コンパクトディスクたち(第1話)

メルカリでCDを売ってます
CDとわたしとの付き合いは、かれこれ30、、いやもっと?昔からになる

忘れっぽくなった記憶をたどろうと踠(もが)くと、ぼんやり浮かんでくるのは、日本の田舎の商業高校(とある商業高校略して、以後としょう)の32HR(さんじゅうにほーむるーむ=3年2組の呼び方)の教室の、黒板を向いて机に着座している自分と、その右隣に座っている石村くんである

石村くんは「クラスの男子の中」で成績が1番良かった
としょうの担任(担当教科は情報処理、部活の顧問はサッカー、名前は伊地知)は、中間テストの成績順で座席を決めるという暴君?オラオラ系?なところがあったため、トップ成績のちゆきちゃん(ちゆきどんとも呼ばれる)が最後列の中央に鎮座した。最後列は1席しかなく、その中央の1席が1位の席なのだが、ちゆきどんは1年間その席をキープし続けた。・・・気がする。

2位から7位までが後ろから2列目に黒板を向いて右から順に座って、後ろから3列目の左端から8位、9位、と座っていくのだが、8位が私、9位が石村くんだった。そう、情報処理科のトップから8位まで全員女子だった。男子はほとんど前に固まっており、女子がその中にポツンと座るのは非常に見栄えが悪かったりしたが、いぢっちゃん(伊地知)はお構いなしだった

前置きが長くなったが、石村くんがCDラジカセを持っているという話を、彼と同じ中学から来ていた億田(おくた=クラス2位ソフト部)たちがしているのが耳に入ってきた
当時、CDは高嶺の花。ミュージックテープも3000円とかするから無理。
当時の高校生が音楽を楽しむ方法は、西駅の近くまで自転車を飛ばし「レンタルレコード黎光堂(れいこうどう)」へ行き100円でLPレコードを借りてきて、兄の留守を見計らって、こっそりステレオからカセットデッキに赤白黄色のコードを繋いで録音し、兄の自転車のブレーキ音が、近所の高架線の脇の坂を降りながらキーキーキーキーなってるのが聞こえたら慌てて録音中止、やさしくLPをカサカサ袋に入れて紙ジャケをパクっとあけてソロっと入れて、赤白黄色の線を束ねてステレオの開戸に放り投げ、ステレオの蓋を閉めて、布を被せて、障子を隔てた縁側の自分の机にへばりつき何事もなく勉強してるそぶりをする・・・という苦労の末、ようやくカセットテープに大好きな音楽を保存できていたわけで、CDなんて?そんなものは夢のまた夢・・・

赤いマクセル(カセットテープ)46分のやつ、そちらをおそるおそる石村くんに渡し、レベッカを録音してもらえないか?声をかけた
快諾だった
石村くんとは会話をしたことが、この時しかないと思う。私は男子が苦手だった。正直男子だけじゃなく女子も苦手、そもそも他人が苦手なのは未だに変わらない
もっとも他人が得意だっていう人は、この世には存在しないのかもしれないが

あつかましい私はレベッカをいくつかダビング(録音)してもらうことができた。今思えば彼はその後、証券会社に就職が決まったわけで勉強で忙しかっただろうに、柔道もやって勉強もできて文武両道やん!すごっ!40年越しの感動!おっそ!

CDを入手したのはその1年後
田舎より1.5倍都会の県庁所在地にある公共交通機関会社に就職し、女子寮4人部屋の302号室が私の住処(すみか)になった
廊下からドアを開けて部屋の中を見渡すと、足元に段差(カマチ)があり室内ばきを脱いで上がる、板間はほんの幅500ミリ程度でその先は6畳の畳を囲むように木製の二段ベッドが左右二個ずつあった
もともとこの部屋に8人住んでいたようだ
会社は昭和40年代にかなりバズったらしく、女子寮は社員でパンパンだったらしい
私が入った年はピークを過ぎ、むしろ下火で倒産の危機がすぐそこまで迫っている頃だったことも知らず、、だった
4人で入居するので二段ベッドは独り占めすることができ、上の段は自然と物置になった
下の段を寝室にすると同時にカーテンを閉じれば1人の世界に引き篭もれる、そう思っていた

寮から徒歩3分のところにあったダイエーにて、初任給の中から6万円も払ってダブルCDラジカセを買った
さっそく枕元にセット、高校時代に録音した大切なカセットテープをかける。佐野元春、レベッカ、オフコース、大貫妙子、ビートルズ、シンディローパー、デュランデュラン、バービーボーイズ・・・ヘッドホンをして足元に畳んである毛布の上に足を投げ出して昼寝するのが最高の時間である

ちょうど寮に隣接していたのがレンタルビデオ屋と楽器屋とケンタッキーで、兼用の駐車場には女子寮に住む彼女の送り迎えのヤンキー車がたむろする中、エリーゼのためにのメロディのクラクションや、汽笛のようなクラクションでアピールするチャラ男たちと、女子寮から小走りに抜け出すミニスカボディコンの先輩、中には同僚もチラホラ

その人たちとは全く行動を共にすることなく、わたしはレンタルビデオ店でレンタルできそうなCDを物色するのが日課になっていった
初めて入手したのは、レンタル落ちのエンヤ、オリノコフロウだった
そして給料が出たからと、とうとう尊敬するミュージシャンのCDを購入するという、念願の「アーティストに貢献」することができたのが
佐野元春のアルバム「ナポレオンフィッシュと泳ぐ日」の購入だった

今日は2024年6月28日、昨年大量断捨離でCDを買い取りやに持っていった
米津玄師の初回盤も全部持っていった
スズメの涙の現金がもらえた

わたしは帯も大事にする派で、CDはキレイに保管する派
どこかに私のCDを必要としている人がいるはず・・・そして去年、悩みに悩んだ挙げ句、ようやくメルカリを始めたわけだが
なんでもっと早く始めなかったんだろう・・・
今楽しくてしょうがない。何といっても、誰かが私の好きな曲を聴いて喜んでくれてるのかと思うと、承認欲求が最高に満たされる
喜ばれるって嬉しいものですね

今朝はメルカリで、漫画を購入
CDを売って、漫画を買って
余生を、子供の頃に果たせなかった夢のままに生きていける幸せに
心から感謝しながら

今日も良い1日を!


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