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MIU404 第4話

 MIU404 第4話。
拳銃使用による殺人未遂事件が発生する。被害者は元ホステスの青池透子(美村里江)で、加害者男性も含め現場から立ち去った。通報を受けた伊吹(綾野剛)と志摩(星野源)は、透子が駆け込んだ付近の薬局店へ急行する。店主の証言では、透子は店内で銃創の応急処置をした後、大金の入ったスーツケースを持って姿を消したという。透子が過去に裏カジノ事件に関与していた事を知る桔梗(麻生久美子)の指示で、伊吹と志摩は透子の行方を追うが…
(以上、公式サイトから。)

 ミムラって「美村里江」に改名してたんだ。知らなかった。防犯カメラ(またも防カメ!)に映った表情が、なんとも言えない荒んだ顔で、どきっとした。前話の「スイッチ」の話でいえば、青池透子の人生には「障害物の数」が多すぎたんだと思う。不意なきっかけで道を踏み外してしまう。違法カジノに連れられて、のめりこんでしまって、借金を抱えて、暴力団の息のかかったその裏カジノで自身も働くことになって。そこへ警察がガサ入れに入る。
 証言してくれた内通者を危険に晒したけれど、刑事部長(生瀬勝久)は「私たちは常に、多い方を取るしかない」と、少数の犠牲に目をつぶる姿勢を示す。それによって助けたはずの青池が再び道を踏み外したことに、どうしても引っかかってしまう桔梗隊長。前話で隊長自身が語った「治安」を第一に考えれば、「数の論理」に納得してもおかしくないとは思うけど…被害者の救済でも加害者の更生でもなく、その他大勢の人間の安全である「治安」も大切だけれど、彼女としては、更生も救済も捨てずに優先していきたいということか。

 ウサギの話。PCショップに聞き込みに行く二人。気が付けば、伊吹がウサギの編みぐるみをダッシュボードに置いている。ショップからもらってきた、青池の手作り(よく見ると元々はウサギとカメのセットだった)。
 「ウサギってさ、追いつめられると、オオカミも真っ青の強烈なキック繰り出すんだって。」強烈な反撃を繰り出すウサギは青池そのものだ。ウサギは鳴かない。声高に主張することなく、暴れもせず、ただ現状に耐えている、ように見える。編みぐるみと同じように、職場で静かに座り、ただ目だけが赤く光っている。あの監視カメラの映像のように。
 空港行きのバスに青池が乗ったことが分かり、警察と住之江組が一斉に動き出す。「Bと組対と一機捜と俺ら、誰が一番に1億円と青池ちゃんに辿り着けるか、わくわくするね」伊吹が言い放つと同時に、志摩がギアチェンジしながら急ハンドルを切り、車線変更して高速に乗る。瞬間、ダッシュボードから滑り落ちるウサギの編みぐるみ。思えば、青池の今後を暗示していることに2回目で気づいた。直後、青池の乗るバスに追いつき、2台とも高速を降りる。このとき「CMD」のバスが並走している。のちの回想シーンで青池がこと切れる瞬間に映っている、例のウサギを乗せたトラックに違いない。
 いろいろあって(はしょりすぎか)、最終的にウサギは海を渡り、海外の子どもを救うことになる。青池は強烈な反撃を繰り出すウサギであり、オフィスにおとなしく座ったり、ダッシュボードから滑り落ちて倒れたり、1億円の輝きを湛えて海外に渡ったりするウサギも、全て青池透子なのだ。

 銃の話。クライマックスで、銃を突きつけられる志摩。「いいよ、俺は。」志摩は自ら犯人の銃を額に押し付ける。1話の伊吹と志摩のやり取りを思い出させる。犯人に自分の銃(おもちゃだったけれど)を突きつける伊吹と、犯人の銃を自分に突きつける志摩。行動は対照的だけど、どこか似ている。そしてどちらも二人がぶつかるきっかけになる。「そいつの本性を知るには、生死が懸かった瞬間を見るといい。」とは、伊吹の言葉である。「志摩の本性が死にたいやつだったとは」。伊吹は犯人に思い入れがあり、志摩は自分の命に罪悪感がある。それがとてもはっきり浮かび上がるシーンだった。

