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映画感想:『ブエノスアイレス』(1997)

ウォン・カーウァイ4Kリマスター特集で初めてブエノスアイレスを観てきた。
不勉強で今までタイトルくらいしか知らなかったんだけど、この機会に劇場の大スクリーンで鑑賞できて本当によかった…

⚠︎以下ストーリーのネタバレを含みます

たぶん今更あらすじ紹介も要らないくらい有名で、同性愛を扱った作品の金字塔的な立ち位置なんだろうと思うので割愛するけど とにかく主演のトニーレオンとレスリーチャンが素晴らしい… もう何ていうか映画に愛された貌。
開始5分でふたりの性格の違いを言葉ではなく挙動で見せる所とか、冒頭一旦別れてファイの日常を描く場面でのモノクロ場面とか(ウィンと再会したあたりからまたカラーが戻ってくる)。あとウィンってめちゃくちゃ自由気ままなファムファタール的立ち位置じゃん…って思っちゃった。
あれはファイも振り回されるし怒鳴っちゃうわ。そんで怒られたあとベッドで体を震わせながら泣くウィンがいいね。終盤でもう一度同じシーンをリピートしているかのようにウィンが泣くんだけど、そこで何かしらの変化や成長を比較して見せてる…ってことは全くなくて。あぁウィンは結局変われなくて堂々巡りでアルゼンチンから抜け出せない男なんだって感じた。

それに対してファイは終始能動的で前に進もうともがいている人だよね。
この映画は『ファイのお仕事日記』的な側面もあって、そのくらい彼はよく働く。しかも色んな職種で。
序盤の観光世話係(?)でのコート姿よかったな。スタンドカラーでちょっと気取ってて、でも道ばたに座ってサンドウィッチ齧ったりしてて。ウィンに施された高級時計を一旦は投げ捨てるんだけどすぐ拾ってポケットにしまう所、可愛い。
中華料理屋さんで働いてる時も「怪我したウィンにご飯作ってあげてるうちに料理に目覚めたのかな…」って微笑ましくなるし、そこでチャンとも出会うしね。
終盤は深夜の食肉加工工場でも働いて、結局ちゃんとお金を貯めて故郷に戻れることになる。その旅路の途中ではチャンの故郷台湾にも立ち寄り、しかも彼の実家の屋台で食事までしちゃう(さらに彼の写真まで盗む)。
仕事をする・ご飯を食べるって人間のパワーを端的に表していると思うので終始その2つをやり続けていたファイは本当に『動』の人だな。

ラストシーン、この作品の英題でもある『Happy Together』をバックにしたモノローグでファイが言った「会いたければ会える」、この一言に彼の人生が凝縮されてるように思う。すごくいい台詞だしファイは実際このあとチャンに再会するんだろうな。でも「会いたければ」の対象にはすでにウィンは入っていないんだろうかと考えるとどうしても切ない。
せめてパスポートは返してあげたらどうかね…?

以下好きなシーン▼
■深夜の台所で静かに楽しそうにタンゴを踊るファイとウィン(言わずもがな)
■再会後すぐ喧嘩しながら乗ったバスで、前後の席で意図せず同じポーズを取ってしまうふたり
■チャンに渡されたレコーダーを前にひとり涙するファイ
■相手の声によって好みかそうでないかを判断するチャン(ファイは電話好きって台詞)
■ファイとチャン、別れ際のハグ
■かつて暮らしたファイの部屋を借り、掃除をしながら戻らぬかつての恋人を待つウィン(つらい…)

最後に▼
映画を観たあと俳優たちのその後を何気なく検索し、レスリーチャンがもうこの世にいないことを知った。クィアアイコンとして華やかに人前に立った彼と、今の時代から簡単に窺い知ることはできない挫折や逆境の中にあった彼とを思い映画の余韻と相まってしばらくぼんやりしてしまった
トニーレオンは香港映画に疎い私でも知っているほどの活躍ぶりだし、チャン・チェンはあのまま渋くなってるね。DUNEにも出てるんだ!観たいな。


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