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NAOT BOOK 1 『地球に靴で乗る』(ループ舎)

 Naotは靴のメーカー。これは靴の販売用の冊子なのだが、エッセイが面白かったので少し引いてみたい。

能町みね子〈知った瞬間にすべてが「こちら側」に来ちゃいました。理想郷も調べた瞬間に既知のもの。現実~。(…)知っていることと知らないことの境目なんて、自分が頭で決めているだけ。(…)自分の中の境目を毎回ぐじゃぐじゃにしたい。〉子供時代の、回りが未知だらけの世界に戻るには…という話。大人になって未知のものがどんどん減って、自分の世界が面白くなくなっていく。著者が今回見つけた、境目をなくす方法は「歩くこと」。

穂村弘〈皮膚とは自分と世界との境界だと思う。(…)「ものごとの境界」に関して、皮膚の次に思い浮かべたものは靴である。こちらは自分と地面との境界だ。家を出てから帰ってくるまでの間、原則的には靴の底だけが地面に触れ続けている。〉言われてみればその通りだ。靴だけは良いものを買う、それは「靴は自らの生命と密接に関わっているということだ」という一節にも肯いた。

広瀬裕子〈人生を見直したり、ふり返ったり、再スタートするために。自分がつくり出したせまい世界や、外からつくられた壁のようなルールからぬけだすために。世界中からこの地を目ざして来る人に出会うことで、自分のすべてだと思いがちな世界がすべてではないことを知るために。またその逆もある。世界の中心は自分でしかないということを確認するために。/世界と自分との境界線は常に曖昧で、自らの意志や見方でどうにでも線を引くことができる。ときにその線も引き直せる。その感覚を身体に落としこむには、日常から離れた時間とシンプルな行為が必要だ。〉巡礼、特にサンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼について。

高橋久美子〈教会に行くのもサンダルとかで行けないじゃないですか。肌を出さないっていうのがあるからね。〉浅生鴨〈ネパールの寺院は靴を脱がなきゃいけないからね。裸足で入らなきゃいけないから。〉高橋〈全部脱いでしまえばそれは別次元になりますね。〉浅生〈歌舞伎の舞台も靴を脱いで上がらなきゃいけない。靴って日常的に使う道具でもあるんだけど、文化的な場所とか歴史的な場所とか、人の思いがこもった場所に行くときは、私は今こういう考えを持っていますって意思表示をする記号でもあるので。〉

ループ舎 2021.4. 800円+税