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世界はおもっていたよりはあたたかい
起きてすぐ、あ今日無理だってなって、友達との旅行をドタキャンした。
すごく嫌なことがあった。昨日までかすり傷かと思って、今朝見てみた傷口からは、血が溢れでていた。
私は、コンタクトをつけず、暖かいベージュのコートを着て、ラルフローレンのグリーンのマフラーをして、もこもこのバケットハットをかぶって家を出た。
そしてコンビニで、スターバックスのカフェラテを買い、いつもの公園のいつもの左から二番目のベンチで池を眺めていた。
すると、おじさんとおばさんが隣のベンチにやってきた。
目が合ったので、おはようございます、と言うと、
「何飲んでるの?」
とおばさんに聞かれた。
「カフェラテです」
「カフェラテ好きなの?」
「そうですね、甘くて美味しいです」
そしておばさんはまたおじさんのところに戻って池を眺めはじめた。
しばらくすると3人目の別のおじさんがきて、
またしばらくして、4人目のおじさんがきた。
4人は、あの桜は何桜?とか、カワセミ今年はいないのかな?まだお休みしてるのかな?とか胃腸が悪い、あら大丈夫?とか、話していた。
4人目のおじさんはとにかくよく話した。
最近足が上がらくなったという話題では、そのおじぃさんがみんなに歩き方講座を開いていた。ここを意識したらいいとか、こういう風にするといいとか。会話の中心だった。
そしてそのおじさんは歩き方講座を終えると「ではまた会いましょう」といって去っていった。
「誰か知ってる人?」
おばさんが言った
「いや。」「俺も知らん。」
ふたりが首を振った。
うそやん。
それはうそやん。
その振る舞いは、イツメンしか許されないやつやん。
笑った。
知ってるか知らないか、そもそもそのことを4人目のおじさんがいなくなるまで誰も言わないのもいいなと思った。
おじさんたちのおかげで少し元気になった。
そして、おばさんが
「毎日来るの?」
と話しかけてきた。
私は、
「嫌な事があったときだけ来ます!」
と笑顔で答えた。
「嫌なことがあったのにそんなに笑顔なの~?笑」
「カフェラテが美味しいので笑」
笑ってるのは、しんどいのに泣けなかったからっていうのと、カフェラテが美味しかったからだった。
あー私は、200円のカフェラテで、嫌なことがあったようには見えないくらいちゃんと笑えるんだ、と思った。私は自分に少し安心した。
そしてまた、3人は、カモに話しかけたり、天気の話をしたりしていた。
そしてまたおばさんが、
「あなた花粉症?」と話しかけてきた
嫌なことがあった若い女に聞く質問それ?と思った。
あー私に嫌なことがあろうが世界は全く無影響なんだな、なんていう当たり前のことを思った。ありがたかった。
おばさんたちが私に一切関心がなく、気を使ってないことがすごくありがたかった。
おかげで私はそのベンチに満足いくまで居座ることができた。
あとそーいえば、土曜は雨だからデートはよしなさいねって言われた。
デートではないけど、チョコとお手紙、ちゃんと渡せたらいいな。
おばさんが言った。
「今日天気がいいし暖かいから、もっとみんなが来るかと思ったわ」
今日は天気がいいからみんないるかなとか、寒いからいないかな、とかそういうふうに会ってるんだ。約束とかなしに。
とても素敵だなと思った。
200円のカフェラテとおじさんたちのおかげで気がつくと心は来たときよりもずっと軽くなっていた。
帰り道、私は自分が少し汗ばんでいることに気がついた。
寒いかなと思って家を出たけど、世界は私が思っていたよりあたたかかった。
少し頑張れそうな気がした。
私はそのとき、これから好きな季節を聞かれたら、春の初め、と言おうときめた。
寒いかなって思って家を出たら、思ったよりもあったかくて少し嬉しくなる日があるから。
あ、それと、見えない世界について思うことがあった。
最近、裸眼で散歩することにハマっている。
全体的に境界線の曖昧な世界はとてもぼんやりとしていた。
私の目はコンビニでギリ買い物できないくらいには悪い。だから相手の顔や花や車の種類なんてまるで分からない。
朝歩いているときに、公園の掃除やお手入れをしているおじさんたちをみた。
でも目が悪くて顔までは見えなかった。
そのあと道路に出たとき、目が見えていなくて車に気がつかず引かれそうになった。
そのとき思った。見えなくなっているものは悪いものだけじゃないんだって。
見えない世界では、私たちが知るべきものも分からなくなるんだと。自分を守ることも難しいんだって。
だから、ちゃんとコンタクトはつけようとおもった。
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