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選択の先にあるもの

 人生は、選択の連続だ。A or B or Cと色々な道があって、選んだ先もまた、人生の終わりまで枝分かれを続けていく。先の見えない道を手探りで進まなければならない。子供の頃見た「川口探検隊」のごとく、名もなきジャングルを進むのだ。といっても、毎回悩みに悩んで道を決めるばかりじゃない。直感だったり、ただなんとなくこちらに流されちゃったなんて言う場合もある。わたしの、あの時の選択は、悩みに悩んでした選択ではなく、どちらかといえば、後者の類いだった。

 わたしの夫は、ドイツ人だ。そう言うと決まって聞かれるのが、「どうやって出会ったの?」だ。夫とわたしは、よくある社内恋愛だった。人種が違っただけで。夫は、社内の大掛かりなプロジェクトのため、スイスの本社から統括責任者として期間限定で出向してきていた。会社には食堂があり、部署により時間差でそこを利用するのだが、たまたま夫の部署と、ご飯の時間が同じだった。一緒に昼食を食べていた先輩が「あの外国人、ホテルに住んでるんだって、土日は暇らしいよ」と言っていた。ちなみに言うと夫は大男だ。背が183cmで体重は100キロ近くある。足が細長く、腹周りが太っている。足の長いハンプティダンプティのようだ。顔は不細工ではないが、イケメンでは決してない。夢の国にいる黄色いクマにそっくりである。話を戻そう。先輩の話を聞いて顔を見た。カナダ人かアメリカ人かなと思った。わたしは、その数年前に、ワーキングホリデーを利用してカナダに1年間ほどいた。しかし、地元の田舎町に帰ってからは、英語を話す機会がなかった。英語を話したいと思っていたが、英会話スクールは高い。土日暇なら一緒に遊びに行って、タダで英語がブラッシュアップできるではないか。いひひ。という、ゲスい考えで、先輩と繋がりのある夫の部署の人に遊びの約束を取り付けてもらった。

 最初は、お昼ご飯でもということで出かけた。カナダ人かアメリカ人だと思っていたのに、ドイツ人であった。でも、英語は完璧に話せていたので、当初のゲスい目的は達成された。話してみると面白く、話が尽きなかった。次の週末も遊ぶ約束をした。そしてあれよあれよと言う間に恋人になり、プロポーズされて、結婚後ドイツに渡った。

 後でわかった面白い話がある。あの頃通信手段と言えば、電話かメール。スマホはなくガラゲーの時代。電話番号と共に渡した、わたしのアドレスは「hollywoodmylove」。hollywoodは、その時趣味でやっていた乗馬のクラブにいた、お気に入りの馬の名前で、後ろはお気に入りのアメリカドラマ、アリーマイラブからきていた。お気に入り2つを合わせて設定していただけに過ぎなかったが、夫は「彼女はわたしを好きかもしれない」と思ったそうだ。ラブの文字だけで、そんな勘違いをする輩がいるのか?と思ったが、いた。

 ゲスい目的で遊びに行こうと約束を取り付けてもらった「選択」が、わたしをとんでもないところまで流してしまった。人生には、大きなターニングポイントになる選択が何回かある。その大事なターニングポイントを、英語がタダで話せるという、ゲスい目的で選んだわたし。結果よければ全てよしと思って生きているので、失敗ではなかったことに安堵する。かといって、夫が完璧な男であるかと言えば、そんなことはない。日本人同士の結婚と同レベルの戦いはあるが、それはまた別のお話だ。

 そんなわけで、ドイツに渡ったあとも、なんだかんだの選択があり、今は東京にいる。若い頃、東京にもドイツにも全く興味なく、わたしはこのまま田舎町で結婚して、普通に暮らしていくんだろうなぁと思っていた。それでよかった。けれど今、その予想から大幅に違った生活をしている。人生は、何が起こるかわからない。生きていれば、必ず面白いことにも出会えるので、なるべく生きよう。さあ、今日も、先の見えない道を、勇気を出して手探りで行こう!



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