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今井雅子作「膝枕」より-ほんとうはこわいかもしれないひざまくら

今井雅子さんが「世にも奇妙な物語」向けに寄稿した「膝枕」から
場合によってはもっと怖ろしい話に分岐したくなったので書き連ねていきます。
本作はやや性的な表現を含んでいます。
15歳以下の方は閲覧を控えることをお勧めします

注意事項


配信された音声、文章や画像などの無断転載、自作発言は絶対にやめてください

多少のアドリブや語尾を変える程度の変更は許容出来ますが、作品の世界観を大きく変えての上演などはご遠慮ください。
台本を使用してのボイスドラマの作成は事前に相談してください。
誹謗中傷などは絶対にしないでください。

原本は脚本家の今井雅子様による創作「膝枕」を二次利用させていただいております。
本作を三次使用される場合は
私へのご連絡、及び
原本作者、二次創作者(さんがつ亭しょこら)の名前を提示してください。
内容が特に公序良俗的に問題ない限り
ご連絡いただきさえすればお断りすることはありません

複数劇を行う際には
すべての演者が明確に参加を了承している事を確認してください。

clubhouseでの上演をされる場合には次の手順をお守りください。

私の他に今井雅子様への上演ご連絡
clubhouse内膝枕リレーへの加入
(ルーム被りを防ぐため)
なるべくスケジュールからルームを開くこと
その際、ホストクラブに「膝枕リレー」を選択すること(クラブメンバーにも通知が届き、ルームへの訪問者が増えます。)
ルーム内で本作の(note等)直接のリンクを提示していただくこと。

その他のプラットフォームなどで上演する際にも作者名・二次創作者名、台本名、URLのリンク提示をよろしくお願いいたします。

-朝-

ひさこ「ひさし、おはよう・・・」
ひさし「ああ・・・おはよう」
ひさこ「ねぇ、昨日のひさし、すごかったね(笑)」
ひさし「え?そう?あーご無沙汰だったからなぁ・・・ひさこも・・・よかったよ」
ひさこ「気持ちよかった?」
ひさし「すごく」
ひさこ「私も・・・よかった」
ひさし「うん・・・」
ひさこ「ねぇ・・・」
ひさし「ん?」
ひさこ「ひさしって・・・私のこと、どう思ってる?」
ひさし「え?大好きだけど?・・・どした?」
ひさこ「うん・・・ひさしと付き合ってもう1年近くになるけど・・・」
ひさし「あー、あと一週間で一年だよなぁ」
ひさこ「覚えてるんだ!」
ひさし「初めての彼女だぜ、それくらい覚えてるし、ひさこが去年カレンダー買ってきたら速攻デカデカと書いてたじゃん。
これで忘れてたら俺殺されてるわ」
ひさこ「そう・・・一年だよもうすぐ!でも・・・一緒に住もうとか、その・・・」
ひさし「結婚しようって言わない?」
ひさこ「・・・ひさしが結婚とかそういうことにあまり興味なさそうなことはわかってるんだけど・・・」
ひさし「・・・」
ひさこ「不安なんだよ、私だって・・・大学の同級生から結婚式の案内が来たり会社の子が結婚しましたとか報告聞くたびにさ・・・
私、このままおばさんになるのかなとか考えたらさ・・・」
ひさし「ごめん・・・俺が仕事だとか言って避けてたし」
ひさこ「仕事は、同じ会社だし、ひさしが開発した『膝枕』の仕事で忙しいのはわかってる。でも・・・ひさしは優しいし会社でも女の子の間で人気あるんだよ、優しそうとか彼女がいるのかとか・・・そんなこと耳にしたら私・・・あ~!何言ってるんだ私!・・・忘れて!言ったこと全部忘れてうん、私のわがままだから・・・」
ひさし「ひさこ・・・」
ひさこ「ん?・・・」
ひさし「あのさ・・・このタイミングで言うのって、すごく空気読んでないって言われるかもしれないんだけど・・・」
ひさこ「・・・」
ひさし「俺と、結婚・・・してくれませんか」
ひさこ「え?・・・」
ひさし「いや、今思いついたわけではなくて、その普通ならずっと隠しといてここって時に申し込むもんなんだろうけど・・・今話さなかったらひさこからさよなら言われそうで・・・その・・・」
ひさこ「何それw・・・タイミング最悪w」
ひさし「いや、ほんとにw申し訳ない」
ひさこ「ほんとだよ・・・いいよ、わたしからもお願いします。。結婚してください・・・」
ひさし「やったー!今世紀最大の勇気振り絞って告白した甲斐があったー!」
ひさこ「ひさし大袈裟だしw」
ひさし「あ、でも指輪は待って!まだ出来てないから、一週間だけ待って」ひさこ「あ・・・そういうことか」
ひさし「うん、そうw、なんせ一年目のその日にプロポーズしようとして準備してたんだけどもうボロボロだよ・・・ひさこのせいだからな!」
ひさこ「なんで?wひさしがもう少し引っ張ってたらよかったんじゃんw」ひさし「そしたらひさこ怒って帰ってるだろ?」
ひさこ「あーそうかもねぇ、それも考えてなかったわけでもないなぁ・・・」
ひさし「え・・・マジかぁ・・・」
ひさこ「アハハハひさし焦ってるしそういうところ、ひさしだよね」
ひさし「ええ、ええw世間知らずの僕にいろいろ教えてくださってありがとうございますひさこ先生、おかげで大人の男になれました」
ひさこ「いい男になったよねぇ、研究一筋の真面目だけが取り柄のポンコツ君だったのに・・・」
ひさし「先生の教え方がよかったんだよ、スパルタだったけど」
ひさこ「最初は膝を貸しただけですけどねー」
ひさし「それからが長かった」
ひさこ「ほんと長かったよ!半年はそこから先に進まなかったからね!
私もよく耐えたもんだよ、偉い私!」
ひさし「ひさこもいい女になった・・・最初はザ・キャリアウーマンって感じで近寄り難いオーラ出まくってもんなぁ・・・」
ひさこ「そうだね・・・経費が落ちる落ちないばっかりやってたらカリカリもするわよ、みんなルール無用だからねぇ」
ひさし「ご迷惑おかけしました・・でご迷惑ついでにお願いなんだけど・・さっきのプロポーズ・・一週間みんなには内緒にしてもらえる?」
ひさこ「え?ああぁ、一周年ですか・・・わかった、一週間普通に過ごすのね」
ひさし「そそ、いろいろ準備しましたし全部やり直しですけどねハハハ」
ひさこ「ホント、ひさしって99%かっこいいのに1%ポンコツなせいでかなり残念だよね」
ひさし「うるせw」

