怖い話。タイトル「蝶のふすま」

江戸時代の終わり、ある町に住む若い女性・美和は、古びた家に引っ越してきた。
その家は、かつて誰かが住んでいたらしく、ふすまには美しい蝶の絵が描かれていた。
美和はその絵に魅了され、何度も眺めては心惹かれた。

しかし、ある夜、美和は不気味な夢を見た。
夢の中で、蝶の絵がふすまから動き出し、部屋中を舞いながら美和を追いかけてくるのだ。
美和は恐れおののき、目が覚めたときには汗だくだった。

その夜から、美和は何度も同じ夢を見るようになった。
そして夢の中で、蝶のふすまが次第に怖い存在へと変わっていった。
蝶たちは美和を閉じ込め、彼女の心を蝕んでいくのだ。

美和は怯えながらも、その夢が現実にならないように毎晩祈り続けた。
彼女は、お守りを握りしめ、ふすまに向かって
「どうか、悪夢が現実になりませんように」と願った。
だが、夜が更けると、ふすまに描かれた蝶の姿がますます不気味に感じられるようになった。

ある晩、美和はふすまを見つめながら、疲れ果てて眠りに落ちた。
ふすまの蝶は静かに佇んでいるだけだった。
しかし、深夜になって目を覚ました美和は、奇妙な音に気づいた。
羽音のような、柔らかくも不吉な音が部屋中に響いていた。
彼女が目をこらすと、信じられない光景が目の前に広がっていた。

ふすまに描かれていた蝶の絵が消え、代わりに無数の蝶が部屋の中を飛び回っていたのだ。
美和は恐怖に震え、後ずさりしながら壁にぶつかった。
蝶たちは彼女の周りを取り囲み、まるで彼女を飲み込むように舞い続けた。
美和は必死に叫んだが、その声は薄暗い部屋に吸い込まれるように消えていった。

彼女は蝶から逃げようと、部屋の外に飛び出した。
しかし、家の中全てが蝶に覆われており、美和はどこへ逃げても蝶の群れに包まれてしまった。
蝶の羽音は次第に大きくなり、美和の意識は次第に遠のいていった。

翌朝、家の前を通りかかった近所の人々は、美和が庭に倒れているのを見つけた。
彼女の顔には恐怖が凍りついたような表情が浮かび、目は見開かれたままだった。
体は冷たく硬直しており、彼女の口元には薄く笑みが残されていた。
その笑みは、まるで美和が最後に見た何かに驚きと恐怖を感じたことを物語っているようだった。

家の中を調べた人々は、蝶のふすまが完全に消え去っていることに気づいた。
ふすまがあった場所には、ただ空っぽの空間が広がっていた。
そして部屋の中には、一匹の蝶も残っていなかった。
人々はこの出来事に驚き、恐怖の色を隠せなかった。

町の古老たちはこの事件を知り、美和が蝶のふすまに呑み込まれたのだと噂した。
彼女が引っ越してきたその家は、元々不気味な噂が絶えなかった場所であり、
蝶のふすまには何か悪霊が宿っていたのだろうと語られた。

それ以来、その家には誰も住む者がなくなった。
近所の子供たちはその家の前を通る時、必ず回り道をするようになった。
大人たちも、その家に関する話題を避けるようになった。
蝶のふすまの絵は二度と描かれることがなく、その家は次第に忘れ去られていった。
しかし、美和の恐ろしい最期の表情は、町の人々の記憶に深く刻まれ続けたのであった。


終わりに。
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