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【フランスおいしい旅ガイド】オーヴェルニュの郷土料理

中央高地地帯の料理は、素朴な山村の味をよく伝えている。食生活の中心となっているのは、具がたくさん入ったスープやポテ、素朴な煮込み類であり、フランス料理のいわば基本が守り続けられているといえよう。というのも、そもそもフランス料理の基本は「煮込むこと」にある、といわれるからである。

スープ、ポテ、ポ・ト・フー


○キャベツのスープSoupe au Chou

オーヴェルニュ地方の素朴なスープ。鍋に湯を沸かし、粗くちぎったキャベツ、薄切りしたジャガイモ、適量のラードと塩を入れ、30分ほど煮立たせる。オーヴンで焼いた薄切りのパンをスープ鉢に並べ、その上にスープを注ぐ。最近では塩漬け豚肉やベーコン、ソーセージなどの豚肉加工品、豚のすね肉、人参、セロリなども加えるのが一般的になってきた。キャベツに挽肉などの詰め物をして入れることも多い。

○オーヴェルニュ風ポテPotée Auvergnate

ポテは鍋potに語源をもつ言葉で12世紀頃から使われ出したが、豚肉あるいはその加工品と、キャベツ、ジャガイモなどの野菜スープで、ポ・ト・フーとの違いは、ポテの方が具が多く、ごった煮に近いことである。中央高地ではポテ作りが盛んで、オーヴェルニュ風ポテには、塩漬け豚肉、ベーコン、ソーセージ、キャベツ、ジャガイモなどが入る。汁と具を分けて、スープと主菜の2皿の料理として食べることもある。

○カンタルチーズ入りスープSoupe au Cantal

オーヴェルニュ南部でよく作られる、一種のオニオンスープ。玉葱とニンニクの薄切りをゆっくり炒めてから水を加えて煮込む。一方、土地の自慢のカンタルチーズとライ麦のパンの薄切りをスープ鍋に幾層にも重ね、このスープを注いでふたをし、しばらく煮込んだもの。

○栗のスープCousinat

森林の多い中央高地では、栗も主要な食料であった。皮をむいた栗をブイヨンあるいはセロリやポロネギなどの香味野菜を加えた水で煮て、やわらかくなってから栗をつぶし、バターと牛乳を加えて再び火にかけ、味を調える。この他にも栗は、ピュレにしたり、肉料理の詰め物やタルトなどの菓子に盛んに利用されている。

○ムルテイロルMourtayrol

オーヴェルニュ版ポ・ト・フー。肥鶏、ハム、キャベツの3つは必ず入ることになっている。そして材料が煮えた頃パンの薄切りとサフランを加え、さらにとろ火で30分ほど煮込む。

★ポ・ト・フーPot-au-feu

「火にかかった鍋」の意。フランス各地で最も家庭的な惣菜の1つ。牛肉や鶏、人参、カブ、セロリ、ポロネギ、玉葱などの野菜を、塊のままブーケ・ガルニ(香草の束)とともに大鍋に入れて沸騰させ、浮いてくる脂やあくをすくい捨てたあとは、静かに何時間も煮込んで作る。食べ方はまず温かいスープを楽しんでから、具を味わう。肉にはスープにとられた味を補うため、マスタードやホースラディッシュなどのぴりっとしたものを添える。なお、このスープはブイヨンと呼ばれ、あらゆるポタージュのだし汁になる。

煮込み料理


○雄鶏の赤ワイン煮Coq au Vin

フランスの数多いワイン煮込みのなかで、牛肉の赤ワイン煮と並んで有名なもの。一般的な作り方は、まず鶏をぶつ切りにして、前日から香辛料とともに赤ワインに漬け込んでおく。鍋にバターかラードを溶かし、ベーコン、玉葱、マッシュルームを炒める。これに漬けておいた鶏肉を加え、色づけるように炒める。ブランデーをふってフランベ(アルコール分を燃やす)する。漬け汁を注ぎ、ふたをして煮込む。やわらかくなったところで鶏を取り出し、煮汁でソースを作る。このソースは煮汁をブール・マニエ(同量の小麦粉とバターを練り合わせたもの)でつないだもの。農家などでは鶏の血を仕上げに加える。