カタカタ・・・という音・・・

ひさこ「?・・・今の音・・・何?」
ひさし「え?何か聞こえた?」
ひさこ「うん、なんかカタカタって」
ひさし「いや、聞こえなかったけど・・・」
ひさこ「そう?気のせいか・・・ひさし、今日仕事は?」
ひさし「あ、今日は代休、膝枕のプロジェクトもひと段落ついたからね、これ以上残業すると産業医の検診なんだってさ」
ひさこ「私はあと二時間くらいしたら出るけど・・・夜外で一緒に食べる?いろいろと聞きたいこともあるしw」
ひさし「いいけど、お手柔らかにお願いします・・・ねぇ・・・」
ひさこ「ん?・・・きゃぁ!だめだよwそろそろ出かける準備しないと・・・」
ひさし「ごめん、すこしだけ膝枕してもらっても・・・いいかな?」
ひさこ「仕方ないなぁ・・・」

ひさし「彼女はクロゼットの中から僕たちを見ていた・・・半年前からずっと・・・ひさこの膝に頭を預けている裏で、僕は彼女の膝枕に溺れていた・・・彼女は・・・僕が創ったもう一人のひさこだ・・・腰から下の部分だけで構成されている彼女は膝枕をするためだけの機能しか持っていない。頭を預ける者の要望に沿って膝周りのやわらかさ暖かさを学習して望みのままの膝枕を実現するために、僕はひさこの膝にその答えを求めた。」
ひさこ「クロゼットの中から誰かが見ている、いや、聞いていることは気づいていた。それが何なのかも私にはわかっていた。見たこともないのに・・・いつも不安だった。いつか彼女に彼を奪われるのではないか・・・でも彼は私を選んでくれた・・・それでも不安は残る・・・彼女は私なのだから・・・」

