仕組みです。
「がんばっていることは、地域の方もちゃんと見てくれていて、うちにも空き家があるから活用できないか? という相談が次々に来るようになりました。そこでお惣菜屋さんを開いたり、小さな焼き菓子工場をつくったり、どんどん事業が広がっていきました。今では谷中エリアだけでなく、銀座などいろいろなところでの事業展開の話がくるようになって、予期しない関係性が広がることを楽しんでいます。」

4.トークセッション

 講演後に行われた宮崎さんと髙橋さん、菅原さんとのトークセッションの一部を紹介します!

菅原:もし、調布市でまちのリノベーションを手がけるとしたら、どこから手をつけますか? 空き家物件を探すのか? キーとなる人を探すのか? もしくはまちのニーズやウォンツから探すのか? どこから始めますか?

宮崎:まず歩くことからですね。地面のレベルからまちを見ていきます。そして、エリアを決める。ダメな物件は基本的にないと考えています。なんでも大丈夫。その建築ならではの特徴って、必ず見出だせるので。
でも、選ぶエリアは繁華街ではないですね。駅からは遠すぎず、アクセスも悪くない、裏路地のようなところがいいです。そうするとニーズを気にしなくていいんです。やりたいという気持ちがあって、それをやっていけば、その内容に共感してもらえるお客さんを引っ張ってこられるという思いはあります。

髙橋:空き家のオーナーさんといっしょに、同じ方向を見て事業を進めていることに驚きました。それは谷中ならではのことでしょうか。オーナーさんとの関係づくりはどうやっていますか?

宮崎:意識の高いオーナーさん、パブリックマインドを持っているオーナーさんはどこにでもいると思います。まちの未来について、長期的な視野を持つ方はちゃんといます。
もともと土地なんて、地球のものです。それを人間がいったん管理しているだけ。管理するからには責任もあります。
今は人口減少社会で、オーナーさんも土地や建物の活用に困っています。そこでリスクをいっしょにとり、伴走するという気持ちで接すると、顧客という関係性になりません。同じ方向を見る当事者になります。
この方法は手間もかかりますが、オーナーさん同士のネットワークもあり、当事者意識をもって、またほかのオーナーさんにつないでくれたりもします。

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