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映画感想:『花様年華(2000)』4Kレストア版

現在劇場公開中のウォン・カーウァイ4Kシリーズ4本目、ファーストデーに観てきました。

朱一色のバックとフォントが好き

※本作と『2046』のネタバレを含みます※

もしかしたら4本観た中で一番好きかもしれない。
時系列的には本作の続編が『2046』なんだけど、上映スケジュール順に鑑賞したので先に2046を観た状態での花様年華。
でもこの順番で観てよかったかも。トニーレオン演じるチャウに良い意味での若輩者感があって、まだ(危ういけど)貞操観念もある。そんな彼が2046でどうしてああなっちゃったのかという過去編が本作なので、あ〜〜そりゃあの軽薄な男になるかもという… 未来を知った上での鑑賞は時系列に沿ってストーリーを追うのとはまた違った面白さがあるよね。

本編の筋としてはわりと早い段階で主演2人の配偶者同士が不倫関係にあることがわかる演出になっていて、〈浮気された者同士〉の交流が描かれる。先に2046を観ている身としてはハイハイそれですぐこの2人も不倫しちゃうんでしょ?と思ってしまうんだけど、そう簡単にはいかないのが予想外で最後まで行く末が気になってしまう話運び。
ただ、そもそも不倫とは?とも考えてしまう。確かにこの2人はラストまで肉体関係は持たないのだけど、じゃあそれってチャウが言うように〈潔白〉なの?
その代わりではないけど中盤から終盤にかけて2人は頻繁に会って何度も何度も食事を共にし、チャウの執筆活動をチャンが手伝うシーンが繰り返される。ずっと硬い表情で本心がわかりづらかったチャンもそうやって過ごすうちによく笑うようになってくるし、こんな表情をする人だったんだと見惚れてしまうくらい可愛い。
良い悪いの基準は一旦置いて、私には肉体関係を持つよりずっと2人の間の繋がりが深く見えたなぁ。

ブエノスアイレスの感想にも書いたけど、文化的に香港映画は食事シーンが多いのかな。大事なシーンの多くが何か食べている場面だし、そうやって同じ時間を過ごすことで登場人物の関係性が濃いものになっていくよね。
今作の場合、お互い夫/妻が(浮気で)不在がちなので地下にある屋台に自分の食事を買いに行ってよくすれ違うようになる…ってシーンが印象的。あとこれも香港映画ならではなのか、とにかく雨のシーンが多いから2人がそうやってすれ違ったり雨宿り中偶然鉢合わせたりするたびに「ここで急接近するの?!」と何度も思わされるんだけど…

2人の心がお互いの方を向いているのは言葉はなくても伝わってくるのよ。チャンはチャウの前で泣く姿を見せるようになるし、〈練習〉と称した劇中劇でも次第にどうしようもなさのような感情の煮詰まりが見えてくる。
なんでシンガポール行きをめぐって2人はすれ違っちゃったんだろう?チャンはどうしても夫を捨てきれなかったのか、でも「連れて行って」ってモノローグがあったよね…(細かい機微を見落としてるかも)

最初に戻るけど、この別れを経たらチャウはああなるよね。2046でチャン・ツィーが演じたバイがとっても綺麗で深みのある女性だったので彼女でも駄目なの?と思ってたけど、駄目だったわ…。

最後にその他感想を箇条書きで。
▼今作は特に女性のファッションがどれも素敵で、場面ごとにチャンの服が変わるたびに楽しめた。今まで単にチャイナドレスとしか思っていなかったんだけど少し調べてみたら伝統的な旗袍(チーパオ)と呼ばれる型の服なのね。着こなすのが大変そう。
▼2046でも思ったけど香港映画の女優さんはどの方も泣く演技がすごく上手くてリアル。もはや演技でもなく観客側に本当に「泣いてる」と思わせるくらい身に迫ってくる… なんだろうあの上手さと凄みは。泣く場面で内心しょっちゅう拍手してた
▼相変わらずエンドロールのハイセンスさと簡潔ぶりがとても好き。一字一句追ってしまう。

ついにパンフレットを買ってきたのでゆっくり読んでみます。感想も少し変わるかもね。

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