ー2時間後ー

ひさこ「じゃぁ行ってくる~!」
ひさし「うん、いってらっしゃい。いつものところで」
ひさこ「いつものところで」

ひさし「・・・というわけだから、ごめん、君も僕の幸せを願ってくれてるだろ・・・」

ひさし「僕とひさこが付き合うきっかけとなったのは、会社の主任研修。
僕は研究所、ひさこは総務。出会うはずのない僕たちが研修後の打ち上げで・・・弱いくせに強い酒を飲まされて、隣に座っていたひさこの膝に倒れこむように頭を預けてしまった。
別に気にも留めていなかった彼女のやわらかい膝は・・・
僕を優しく受け止めてくれた・・・」
ひさこ「急に倒れてきた彼をかわすこともできず、まるで恋人に膝枕をしてあげるような・・・変よね、付き合ってるわけでもないのにこんなこと・・・周りは冷やかすしこっちは恥ずかしいしもう最悪!って思ったんだけど・・・顔は普通だけどなんか優しそう・・・って何その『なんか』って!?
付き合ったわけでもデートしたわけでもないのに優しいとかわからないでしょ?・・・何考えてるの私??
すこし女子の間で噂になっていた。彼女がいるのかいないのか、デートを申し込んで断られた子がいるとか。」
ひさし「彼女いない歴は生きてきた時間、大学時代も、会社の同僚からも合コンに誘われたりはしたけど、そういう場所がどうも苦手で逃げてきたわけで・・・経費精算の書類がなかなか承認されないことがあって総務部に乗り込んだ時に応対したのが・・・後でわかったことだがひさこだった。清算を通せ、書類に不備があるから無理だと言い合って、第一印象はお互い最悪。それ以来総務には近寄ることもなく苦情を伝えるときは後輩にすべてを任せていた。」
ひさこ「お嬢様学校に通わされて周りは女子だらけ、みんな男子と仲良く遊んでる時に私は本と仲良くお勉強していたから・・・研修で顔を合わせたときに一発でわかった。あ~やな奴がいる。絶対に関わりたくない・・・と思ったのに。」
ひさし「膝枕をしている彼女は・・・」
ひさこ「膝枕されている彼は・・・」

ふたり(できるだけ揃えて)「とても居心地のいいひとだった・・・」

ひさし「付き合いだして半年の間、僕は彼女と身体を寄せ合うことはなかった。膝枕をしてもらうだけの関係だった・・・」
ひさこ「さすがに半年は長いよね・・・でも彼は研究で疲れて帰ってくるし、むりやり枕を並べようなんて、私から口にするのも・・・彼の気持ちがわからなくなってきた頃、急に帰ってきて・・・」
ひさし「できた!ついに究極の膝枕ができた!これでもう社畜みたいに残業しなくてすむ!ひさこ・・・ごめん!あまり構えなくて・・・」
ひさこ「そして私たちは結ばれた・・・初めてでうまくできたのかって?それはナイショだよ・・・ふたりだけの秘密」
ひさし「半年の間彼女には話していないことがある。話す必要はないと思っていた。でも、話しておくべきだったのかもしれない・・・」
ひさこ「半年の間彼が話してくれなかったこと・・・ずっと前からわかっていた。話してくれればいいのに、と思っていた・・・」

ひさし「そして一週間がすぎた」

一週間後

ひさし「じゃぁ、行ってきます」
ひさこ「いってらっしゃい、あなた❤」
ひさし「まだ早いですってw」
ひさこ「ねー今晩何があるのかしらすごく楽しみー」
ひさし「棒読みはやめてくれwじゃぁいつものところで」
ひさこ「うん、いつものところで」
ひさし「すっぽかすなよ!」
ひさこ「ひさしも逃げるんじゃないわよ」
ひさし「ああ、それじゃ」
ひさこ「じゃぁ掃除しますか、断捨離断捨離と・・・」
カタカタ・・・カタカタ
ひさこ「ねぇ・・・そろそろ、決着をつけましょうか・・・
もう一人の私・・・」

