十一/レージフリーク

「コレクションもぼくたちにとっては祭りみたいなもんだし、遊びを突っ込みたいな」
 ライブ映像を早送りした麗次は、今までの演出を細かく振り返りながらこぼした。その隣ではギターを抱えたリュウが溜め息をつく。
「少し休まないか。朝からぶっ通しだ」
 彼らは麗次の部屋で、国内最大級のコレクションに向けて打ち合わせをしていた。インディーズバンドが呼ばれるというのはそれだけで注目を集める。その期待に応えるべく、知恵を絞った。
「そうだね。コーヒーでも飲む?」
 麗次は床に散乱したコード表を跨ぎ、キッチンへ消えて行った。
 リュウが止めなければ、彼は際限なくのめり込む。噴き出す才能と寄り添うにはそれ相応の精神力が要求される。
 ギターを膝から下ろし、棚の前に積み重なった女性誌に目をやると、その一冊を手にした。
「なんでこんな雑誌があるんだ。おまえが読むのか」
「違うよ」苦笑した声が返る。
「このまえ宣伝用の取材があっただろ。雑誌社がさ、わざわざ送ってきてくれんだ」
 ページを捲る手が止まった。リュウは付箋の付いた見開きの写真を見つめ、乾いた声で言った。
「三条響か」
 そこには高椅子に腰掛けた二人が写っていた。バイオリンを奏でる麗次と、背中を寄せ、耳を傾ける響。まるでその音が二人を祝福しているような、神秘的な静けさが漂っていた。
「バイオリンを弾いたのか……」
 麗次の写真に指先を這わせ、眉間を微かに顰めた。
「うん」
 彼の手も止まった。首筋の痣が消えるまで、毎日それを見つめた。その度に複雑な感情が湧いた。どうしてあの場でバイオリンを選択したのかも分からない。ただ、響に対して、何かを誇示したかっただけなのかもしれない。

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2,204字
オリジナルBL小説です。全30章。完結済み。 18禁につき、ちょっと過激な描写もあります。

天才ボーカリスト高階麗次の愁いに魅かれたモデルの響。 しかし、初対面でいきなり敵意を向けられてしまう。 彼は繊細な外見とは裏腹に予想外の「…

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