この料理がフランスのどの地方で始まったとしてもおかしくないが、この地には古い伝説が残されている。カエサルのガリア征服の頃のこと、ローマ軍に追いつめられたガリアの大将は、中央高地の山中に逃げ込んだ。そこで大将はカエサルをからかおうと、老いてしかもやせた雄鶏を贈り物にした。ところがカエサルは、翌日休戦したうえ、この大将を食事に招待する。豪華な宴会のさなか、赤いソースの料理が運ばれてきた。大将はこの料理のおいしさに驚きこれは何かと尋ねたところ、カエサルは昨日もらった雄鶏だと答えた。ガリアの大将は、老鶏の硬い肉が見事な美食に生まれ変わったのを通して、ローマ文化の高さ、深さを悟り、その支配を受け入れたという。

伝説はともかく、多くの食通達がオーヴェルニュ地方の雄鶏の赤ワイン煮を高く評価する最大の原因は、シャンチュルグChanturgueの赤ワインにある。年代物のシャンチュルグは煮込んでも変質することなく、でしゃばることもなく、鶏の持ち味を生かしてくれるという。残念ながらこのワインの生産は減少を続けている。

○ブレヨード風羊もも肉の煮込みGigot Brayaude

オーヴェルニュ地方には「ブレヨード風」の名のつく料理が多い。これはガリア時代にクレモン・フェランの北方リオム周辺に住む人々がはいていたズボンの名、ブレbrayからきている。中でも有名なのはブレヨード風羊もも肉の煮込み。羊の骨つきもも肉に何カ所か切れ目を入れ、そこに豚の脂身とニンニクを差し込む。玉葱、人参とともに焼き色をつけてからブイヨン、香辛料を加え、肉がほぐれるまでゆっくりと煮込んで作る。つけ合わせにキャベツの蒸し煮、赤インゲン豆の煮込みを添える。

○ブレヨード風オムレツOmelette Brayaude

ベーコンとジャガイモの入ったオムレツで、仕上げに生クリームとすりおろしたカンタルチーズをかける。

○塩漬け豚肉とレンズ豆の煮込みPetit Salé aux Lentilles

塩漬け豚肉は中央高地一帯の料理に頻繁に使われる。煮込みやスープに使われるものはプティ・サレPetit Saleと呼ばれ、甘塩の部類に入る。豚の上ばら肉を塩味のあまりきつくない、香辛料入りの漬け汁に約半日漬けたもの。中央高地ではこの塩漬けの豚肉をキャベツあるいはレンズ豆と蒸し煮にしたものに人気がある。この料理は、水から煮たレンズ豆の中に、玉葱、ニンニク、ブーケ・ガルニ、下ゆでした塩漬け豚肉を加えてことこと煮込んだもの。

ちなみにレンズの名は、その形が扁平なこの豆によく似ていることからつけられた。直径6mm位の小粒の豆だが、その栽培の歴史は大変古く、紀元前からアフリカやアジアにかけての広い地域で作られて、粥やスープにして食べられていた。多数の品種があり、フランス料理に用いられるのは通常ドイツ種と呼ばれる茶色いものと、この地方にしかなく「ル・ピュイのレンズ豆」と呼ばれているくすんだ緑色のもの。このル・ピュイのレンズ豆は、小粒で色、味、香りともすばらしい。

Ambassade d'Aubergne, Paris

○塩漬け豚肉とキャベツの煮込みPetit Salé aux Choux

塩漬け豚肉とキャベツ、人参、ジャガイモ、玉葱などを水からゆっくりとキャベツがとろけるばかりになるまで煮込んだもの。

○ヤマウズラの蒸し煮 レンズ豆添えEstouffade de Perdrix aux Lentilles

焼き色をつけてからワインで蒸し煮したヤマウズラに、レンズ豆とベーコン、その他の野菜を加えてさらに煮込んだもの。

○トリプーTripoux

臓物を使った煮込み料理。羊か仔牛の胃袋を四角に開き、この中に、仔牛の腸間膜や羊の足からこそげとった肉、玉葱、ニンニク、パセリなどの香草、香辛料を詰め、四方からクッションのような形に包み込む。最後に羊の足を差し込むと、ちょうど小型の骨つきもも肉のような形に仕上がる。たこ糸で結んで、ブイヨン、白ワインにブーケ・ガルニを加えてゆっくり、7~8時間かけて煮込んでいく。オーヴェルニュ地方から南部のルエルグ地方にかけての料理。