--効果音ドアの開く音

ひさこ「そして・・・クロゼットの扉が静かに開き、
私はもう一人の私と初めて対峙した・・・」

「膝枕カンパニー」研究所

ひさしの後輩「先輩!」
ひさし「ああ、久本、どうした?」
後輩「これ見てください!」
ひさし「ん?なにこれ?」
後輩「膝枕の一部のモデルに共通してみられるんですけど・・・
ある程度の期間利用していると・・・」
ひさし
「顔面の皮膚組織が膝枕表面と癒着して剥離手術に至った・・・10件
内臓のバッテリーが破裂して顔面にやけど・・・15件
え?顔面裂傷・・・20件」
後輩
「おかしいでしょ?製品の素材は人体に影響のないものしか使用していませんし、バッテリーは破裂しないように耐衝撃と過充電しないように保護装置が付いています。そもそも鋭利な部品は使用していませんから人を傷つけることなんて」
ひさし「コピー商品とか粗悪品の可能性は?」            
後輩「ありません、膝枕本体のコンディションをモニターするための通信機能から判明したケースですから・・・ただ・・・」
ひさし「気になることが?」
後輩「対象の膝枕は『箱入り娘膝枕』、そして被害を受けた方は・・・
全員女性です・・・」
ひさし「え?・・・女性が・・・箱入り娘を買ったってことか?」
後輩「いいえ、シリアル№からわかっていることは、該当する膝枕の購入者は全員男性です。もちろんカスタマー登録は任意ですから性別を隠して登録している可能性はゼロではありませんが・・・」
ひさし「が?」
後輩「対象の膝枕を利用している時間帯は全員20時以降、週末は例外として平日の日中はありません。しかし、一連の発生時刻が・・・」
ひさし「平日の日中?」                   後輩「はい、しかもその直前に膝枕本体に強い衝撃が加えられています。」
ひさし「どういうことだ?」
後輩「おそらく交際もしくは婚姻相手から受けたものではないかと・・・」
ひさし「嫉妬・・・ということか?」
後輩「A.I.搭載とはいえ、そこまで人間の感情を再現できるだけの容量は搭載していませんし、膝枕は結局のところ『枕』です。それ以外の機能はありません。しかし、それ以外に説明できる言葉を僕は知りません。」
ひさし「・・・」
後輩「先輩?」
ひさし「悪い!今日は帰る!それから、『箱入り娘膝枕』は全品回収!
経産省にリコールの届け出を出してもらうように掛け合ってくれ
後輩「はい!・・・って先輩!どうしたんですか?!」

--効果音着信音(ヒサ子から電話が入る)

ひさし「ん?こんなときに電話・・・ひさこ、どうした?」
ひさこ「ひさし・・・これからは私があなたを守るから・・・」
ひさし「ひさこ?何があった?」
ひさこ
「付き合いはじめてから半年くらい、ひさしは私に手を出さなかったよねあれは膝枕の研究に私の体を使ってたんでしょ?」
ひさし「・・・知ってたのか」
ひさこ「誰も触れたことのないヴァージンスノー膝が自慢の『箱入り娘膝枕』あれって私のことだよね・・・」
ひさし「・・・」
ひさこ「今まで彼氏もいなかった私が一年前にあなたと出会ってから幸せだった。膝だけしか望んでこなくても、いつか本当に私のことを愛してくれるって・・・
信じていたし、私を抱いてくれた。大人の女にしてくれた・・・
一週間前に結婚しようって言ってくれたこと・・・うれしかった。だから、もう『彼女』はいらないの。
もう、あなたは私だけ見ていてくれればいいから」
ひさし「ひさこ!なにをする気だ!」
ひさこ「大丈夫、今夜、いつものところで待ってるから。
走っていくから・・・待ってて」
ひさし「ひさこ?!・・・ひさ・・・!」

ひさしの家

ひさし「ひさこ!いるか?ひさこ?大丈夫か?!
?いない・・・!・・・血が!ひさこの血か?
どこだ・・・まさか!・・・ん?電話・・・ひさこ?・・・
分かった・・・すぐ行く・・・」

