3分の白昼夢/忘れないでとは言わない
「一日も早く忘れてくれ」
父の遺言にそう書いてあった。
「私のことを忘れろ」と、
「覚えていられるのが苦痛」とさえ書いてあった。
父がどんな思いでそれを遺したか。
母は分かっているようだった。
人は先立たれる相手に対して負い目を感じるものだ。
そこに特別な何かがなかったとしても。
もっと、話しておけばよかった。もっと、理解しておけばよかった。
もっと、もっと。
人間の欲は果てしない。
父には、その後悔ともいうべき「無償の傷」を、誰にも残して欲しくないという願望があった。
なんて勝手で横暴な望みなのだろう。
哀しむ余地を与えないなんて。
私はそう思った
しかし、母はそれは違うと言った。
後悔よりも憎しみの力の方が、早く心の傷を癒すのだと。
父は憎まれる選択を取ることで、私たちに相反する強烈な楔を打ち、
哀しみから解放したかったのだ。
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