○ファレットFalette

栗を加えた詰め物を羊ばら肉で巻いて煮込んだオーヴェルニュ地方、特にエスパリオンの料理。仔牛で作ることもある。

スペシャリテ


○七面鳥の栗詰めローストDindonneau aux Marrons

クレモン・フェラン生まれのクリスマスのご馳走。その由来は、ある寒いクリスマスの夜、街頭に仲の悪い栗売りと七面鳥売りが隣り合わせで出ていた。けんかから話し合いになり、商売の知恵を出し合っているうちに2人は七面鳥に栗を詰めることを思いついた。以後2人はこの料理を売り物にして、売れ行きが大幅に上がったという。作り方は、あらかじめ下ゆでして7分通り火を通した栗を、豚や仔牛の挽肉、玉葱などと一緒に七面鳥に詰めて、オーヴンで時々焼き脂をかけながらローストする。焼き汁で作ったソースを添える。

○野ウサギのバロティーヌ 栗添えBallottine de Lièvre aux Marrons

秋から冬にかけての出会いもの。野ウサギは骨や内臓を取って1枚に開き、ここに野ウサギの肝臓と肉、トリュフなどで作ったファルスをのせ、巻いて形を整えてからローストする。ゆでた栗、人参のグラッセを添える。

○ホロホロ鳥の詰め物 モリーユ添えPintade Farcie aux Morilles

ホロホロ鳥に鶏や仔牛の挽肉、パセリ、エシャロットを加えて作ったファルスを詰め、蒸し焼きにしたもの。仕上げにバターで蒸し煮したモリーユ(アミガサタケ)を加える。モリーユは中央高地の森に生えるものが特に名高い。

○ストフィナードStofinado(またはエストフィナードEstofinado)

料理名はオック語の干し鱈、エストフィestofiからきている。一説によると、ネーデルランド戦争(1667~68)のときこの地から遠征した兵士達が北国の干物の魚を持ち帰ったきたことに起因するという。鱈は塩抜きしてから細かくほぐし、クルミ油で身が白いピュレ状になるまでよく混ぜながら炒める。ここに卵、生クリームを加え、ニンニク、パセリ、塩、胡椒で味つけする。カンタル地方の南部からルエルグ地方にかけての名物。

○セップの詰め物Cèpes Farcis

豚の挽肉に、細かく刻んだ豚の背脂、玉葱、ニンニク、パセリ、セップ茸(ヌメリタケ)の茎を混ぜてファルスを作り、裏返したセップの笠に詰めてオーヴンでゆっくり火を通したもの。

軽食類


○アリゴAligot

ゆでたジャガイモを熱いうちにピュレ状につぶし、バター、ニンニク、生クリーム、刻んだトムチーズ、塩、胡椒を加えて、なめらかになって糸を引くまでよくかき混ぜる。温かいうちに食べる。ジャガイモの代わりにパンを使ったものは、パトランクPatranqueと呼ばれている。ライ麦パンを牛乳に浸してどろどろにし、バターを溶かした鍋でチーズを加えながら温めて作る。

Ambassade d'Aubergne, Paris
Ambassade d'Aubergne, Paris

○プンティPounti

豚の背脂、玉葱、ベット、パセリ、セルフィーユなどをみじん切りにしたものに、卵、小麦粉、牛乳を混ぜて、塩、胡椒で調味し、バターかラードを溶かした鍋に流し込んでオーヴンで焼いたもの。このプンティを腸詰めにしたものがプンタリ Pountariで、スープの中でゆでて食べる。

○クリケットCriquette

すりおろしたジャガイモと卵を混ぜて作るクレープ。

○トリュファードTruffado

ゆでて薄切りにしたジャガイモと、刻んだベーコン、ニンニクを炒め、さいの目に切ったカンタルのトムチーズ(白くてやわらかい、あまり熟成させていないチーズ)を加えて混ぜたもの。

○パティヤPatia

ジャガイモのグラタン。

○トゥーリファTourifas

ベーコンと生ハムを煮てペースト状にし、パンに塗って揚げたもの。

ブールボネ地方の料理


○ガチョウの赤ワイン煮Oyonnade

ガチョウの飼育が盛んなブールボネ地方の料理。ガチョウを一口大に切ってベーコンとともにラードで炒め、ブーケ・ガルニ、小玉葱、ニンニクを加えて小麦粉をふり入れる。赤ワインを注いで沸騰してきたら、火を弱めて煮込む。仕上げにガチョウの血とつぶした肝でとろみをつける。

○ヴィシソワーズVichyssoise

ジャガイモとポロネギのピュレに生クリームを加えた冷製ポタージュ。野菜が豊富なブールボネ地方のヴィシーで1920年代に考案された。


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