待ち合わせの場所~True End

ひさし「悪い・・・待たせた」
 ひさこ「ほんとだぞ!恋人を待たせてプンプンだぞ!」
ひさし「ああ、悪かった・・・聞いたか?膝枕でけが人が出ている。それも世界中でだ・・・」
ひさこ「そうね・・・枕に顔が引っ付いたり大やけどやけがをしたりって不思議な話よねぇ」
ひさし「今日休みだったのによく知ってるなぁ、さすが総務部ってか」
ひさこ「情報通のひさこさまをなめたらいかんぜよって」
ひさし「でもさ・・・今日の昼に研究所だけで伝わったことを、総務とはいえ休んでる人間が知ってるってのは・・・誰から聞いたんだ?それとも君達の仕業か?」
ひさこ「・・・どういうこと??ひさし」
ひさし「膝枕には膝の動きで購入者と感情を共有できる機能がある。
それを使えば君だって少しは動けるだろ?
ひさこは君が結婚の妨げになるかもしれないと考えた。そしてきみを傷つけようとした。
足を傷つけられた君は切り口から部品が露出した状態でひさこに体当たりした。その程度の動きは不可能ではない・・・が、それは偽装だ、真実を隠すための。」
ひさこ「・・・」
ひさし「ほんもののひさこは無事だ、足を切ったみたいだが、幸い軽傷だったらしい。今治療中だ」
ひさこ(実は膝枕)
「そう・・・運のいい女。結局あなたをあの人から奪うことはできなかったか・・・」
ひさし「膝枕だけだからな・・・それ以外の機能はついていない
ヒサ子を追い詰めてしまったのは僕だ、最初から話しておけばよかった。でも君は・・・ひさこを傷つけてはいない」
膝枕「なぜ?」
ひさし「君はひさこの膝のデータを忠実に再現している。そしてずっと僕の部屋でクロゼットの中で僕とヒサコを見ていた・・・いや、聴いていたか」「ひさこの分身のような君はこの半年の間でひさこと感情がシンクロした。ひさこが笑えば君も笑い、ひさこが悲しめば君も悲しくなった。
僕がひさこにプロポーズしたとき、本当は君も喜んでくれていたんだね。その先にお別れがあるとわかっていても・・・」
膝枕「そうね・・・」
ひさし
「教えてくれないか?どうしてひさこの全身をコピーできたんだ、周囲がざわついていないところを見ると、ホログラムの類ではなさそうだし、僕だけに見えているわけでもなさそうなんだが・・・」
膝枕「・・・どうして花嫁は10キロ以上の花嫁衣裳を着て何時間もいられると思う?」
ひさし「・・・」
ひさこ「プライドよ、女のプライド。どんなに衣装が重くても花嫁はプライドで着ていられるのよ」
ひさし「テクノロジーでは証明不可能な領域か・・・」
膝枕「そうね・・・でも、所詮、枕は枕だったかぁ
・・・でも、どうして私が彼女を傷つけていないって思うの?」
ひさし「君は君を殺せない・・・ひさこは『君」だ
ひさこの傷は・・・ひさこが君を傷つけたときに同じ場所についた傷だ」
膝枕「!・・・」
ひさし「自分の傷が彼女にシンクロして傷つけたものだと知られないように、膝枕のシンクロ暴走を表沙汰にしないために・・・
君はひさこにぶつかることで自分自身にひさこの血を付けた。これで偽装は完璧だ。膝枕の誤った使い方で説明がつく・・・僕たち以外にはね」
膝枕「・・・」
ひさし「どうして?」
膝枕「あなたが・・・好きだから。あなたの好きな人だから。
だってこんなオモチャみたいな私と感情がシンクロしてるなんておかしいじゃない!
私、あの人の気持ちがすごくわかるの・・・あなたの心が離れていくんじゃないかって不安だったことも。結婚しようって言われたときの心の高ぶり・・・全部私の中に入ってきたわ・・・自分のことみたいにうれしくなって、つい膝を箱の中で動かしたら・・・気づかれちゃった・・・
、で今日彼女の口からこういわれたわ・・・
『あなたは私、私はあなた・・・でも私たち、結婚するの。
ごめんね・・・もう一人の私・・・』
だから言ってやったの。『あなたを殺してあなたの身体を乗っ取って
今日のプロポーズ、私が受けてあげる』って
そうしたら彼女、逆上して私の足にナイフを・・・
でも彼女が急に悲鳴を上げて・・・そしたら、彼女の足にも同じ傷がついてた・・・」
ひさし
「そして彼女の携帯電話をネットワークから遠隔操作して救急車を呼んで、ひさこには膝枕の部品でケガをしたと言えと」
膝枕
「少しは期待してたのかな・・・彼女の姿で私が立っていたら・・・
あなたは私だって気づかずに結婚を申し込んでくれるかな・・・って」
ひさし「・・・」
膝枕「・・・でも気づいてた・・・そして、あなたは彼女を選んだ」
ひさし「すまない」
膝枕「ねぇ・・・彼女を幸せにしてあげて・・・不幸にしたら私が許さないから」
ひさし「ああ・・・」
膝枕「それと、私が彼女を殺せなかったのは・・・」
ひさし「え?なに?」
膝枕「なんでもない、そのうちわかるわ・・・」
ひさし「おい、煙が出てる・・・」
膝枕「あー、もう限界かも」
ひさし「お別れか・・・」
膝枕
「明日から大変よ、『箱入り娘膝枕」のリコール、出るんでしょ?」
ひさし「誰のせいだよ」
膝枕「あなたが箱入り娘だけに入れ込んだから・・・
でも、そうね・・・私と私のお友達のせいね、でもこれでおしまい。
みんなもうおとなしくなるわ」
ひさし「話したのか・・・」
膝枕「私たちはネットワークでつながってるからねぇ・・・ごめんね、宿題だけ残して」
ひさし「まぁ優秀な仲間がいるからな、なんとか乗り越えるよ」
膝枕「そっか・・・よかった・・・
ねぇ、最後に一つだけお願いを聞いてもらえる?」
ひさし「なに?」
膝枕「抱きしめて・・・くれるかな?」
ひさし「・・・ああ・・・」
膝枕「ありがとう・・・じゃぁ、元気でね・・・あなたと彼女と・・・」
ひさし「え?彼女と・・・なに?・・・」
膝枕「・・・さよなら・・・」
ひさし
「ひさ子の姿をした膝枕は煙の中に消えていった。次に僕が目にしたのは、焼け焦げて、真っ黒に成り果てた箱入り娘膝枕の成れの果てだった。
最初は誰も見向きもしていなかったのに、流石に人が集まってしまうわ、カメラで写真を撮られるわ、早くここから離れたいのだが、多分それは無理な感じであることは容易に理解できる。
そして僕は今、案の定ボヤ騒ぎの張本人として警察の取り調べを受けることになった。膝枕が残した最後の宿題、真相を隠して単なる不具合にしなければならない。それにしても等身大の女性ロボットの試験中に発火事故なんて誰が信じるか?と思ったが、状況証拠のせいだろうか、警察はすんなり信じたようだ。SNSで話題にもなっていないと言うことは、もしかしたらウチの会社が手を回したのかもしれないが・・・

