沿海州の亡霊・第四章~転生したら膝枕だった件

8.園遊会

夕暮れになると王都の町に神殿の鐘の音が鳴り響く。
人々は仕事の手を休め、鐘の方角に向かって祈りを捧げる。

鐘の音以外聞こえない、時間が止まった様な風景、
鐘が鳴り止むとまた仕事や家事に戻る。

だがこの日、寺院は鐘を鳴らすことなく町は祈りを忘れているかの様な喧騒に包まれていた。
城内での大きな行事が行われるからである。

城内中央の庭園でヒサコ妃殿下を迎えての園遊会が始まろうとしていた。

周辺各国の大使、王都の貴族や要人、寺院の代表たちが集まっている。

国王と王子、そしてヒサコが入ってくるまでは軽い食事と食前酒が振舞われている。

その合間にさまざまな交渉ごとがあちらこちらで交わされるのである。

そして頃合いを見て王族が会場に入ってくると
周りは一斉に国王の善政を、王子の凱旋を
そしてヒサコ妃の一年ぶりの帰国を讃え、乾杯とともに宴が始まる。

俺「おい・・・」
ヒサコ「なんですの?あまり声をかけないでくださる?」
俺「王子の様子は?」
ヒサコ「特に変わったところは」

ヒサコはひっきりなしに挨拶に来る貴族や商人達にクソ丁寧な挨拶と適当な社交辞令を交わしながら、
少しイライラしながら俺の相手をしていた。

シュブールが置いていった式神のおかげで俺とヒサコは会話ができる様になっている。

園遊会上に式神が各所に貼られているので俺にも外の様子が見えるようになってはいるのだが、
見る場所を切り替えるのが面倒なのでヒサコから話を聞いた方が早いと言うのが今後の検討課題だろうシュブール?!

とはいうものな、窮屈な真っ暗な箱の中に入れられっぱなしでたまったものではない。

俺「お前、前からそうだったよな」
ヒサコ「なにがですの?!」
俺「膝枕さま〜とか言って俺の膝に甘えてたかと思ったら侍女の声がした途端に俺から離れて慌てて服を着替えてさ、
脱ぎ散らかした服を俺にかけたまま慌てて部屋から出ていったよな!」
ヒサコ「だ・・・ですからあれは急に隣国から殿下・・・王子がお越しと聞いたから慌てていただけで、悪気はありませんのことよ!」
俺「帰ってきたらなんか舞い上がってクルクル回って目を回してそのまま床で爆睡こいてたよな!」
ヒサコ「そんなことは?!・・・まぁ・・・二度位」
俺「三度だ」
ヒサコ「まぁ!細かいことをよく覚えてらっしゃること!・・・やはり、そこまで私のことを想って頂いていたのですか?」

いじらしいですわぁぁぁ!

をい、このバカをどうにかしてくれ
周りにダダ漏れだろうが!

案の定、ヒサコの目の前にいた(らしい)母子連れが固まっていた。

ヒサコ「い・・・い・・・いじらしいほど可愛いおぼっちゃまですわね・・・これからもご両親の言いつけを守って健やかに育ってくださいねオホホホホホホホホホホホ」

ヒサコ「親子連れの方でしたの、
上手く誤魔化しましたわ」
俺「たまたまだ、それに、」
ヒサコ「なんですの?!」
俺「おめでとう、お前は遂にショタコンの称号を手に入れた」
ヒサコ「・・・この騒ぎが片付いたら少しお話ししませんこと?」
俺「いいだろう、俺の膝の上でか?それともお前の膝の上でか?」
ヒサコ「そそそそ・・・そんなことされたら私・・・おおおおお・・・」

おかしくなってしまいますわぁぁぁぁぁ!

やっぱり痛すぎるなお前は!
今度はどうやって誤魔化すんだ?

ジジィ「ほぉっほっほっほぉー!
ちょうど宜しゅうございました。
当店の新製品の『お菓子』を差し上げます。
存分に食ってくだされっへっへぇー」

王都名物「膝の月」本舗のジジイじゃねーか?!
どんなミラクルだよ?
お菓子食いたくなってしまうじゃねーよジジィ
どんだけナイスアシストだ

俺「オイ、ヒサコ!・・・どーした?
反応がねーぞ!死んだか?」

ヒサコ「もう・・・堪えられませんわ!
さっさとあなたを兄上に差し上げて部屋に篭ります!」

プルプルしていた・・・

俺「お・・・、おい!段取り無視すんな!ヲイ!」
俺が呼び止めるのも気にせずにヒサコはヒザーラ王子の席に俺を抱えて駆け寄った・・・

ヒサコ「あ・・・.兄上・・・改めてこ・・・此度の凱旋おめでとうございます・・・ですわ!
で・・・私からのお祝いと言ってはな・・・なんですけれども・・・これを受け取ってくださいませ!あ・・・でも・・・お部屋に戻ってから開けて頂いた方が・・・ここで開けてしまいますと・・・なんと言いますか・・・兄上の性癖が・・・というか私もですけれども・・・いえ、私のことはお構いなく!もうすっかり皆様にバレておりますわ・・・
ってそういうことではなくて・・・とにかく・・・ハイ!」
さっさと渡せこのクズが!

ヒザーラ「あ・・・ありがとう、妃殿下
あなたから贈り物を頂くのは久方ぶりのことですね、兄と呼んでくれる事を嬉しく思いますよキラッ」

なんだよ昼間と違って完全いいお兄さんモードかよ死ぬまでそのままでいろや

ヒザーラはヒサコが差し出した箱(中身は俺)に、手をかけた・・・
箱を受け取ろうとして手を自分の方に引こうとしたが、動かない!
ヒサコとヒザーラの間を挟んで俺は小刻みに行ったり来たり・・・なんなんだ、渡す気ねーのかヒサコっ!俺を渡してとっとと国に帰れ!

ヒサコ「ゥゥゥゥゥ・・・」
泣いとる・・・なんでここで泣くんだよ!泣く要素あるか!?

ヒサコ「兄上・・・私の分まで可愛がってくださいませぇぇぇぇぇぇ!」・・・泣きながら帰っていったよ
ヒザーラもドン引きだろ?

ヒザーラ「・・・うぅぅッ!ヒ・・・ヒサコぉぉぉ!あ・・・ありがどぉぉぉぉぉッ!」

お前らやっぱり兄妹だな!違和感仕事してねーわ!これは会場もさぞかし雰囲気氷点下に・・・
みんな泣いてるーーーーー!
さっきの親子連れも菓子屋のジジイも
・・・そして、国王まで顔ぐしゃぐしゃにして泣いてるやないかーーーーーい!

国王「尊きや!ヒサコの兄を思う気持ち・・・
我が王都の宝となろう!
この歓びを国中の民と分かち合わん!
さぁ鐘を鳴らせ!祝いの鐘じゃぁぁぁぁ!」

招待客も場外の民衆も何を勘違いしたのか
【ウォォォォォォ!】とか叫ぶし鐘はカンカンなり続けるし町中大騒ぎではしゃぐわ誰が仕込んだか知らないが花火まで打ち上がり始めた
・・・俺はなんちゅうコントを見せつけられてるんだ?

園遊会という名のバカ騒ぎは夜を徹して行われた

シュブール・・・早く帰ってこないと俺がこの国を滅ぼしかねんぞ!

<第三章 第五章

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