 逆さ読みの話。青池の残した「つぶったー」の投稿内容を読む一機捜の面々。(そういえば、このアカウント画像もウサギだった。編みぐるみのウサギも自分の分身のつもりだったのかもしれない。となると、1億円を持って海外に送られるのがウサギの編みぐるみだったのにも納得がいく。)最後に残した荒んだツイートを読んだ桔梗隊長は、救いのない彼女の気持ちを想像して「遺言みたい」と顔を曇らせる。ところが程なくして、新しいものから順に表示されるSNSを上から読んでいたことを指摘される。(さすがにその年齢でそこまでジェネレーションギャップはないだろう…とは思うものの、唯一正しく読めていた九重が最後までギャップに気づいていなかったあたり、妙にリアルでよかった。暗黙の前提みたいなものって、わざわざ確認しないからズレていてもなかなか気づかないよね。)同じ一連のツイートでも、順番を変えて読むことで意味合いが変わり、ポジティブな文章になっていく。
 どこかで見たな、と思い出した。ちょっと前(調べたら2020年なのでだいたい1年前か)の西武のCM「さ、引っくり返そう」だ。新聞広告と映像があったらしいけれど、youtubeに上がった映像だけ見たことがある。力士の映像とともに、勝負に勝つことをあきらめるようなネガティブなナレーションが重ねられ、一行ずつ表示される。「土俵際、もはや絶体絶命」という言葉と共にいよいよ力士が追いつめられたところで、「さ、引っくり返そう」とテロップが出てくる。今までの文を一行ずつ後ろから読んでいくと、逆境にあっても勝つことをあきらめないポジティブな宣言として、一連の文章が立ち上がってくる仕掛けになっている。新聞広告では一行ずつ印刷された文章の最後に「逆から読んでください」と注意書きがついていたらしい。これをヒントにしてできたエピソードかな、と思ったけれど、SNSとジェネレーションギャップをキーにするあたり、とてもうまいと思った。

 タイトルの話。「ミリオンダラー・ガール」。「ミリオンダラー・ベイビー」なら映画であったけど、聞きなれないワードだな、思いつつ、1億円を奪った青池透子のことか、と受け止める。でも、ここで「ガール」にしたのはちゃんと意味がありそうだ。今回初めて紹介された「10億の女神」こと羽野麦。彼女も同じく大金を奪った「女の子」ではある。青池の働く裏カジノを通報して潰したとき、「許せなかっただけです、女の子たちが酷い目に遭わされているのが」と話していた。奪ったお金を女の子のために寄付した青池と同じように、どちらも「女の子」として「女の子」のために大金を奪っているのだ。
 たしか「ミリオンダラー・ベイビー」の主人公も女性だったよなあ、と思って調べてみた。観たことはなかったけれど、「荒んだ若い女性が年老いたトレーナーと出会い、二人三脚でボクシングに挑む」みたいな話だと思っていた。だいたい間違っていなかったけど、ネタバレを見てしまった。主人公の「女の子」は試合中のダメージで最終的に亡くなってしまう(尊厳死ではあるけれど)らしい。それを知ってしまうと、今回のタイトルもあえて重ねている気がしてくる。人生の障害物が多かったであろう孤独な「女の子」が、野望を叶えようと奮起し、最後には亡くなってしまう話。あれ、羽野麦は…?

気になったこと。
・青池のちょっと荒んだ感じは、唇がちょっと荒れて見えたこともあるのかな、と思った。もちろんあえての演出だろうし、荒んで見えるように演技しているからなんだろうけど。

・宝石店の女性社長の「やり手」感がすごくて笑ってしまった。警察が来て即座に「善意の第三者」を主張するあたり、海千山千、という言葉がしっくりくる。いろいろと乗り越えてきたんだろうな、という背景を感じさせる。青池に肩入れする雰囲気もあり、「女の子」のひとりとして、もっといえば生き延びた「ミリオンダラー・ガール」として描かれているのかな、という感じがする。

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