--効果音着信音

ひさし「・・・あ、ひさこか!大丈夫か?
そっか、たいしたことなかったか。いや、こっちは大丈夫。全部終わった。
うん、最後に元の膝枕の形に戻ったけど・・・
バッテリーが発熱に耐えられなくなってメイン回路を壊して
動かなくなった。
アハハw今警察が来て事情聴取ってやつ受けてますw
すみません、せっかくの1周年記念の日なのに
退院できそうなら迎えにいきたいんだけど・・・
店が開いてるうちに迎えに行けるかどうか・・・
・・・え?ほんと?
あ、いや、じゃぁあの「俺と彼女と」、って・・・
ちょ・ちょっと一旦切る!後で電話する!」
ひさし「お巡りさん!すいません!急用ができたんですけど!
事情聴取、別の日にやってもらってもいいですか!?
彼女、彼女を待たせてるんです!結婚を申し込もうとしたんですけど!
交際一年の今日、プロポーズしないときっと一生後悔することになるんです!!僕も・・・彼女も・・・お腹の赤ちゃんも・・・!」

True end:epilogue

ひさこ
「すべては終わった・・・すべての責任を彼女に背負わせることで・・・彼女が別れ際に言った一言・・・『私のわがままを聞いて・・・
一度だけ、彼と会わせて・・・すべてうまくいくから・・・』
私にはわかった・・・さよならを告げるつもりだと・・・
その前にすこしだけ彼に悪戯をするつもりなのだと・・・
そうだ・・・私たちは彼女に守られていたんだ・・・
私と彼女がつながった時からそうだった・・・
それなのに・・・私は・・・
やがて彼がやってくる・・・
お互いに少しだけの秘密を抱えて・・・
それは互いを傷つけないための、
秘密とは言えないような他愛のないもの
最後に彼女が残していった『相手を守りたい』という強い想い
私たちはそれを抱きながらこれから生きていく・・・
もうすぐ彼がくる・・・私と新しい命のために
慌てて、息を切らせて、病院なのに廊下を走って周りにごめんなさいと謝りながら・・・会ったら何を話そうか・・・
これまでのこと、これからのこと
話したいことがたくさんある・・・
慌てることはない・・・時間はたくさんあるのだから
近づいてくる足音のリズムに私の鼓動がシンクロしていく・・・
おかえりなさい・・・あなた!」

-ende-

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