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とん八亭

 路地裏というか、建物の間をすり抜けた先にお店があった。マップ上で道があるのに気づかずに、見つけるまでブロックを一周してしまった。
日曜の13時ごろだけあって、さすがに行列ができていた。トンカツ屋さんの回転スピードがどんなものかよく分からないけど、なかなか進まない。途中で店員らしきおじさんが何度か人数を数えに来る。案内の順番を調整しているみたい。
 30分ほど経って店内へ。カウンターの内側からいらっしゃい、と言われて顔を見ると、列を見に来たおじさんだった。彼が揚げ場、もう一人が接客の二人体制。席はテーブルとカウンターが同じくらい。カウンターも思ったよりゆったりしている。感染対策で席数減らしてるのかな。高級感はないけど、ちゃんと清潔感がある感じ。
 カウンターには「ソースは何がいいですか?」と貼り紙が。こだわりかこだわりなのかぁ、と思って読んでみると、二行目には「お好きなものをご自由にどうぞ」とある。予想外のフリーダム。三行目から長めの文章が続くので、おすすめが来るな、と思ったら、「ウスターも人気みたいです」「キャベツ用にマヨネーズも置いてみました」とか「流行りなので岩塩でも」とか。店側の思いは伝えず、あんたの好きにしなよ、と突き放したゆるさが好ましい。
 待っていると、カウンターからばっしんばっしんと音が響いてくる。重そうな肉叩きを肩まで振り上げるおじさん。こうして何度もしっかり叩くことで肉が柔らかく仕上がるのね。知らんけど。そういえば厨房で肉を叩く光景を見たの生まれて初めてかも。
 ロースカツ定食が到着。ご飯とキャベツはお代わり自由、味噌汁はお代わり100円、それと漬け物。カツはかなり分厚くて、文庫本2冊くらい。びっくりするほど柔らかい、ということもないけれど、水分はしっかり残っている感じ。がっちりした歯ごたえと豚の独特の香りで、「肉を食ってる!」感が強い。脂身は少し削いでいるのか、ちょうどいいバランスで残っていた。衣は大きめのパン粉でサクサク。裏側は蒸れて剥がれてしまっていたけど。
 キャベツはいかにもトンカツ屋さん、なふわふわの細切り。これこれ、と嬉しくなってお代わりをお願いすると、お皿に盛られて出てきた。漬け物はきゅうり、大根、人参にごぼう。ごぼうは珍しいな。シンプルな塩漬けみたいでおいしかった。

 どことなくゆるくて人の良さそうな接客とセッティングが、なんだか好きになるお店だった。

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