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アイズ ワイド シャット

やっぱりキューブリックはおもしろい。

トム・クルーズとニコール・キッドマンがビルとアリスという夫婦の役で主演している。ふたりは、そこそこ裕福な生活をしているが富裕層というほどではない。金に困っていない、という程度。ビルは医者で、彼が主治医をつとめている富裕層のジーグラーのクリスマスパーティーに招かれる。
そこで、ビルはピアニストのニックに再会する。ニックは大学の同級生だったが、中退して、今はピアニストをやっている。
パーティーで出会った女たちが、ニックを誘惑する。「一緒に虹のふもとにいかない?」と誘われるが、ジーグラーに呼び出されて、ニックはその場を離れる。ジーグラーはマリオンという女と一緒にいた。マリオンはオーバードーズしていたが、ビルが手当てをして、一命をとりとめる。

ビルとアリスはあまりうまくいっていなくて、アリスはやや情緒不安定なところがある。寝室でヒステリックになるアリスを、ビルは冷静になだめる。
アリスは以前バカンスにいったときに見かけた海軍士官に欲望を感じた話をする。
そのあと、ビルはアリスが海軍士官とセックスする妄想に駆られる。このとき、アリスは画面の左側に頭がある。つまり、カメラはアリスの右肩を手前にして撮影している。

後日、ピアニストのニックが演奏している店を訪れたビルは、奇妙なパーティーのことを聞く。興味を持ったニックは潜り込もうとするが、そこではみんな仮装しているから、その恰好では入れないといわれる。
ビルは衣装を借りにいく。その店の名前は「レインボー」だった。これはパーティーで女たちが誘った時の言葉とリンクする。オズの魔法使いのオーバー・ザ・レインボーを想起させる言葉遊びだ。
店に入ると、奥で物音がする。男がふたりいて、店主の娘とセックスしようとしていた。店主は激怒し、警察に突き出してやるとわめく。逃げてきた娘は、ビルに「王様の衣装にするといいわ」とささやく。この言葉がどこにリンクするのかはわからなかった。

パーティーに潜入すると、みんな仮装をしている。そこは欲望のかぎりをつくす場所だったのだ。ビルは、仮面をつけた女に「ここを離れなさい」と警告されるが、奥深く入り込んでしまう。やがて、主人らしき人物の前に連れていかれて「パスワードを言え」と言われるが、ビルはそれを知らない。マスクを外すように言われて、命の危険を感じたとき、先ほどの女が身代わりになると名乗り出る。
ビルは、ここでのことは誰にも言わないようにと警告されて、解放される。
家に帰ると、アリスが眠りながらひきつった笑い声を出している。このとき、アリスはベッドの右側に寝ている。ビルが起こすと、ひどい夢を見たのだと、取り乱す。

後日、ビルがニックを捜しにいくと、ニックが青あざをつくってホテルをチェックアウトしたことがわかる。
衣装を返しにいくと、仮面がないといわれる。そこに店主の娘があらわれる。娘のあとから、ふたりの男が出てくる。この前の夜に、娘とセックスしようとして、店主を激怒させた男たちだ。店主は男たちを愛想よく送り出す。不審がるビルに店主は「事情が変わったんだ」と答える。
パーティーの夜を境に、世界が逆転していく。
ニックは誰かにつけられ、おびえる。
アリスと海軍士官がセックスする妄想は続いているが、今度は右肩を手前にしたショットではなく、左肩を手前にしたショットに代わっている。これは世界が反転したことを示している。

マリオンがホテルでオーバードーズしたことを知り、病院にいくが、彼女はすでに死んでいた。

ジーグラーに呼ばれて家にいく。そこでジーグラーはビルに、パーティーの夜、自分もその場にいたことや、ビルを助けたのは、マリオンだと教える。
家に帰ると、アリスが寝ている。ただし、今度はベッドの左側に寝ていて、右側にはビルが無くした仮面が置いてある。
ビルは泣き崩れる。そして、アリスが目覚める。ビルは泣きながら、すべてを話すと打ち明ける。
ビルが泣きながら話をするのを、アリスは冷静に聞いている。これは、物語の序盤で、ヒステリックになっていたアリスに対して、冷静に対応していたビル、という構図が逆転している。

その後、家族でクリスマスの買い物にいくところで映画は終わる。

ジーグラーがなぜビルに真相を打ち明けたのか、そのあたりを深堀してほしかった。ただ、映画の構造としては非常にうまくできている。行きて帰りし物語の構造ではある。この物語で英雄の役割を担うのはビルだ。彼は謎のパーティーに潜入することで、虹の向こう側にある世界をのぞく。アリスに対する不信感が根底にあり、それを解消するために、なにかを求めていたのだ。そこは富裕層の世界で、ビルのような人間が見てはいけない場所だった。そこから生きて帰ったビルは真実を知り、家族のもとに戻る。うまくいっていなかった妻は、ビルを許し、受け入れる。
中盤のパーティーに関しては似たような事件の判決が先日下ったばかりなので、リアルに感じることができた。
世界はいくつもの層でできていて、見てはいけないものもある。それぞれの層にはそれぞれの世界があって、自由に行き来することはできないのだ。本作は一種のハッピーエンドになっているが、オルフェウスの物語のように、バッドエンドになる場合もある。

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