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結果オーライの結婚式(創作)

「言葉であそぼ」では、五十音を使って物語を描いていきます。今回は「け」から始まる言葉がたくさん入っています。

今日はいよいよ結婚式だ。
計画通りに、とはいえないここまでの道のりは長いようでいて、あっという間だった気がする。

大学生のときにバイトしていたゲームセンターで、変な奴にからまれていたケロちゃんを助けたのが3年前。月光のきれいな夜だった。
変な奴に蹴り上げられたスネはしばらく痛んだけど、結果的にかわいい恋人ができたわけで、僕としてはラッキーな事件だったわけだ。

怪我がひどくなったら大変。そのときは連絡してくださいと、彼女は自分の携帯番号を教えて、ペコペコと何度もお辞儀をしながら立ち去った。電話をすることはないだろうなと思った矢先に、彼女がいた場所で化粧ポーチを発見。電話をして尋ねると、案の定彼女のものだった。
恋愛経験値が低いどころか、異性の友人経験もない僕たちが、なんとなく待ち合わせをしてなんとなく会うようになっていったのは、似たような匂いを感じたからかもしれない。
警戒心をいだくことなく、楽しい時間が積み重なっていった。


ちょっと歌手の研ナオコさんに似ている彼女は、目が離れているのがカエルっぽいという理由で、ケロちゃんというニックネームなんだと笑った。けろりとした顔で僕にもそう呼んでほしいと言う。
人から悪意を受け取らないケロちゃん。汚れのない感じがすてきだなと思った。

ケロちゃんは事件を引き寄せてしまう体質らしく、出会った時のゲームセンターもそうだが、いろいろな出来事に巻き込まれることが桁外れに多い。
歩行者がたくさんいる道で、なぜかケロちゃんだけが警察に呼び止められて、さっき起こった事件を目撃していないか聞かれることも数回。一緒にいった飲み屋で、喧嘩の仲裁を頼まれるのなんて序の口で、先日はけばけばしいおねえさんに決闘の立ち合いを頼まれていた。そしてケロちゃんがいると、勝手に決着がついていくのだった。ケレン味のなさがよいのかもしれないと僕は思っている。

ケロちゃん自身もいろいろとやらかす人で、化粧ポーチもそうだったが、よく物を落とす。そして不思議と全部戻ってくる。健康保険証を落としたと聞いたときは、さすがに心配したが、これもすぐに手元に帰ってきた。
落とすといえば、ケーキを買ったときに箱を落としてグチャグチャになったこともあった。
申し訳なさそうにするケロちゃんは実にかわいくて、僕はやらかし案件が楽しみになったほどだ。
気がかりなのは仕事中のやらかしだが、研究所に勤める研究員であるケロちゃんは、たまに実験道具を落としたりもするそうだ。だが、これも不思議と破損までにはいたらないらしい。


ある日、ケロちゃんを家まで送ったときに雨が降ってきて、お宅にお邪魔することになった。ケロちゃんは実家暮らしだ。
けじめをつけないと、と決意して、お茶を出してくれたケロちゃんのお母さんに、「お嬢さんとお付き合いさせていただいています」と挨拶をすると、ケロちゃんがビックリしすぎて湯呑みを落とした。
そういえば、ケロちゃんに言葉に出して「付き合ってください」と言っていなかった。真っ赤になって恥ずかしそうにしているので、気持ちは一緒だったらしい。よかった。

出かけていたお父さんが帰ってきたときはさすがに緊張したが、僕のような若造にも敬意を払ってくれる方で、少しずつ気持ちはほぐれていった。

ケアマネジャーをしているというお母さんの聞き上手ぶりに、こういうのを傾聴というんだなと感心し、建設会社を経営しているお父さんの軽妙なトークと謙遜な態度に感激し、この健全な家庭で育ったからこそ今のケロちゃんがいるんだと感動し、

気がついたら僕は
「もしももしも出来ることでしたれば、この人をお嫁さんにちょうだいませませ」と頭を深く下げていた。

さだまさしさんの『雨やどり』の歌詞のままを口に出してしまったと気づいたのは、これまた歌詞通りにケロちゃんが気を失ったからで、

それから、

お母さんが「歌と同じことが起こるって傑作ね。ケロらしい」と大笑いし、
お父さんには「ケロをよろしく頼むぞ」と激励されて、

僕たちは結婚の準備を始めた。

僕の家族にケロちゃんを紹介したら、みんなケロちゃんをとても気に入り、お手柄を成し遂げた僕を誉めてくれた。
お父さんまで「ケロ」と呼んでいたので、当然僕の家族からもケロちゃんと呼ばれることになった。
元気すぎる僕の家族にケロちゃんが圧倒されないか懸念したが、取り越し苦労だったようだ。姉貴とは懸賞の話で盛り上がっていた。
ケロちゃんは事件だけでなく、懸賞なども引きが強いのだ。
案の定、手土産は一度落としたが、ケーキを避けて源氏パイにしたのでセーフだった。


堅実な僕たち二人は、結婚の準備などの現実的なことを進めるのは割と得意でスムーズには進んでいったが、
引きの強さは相変わらずで、結婚式場の見学でもいろいろあったし、ドレス選びのときは、他のお嫁さんたち何人もに「このドレスどうかしら?」と感想を求められたらしい。
担当の人も「こんなにお客さまに声をかけられるお客さまは珍しい」と言われてしまった。

ダブルブッキング的な、いわゆるトラブルも何回かあったが、献身的な担当者さんのおかげもあって、無事に今日の結婚式を迎えることが出来たわけだ。



支度を済ませ、いよいよ新郎新婦入場。
扉が開いたとたんの歓声。

ご列席のみなさんから「おめでとう」「きれいねぇ」「おしあわせにね」との声がかかる。

ああ、僕はケロちゃんと一緒に祝福されている。嬉しいな。

と思い酔いしれていたが、みなさんの表情が???となっていることに気づいた。

ケロちゃんが小さな声で「やっちゃった」と言う。

ん? 今日はなにをやらかしたんだ?

高砂に二人座ったところで、司会者がケロちゃんから何かを聞き出し、司会席に戻っていった。

司会者が話し始めた。

「それでは只今より、ご両家の結婚披露宴を開宴させていただきます。
本日は、ご多忙の中、ご参会くださいまして誠にありがとうございます。
新郎新婦のご紹介の前に、新婦からお預かりしましたお詫びをお伝えさせていただきます」

ケロちゃんは、結婚式が始まったら緊張して何も食べられないだろうと考えて、新婦の控え室に軽食のつもりで大好物のケンタッキーフライドチキンを持ち込んでいたそうだ。
付き添いの人の目を盗んで、一つまた一つと口に入れ、結局ギリギリまでもぐもぐしていたらしい。
緊張していた僕は気づかなかったが、そういえば隣からケンタッキーの匂いがする。会場のザワザワの原因は匂いだったのか、と合点がいった。


理由を聞き、会場中は大爆笑。
僕たちのゲストには、こんなことで険しい顔をする人は誰もいない。


耳まで赤くなっているケロちゃんが可愛くて、僕は
「大丈夫だよ。場があたたまって結果オーライだよ」とささやいた。


ケセラセラ。
なるようになる。

先のことがわからないから、人生は楽しいのだ。
ケロちゃんと一緒なら、ずっと楽しいこと間違いなし。


ケンタッキーの匂いはすっかり薄れたけど、この気持ちは変わらず継続していくなと思った。


ケロちゃん
大好きだよ。

そういえば口に出して言ってなかったね。


【け】
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