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ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q

「Q」が、序破急の急だとすると、急は物語が急展開する部分になる。そういう意味では正しいが、起承転結でも良いのではないか、とも思う。ただ、その場合、四本目が「結」となり、物語がその後も展開していくという「シン・エヴァ」の構成にそぐわない。そう考えると、ここは「急」つまり「Q」が最適解になるのか。

本作では今まで断片的なヒントが与えられていただけだった「父親の世界」つまりゲンドウの目的が明らかになる。物語の構造として、的確な判断だと思う。

「破」の最後でシンジがおこしたサードインパクトは「ニアサードインパクト」と呼ばれていて、どうやら中断されたらしい。
推測だが、サードインパクトをおこすためには、シトが必要で、シトとエヴァの間でなんらかのケミストリーがおこることによって、サードインパクトが発生するのではないか。

シトが第3新東京市にだけ訪れるのは、どうやらリリスを奪いにくるらしい。ゲンドウはそれを知っていた。つまりゲンドウがシトを呼んでいたのだ。ということだと思う。「破」の最初でマリが阻止した「マルドゥック計画」は第三新東京市ではないところが舞台だった。あの計画でも、シトは呼び寄せられていたのだろうか。ゼーレがなんらかの目的で呼んだということなのだろうか。

シトはゼーレが生み出した生命体で、ゲンドウはシトとエヴァを接触させてサードインパクトを起こさせるためにシトと戦っていたということだと思う。カヲルが「序」で「また三番目とは」と言っていたのは、シンジのことでもあるし、サードインパクトのことも言っていたのだろう。考えてみれば第二新東京市がなくて、第三新東京市という名称も、サードである。

ニアサードインパクトから14年経っていて、宇宙空間に保管されていた初号機をアスカたちが回収する。アスカたちは「ヴィレ」という団体になっていて、ネルフとは敵対関係のようだ。なぜ袂を分かったのかは語られない。カジさんがいないところをみると、ゲンドウの計画を知ったカジがミサトにそれを伝え、自分はポアされ、ミサトはその計画を阻止するためにネルフと戦うようになったということだろうか。

シンジはヴィレのもとで目を覚ます。28歳になるはずだが、エヴァの呪いで14歳のままである。宇宙空間で14年間眠っていた割には、意識もはっきりしていると、滑舌も良い、足腰も丈夫でふらついたりしない。これもエヴァの呪いなのだろうか。

浦島太郎状態のシンジは、アヤナミに助けられて、ネルフに戻る。そして、ゲンドウに「エヴァに乗れ」と言われる。つまり、「フォースインパクトを起こせ」ということなのだろう。
ネルフにはカヲルがいる。カヲルは他のエヴァパイロットと違って、シンジのすべてを受け入れるし、すべてを許す。シンジは元気になっていく。

シンジはこの世界がどうなっているのか知りたくて、カヲルに見せてもらう。それはもうめちゃくちゃな世界だった。シンジは、自責の念に駆られる。しかし、アヤナミと再会して、「綾波を助けたんだけらいいじゃないか」と自らを納得させる。しかし、アヤナミは「そんなことは知らない」という。それによって、シンジは単に世界を崩壊させそうになっただけで、誰も助けていないのだということを知り、自我が崩壊しそうになる。

冬月が、シンジにユイの写真を見せて、母親の名前が「綾波ユイ」であったことが明かされる。そして綾波レイがユイのコピーであることが知らされる。シンジが去ったあとで冬月が「嫌な役回りだ」とつぶやくところから、これもゲンドウの指示だったことがわかる。ゲンドウはシンジに真実を知らせることで、絶望に陥れることを目論んだのだろう。

カヲルから、リリスに刺さっている二本の槍を使えば世界を修復できるといわれて、槍をとりにいく。
このときの役割の逆転が衝撃的だった。
世界を救うために、シンジと一緒にリリスのところにいったカヲルは、リリスに刺さっている槍が二本とも同じであることに気づく。嫌な予感がする、といって考え込むカヲル。聡明な彼は、やがて、これがゲンドウの罠であることに気づく。第1のシトである自分が、実は13番めのシトにさせられていたということにも気づく。彼がシトであるということは、カヲルはゼーレが生んだ存在であったということだ。第1のシト、すなわちカヲルはセカンドインパクトをおこした存在だそうだ。だとすれば、フォースインパクトを起こすのに、またとないトリガーということになる。
世界を救うために槍を取りにいったカヲルが、実は世界を滅ぼす役割を担っていたという逆転がここで起こる。これはすばらしい発想だ。

シンジはカヲルの制止を聞かずに槍をとりにいく。間近にシトがいることで、制御が効かなくなっていたということだろう。彼はサードインパクトを発動させて世界を滅ぼそうとしてしまった。だから槍を取って、今度こそは世界を救うのだという思いに取り憑かれていた。
どうやら、フォースインパクトをおこすためには、シンジとシトの接触以外に、アダムスの器としてレイの存在が必要なようだ。おそらく、これはフォースインパクトを起こすことで、人類補完計画が完成し、器である綾波レイがその影響を受けて、人類が綾波ユイ一人になるということなのだろう。すべての人類が綾波ユイひとりになることで、ひとりの完璧な人間が誕生する。ゲンドウにとって、ユイは完璧な女性であり、その復活が人類補完計画なのだ。

結果として、フォースインパクトは阻止されるが、世界はさらにめちゃくちゃになる。アスカがシンジを助け、近くにいた綾波レイのコピーもつれて旅立つ。「このあたりにはリリンは来られない」という。リリンというのは人間のことのようだ。なぜリリンと呼ぶのか。エヴァの呪いというのは、年齢を止めるのではなく、パイロットを人間ではない存在にしてしまうのだろう。その結果として、成長も止まる。彼らはもはや人間ではないのだ。

「破」の最後で、サードインパクトを起こしかけたシンジが乗ったエヴァを槍で串刺しにしたカヲルが「シンジくん、きみだけは助ける」と言ったのは、シンジがサードインパクトを起こすために呼ばれた人間であることを知っていて、その罪を負わせないために彼を串刺しにしたということだろう。
ゼーレが人類補完計画を阻止するつもりだったなら、シトであるカヲルがサードインパクトを阻止するのは筋が通っているが、なぜ、シンジにそれほどまでに同情するのか。想像するに、彼はゼーレのシトではあるが、やはり原型はユイなのではないか。だからゲンドウのことを「お父さん」と呼んでいたのではないか。そして、だから、「Q」でネルフにいたのではないか、ということだ。ゼーレは六号機を建造し、そのエヴァをネルフに渡した、そのときにパイロットとしてカヲルも同行した。ゲンドウは彼が第一のシトであることを知っていて、受け入れた。やがてシンジが戻ってくることを想定していたのだろう。
ここであらたな疑問が生まれる。冬月が言っていた「ゲンドウは自分の魂も犠牲にした」という言葉の意味はなんだろう。

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