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特性と工夫

つづきです。

捨ててもいい、手放してもいいや、と思うとだいたいいつも強気になれる。
リミッター解除っていうか本領発揮っていうか、捨て身だからか。

先生に隠し事をしていた本人は話しづらそうだったので、口火はわたしが切った。

「一人暮らしをしてから薬が飲めていなかったことが最近判明しまして~現在手元にたくさんの薬があります。朝も起きれないようで、毎朝なんども電話をかけて起こしております。薬を飲むことは無理なようですので、もうやめてもいいかなと思っているのですが~」

先生は「家出てたんだっけ?!あーそうかそうか、そりゃたいへんだ」って、やっぱりか。先生にはご報告差し上げていて「がんばれ」とのお言葉を頂戴したはずなんだけど。
まー医者あるあるで、これまでのいろんなお医者さま、いちいち覚えてらっしゃらないことは多々あったので、大切なことは、ラブソング並みに「なんどでもくりかえしいうよ~」という姿勢は、必要なのかなーと思います。
若者(うちの子)は「1回言ったしな」って省きたがるけれど、1回くらいで他人に伝わると思うな、なんでも把握してもらえると思うな、ってことっす。

先生は薬推進派なので「飲まないと大変だよ」とガンガン飲む方を推してこられるんですが、だーかーらー無理なもんは無理なんだってーとは言わないよ絶対なんだけど「ですよね~でも飲めないんで~」とのらりくらりかわしていた。

そこで、目の覚めるような会心の一撃が先生の口から。

「特性は仕方ない。でも工夫はしないとね」

ひとつのワードが場の空気を変えることってありますね、たまに。
親子ともに「ハッ」としたんですよね。

「工夫は」ってそれそれ~それよ~
わたしも夫も、家族全員思ってたやつ。
できないこと、苦手なことはある。それは理解しようとしているけれど、そのまま何もしないままでいいのかね?いくらなんでも甘んじて受け入れすぎなのでは?と、みんなずっと思っていた。
やっぱりそうだよね、工夫しろって言っていいよね。

それじゃー困るだろう、と思うけれど当人は困り感が乏しいのか、それも含めて特性なのか。結局周りの人間が耐えかねて、対策に乗り出す、すると自発的なものではないので本人はイラっとする、はぁ?誰のためにやってると思ってるのよ、はぁぁ?頼んでないし・・・みたいな本末転倒バトルに発展するのが毎度おなじみのパターンで。

今さら言っても無駄なんで、近ごろ提案しなくなってたんですけど、できないから仕方ないって諦めたらそこで終わっちゃう類のこともある。
工夫だ工夫~先生ぐっじょぶ!!ありがとう。

ご本人にも刺さった気配が、じわりと伝わってきた。親がいくら言っても刺さらないことが、外部の人が言ったらスルッと刺さるってことが、時としてある。

「どうして飲めないの?どこらへんが難しい?」
「うーん、忘れる、面倒くさい、先送りの3点です」
「はり紙しなさい、玄関にはり紙して、薬も玄関に置いておきなさい」

はり紙・・・オーソドックスな手だ。
今までにもさまざまな折に、はり紙はしてきたさ。しかし、はり紙には結界がはられている。目から脳に到達しない人なのである。絶対視界に入るはずの場所にあっても、見てなかったとすっ飛ばされる。今までの経験から、効果は期待できないことをわたしたち家族は知っている。
絶対に忘れないようにと玄関にデーンと置いていても、それを無意識にまたいで忘れて行ってしまう子なのだ。

が、本人はこぶしを軽く握りしめ「はり紙します!」と応えた。
がんばります感出しとる~がんばらないのにがんばる感出すのやめてほしい~家に帰ったらすっかり忘れるか、覚えていても面倒になってはることはないと思われるのに。

先生の一言で情勢が一変し、本人のガッツ?でとりあえず「薬を飲んでいこう」という流れで診察は終了。
気合いだけじゃ、今までと何も変わらねぇぜ、と半ばやけくそで病院を後にする。

薬局では担当の薬剤師さんが待っておられる。
待ってないんだけど、なんだかいつも気にかけてくださっているありがたいお方で、優しく迎えてくれる感がある。
やけくそ気味のわたしはコトの経緯を聞いてもらう。「一人暮らしで~」から何度でも言う。やっぱり「あ、そうだったんですか~」引越なのか家を出たのか、わざわざ言わないと判別できないよね。若者は言葉が少なめ、住所変わりましたと言えばわかるだろう、みたいな。

「薬やめてもいいかな~と思っていたんですが、先生から『工夫はしなさい』と言われて飲むことになったんですよね~『玄関にはり紙をしなさい』って言われたんですけどね~」と打ち明けた。

ご本人再び「はり紙します!」とやる気をみせる。

いやぁ・・・ねぇ・・・とわたしと薬剤師さんは苦笑い。

「薬はどこに置いてますか?動作で流れてしまう場所よりも、止まる場所がいいですね。たとえば歯磨きはどこでしますか?歯磨きだと2,3分その場にとどまるので、はり紙をしても頭に入りやすく、薬を飲むというアクションに結び付く可能性が高くなるかもしれません」

なるほどなるほど。
動作の途中にメモがあっても、気付かなかったり、「めんどくせ」のスイッチが入ったり、後回しになりがちだ。確かにそうだ。
スルスルと流れてしまいそうなところより、確実に停止する場所。はり紙を見るのではなく読めるところ。

薬剤師さんナイス~救世主か。

かくして、薬の場所を移動することになり、はり紙も洗面所の鏡にはることとなった。それですべてが解決するわけではないだろうが、今までより確率上がるのは確実だ。

話してみることは大事だな、と改めて思う。自分にはない知恵、発想がころんと転がりこんでくることもあるんだから。


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