オリオン座と卒論

星空が綺麗なこの季節になるといつも思い出すことがある。
それは大学四年生の時、夜道を友達と歩いていた時のことである。

文学部の私達には卒論という大きな課題があった。1月の上旬に2万字以上のものを提出しなくてはいけなかった。
おそらく10月か11月ぐらいのことだが、ふたりとも進捗はよろしくなく、常に頭の中に卒論を書き終えられるかという慢性的なストレスがあった。

冬の星空を見て私は言った。「オリオン座を先に見つけた方が卒論を早く完成できるよ」
全くよく分からない理屈だったが友達も乗ってくれて、気づけば歩く足を止めて冬の星座をただひたすらに眺め回した。

よく分からない理屈なのにふたりとも必死だった。見つけられなかったらどうしようという緊張感が胸を渦巻いて体が気持ち悪くなった。

最終的に発案者の私が先にオリオン座を見つけた。その年の冬では初めて見つけたオリオン座だったので尚更嬉しかった。友達は気持ちいいほど悔しがってくれて、卒業したくないなあと思った。

結局のところ、友達は最終提出日の4日ほど前に提出終えた。極めて優秀である。一方私は最終提出日の0時に卒論書き終えて一度寝たあと、5時頃に起床して近所のコンビニエンスストアで卒論を印刷したくらいには追い込まれた。2万字でいいところを5万字書いた記憶がある。綺麗にまとまった文章でもないのでただただ自己満足の域である。それでも中原中也のある詩について丹念に追求できたのはとても幸せだったと今でも思う。

ちょっと変わった星座占いは見事に外れたけれど、これからもこのエピソードと友達のことはずっと忘れずにいたいなと思う。

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