【読書感想】「暗いところで待ち合わせ」 乙一
交通事故に遭って、時間が経ってから、徐々に全盲になってしまった若い女性ミチル。
全盲って、そうでない人間にはどうしても、なかなか想像がつかない。
クリスマスが近い季節、ミチルの住む近くの駅で、松永という男が死んだ電車の事件があり、不審な人物を見かけなかったかとミチルに尋ねた警察官も、ミチルが目が見えないとわかっても、「困ったことや何かあったら、こちらに」、と交番の電話番号のメモを渡す。
つい、そんなものだと思う。
交通事故の怖さも思う‥
父親と二人暮らしだったミチルだが、目が見えなくなった娘と点字を勉強していた父親は、脳疾患で突然死してしまい、学校での地味で嫌ないじめの緊張感などにも疲れていたミチルは一人、引きこもって暮らすようになる。
ミチルが目が見えないことを知っていて、ミチルの家に侵入した、松永殺害容疑のアキヒロ。
松永は、アキヒロの上司だった。
職場で我が物顔で幅をきかせて、コイツは大丈夫と目をつけた人間をいびる松永。
アキヒロの後輩で、場に馴染むのが上手い新人が、松永とつるんでアキヒロに理不尽に仕事を押し付けたり、平気でナメているのがわかるようになる。
松永被害の会があったら、そこそこ集まる人間もいそうだけど、こんなの平気で成り立ってる職場多いと思う‥
松永は、「普通の社会人」として、分類されるだろう。
誰か、さらに上の人間に話してみるか、職場を辞めるか‥
なんでこっちが辞めなきゃならないんだっていう怒り悔しさは強いけど、上に相談したりしても駄目なら、自分を守るためにそうするしかない…
恨み、殺意はほんとわかる。
実行するような、明智光秀みたいな人間は滅多にないだろうけど。
本能寺の変は、本当によっぽどだったんだろうな‥と思う。
松永に対し、こんな奴、のうのうとさせておいてたまるか!は全く同感だけど、でも、ホームに突き落として電車に轢かせるっていうのは、全くまずい。。
まず、電車の運転手さんが可哀想で気の毒過ぎる。心の深い傷となって、この先どれだけフラッシュバックすることか‥
後始末の作業をしなければならない人たちも同様‥
電車が止まるって、本当に大変な迷惑、とんでもない損害
それに、これは捕まらんわけないやん、、自分の人生を棒に振って、家族とか犠牲にして大きく及ぶ‥
松永のような、場の多勢の人間に溶け込んでうまくやって、ポジション取って、自分はコミュ力がある、人と社会とうまくやれていると思い込んで、見下した相手を攻撃して、面白がったり、ただ自分の誇示、利益を大きくするために、「侵略」を広げる人間‥
いじめ、汚職、癒着、戦争‥ これはもう、悪性腫瘍のようなもの。
癌は、結核菌などと違って、外部からの脅威じゃなく、元々自分の体の細胞だったものが、変化したもの。
悪性腫瘍の中でも、最もタチが悪いのは、びまん性に組織に浸潤して、切除不可能なものだそう。いい人とも強い人脈を持つので、切るに切れないような感じか。
癌は、体、いのち全体が健康に機能するためじゃなく、自身だけがどんどん周りを吸い上げて無秩序に増殖、肥大するようになる。
その果てに待っているのは、宿主の死、そして癌も死ぬ。
どんな凶悪犯罪者も、生まれつきそうだったわけじゃなく、みんな等しく赤ちゃん。
全てが悪いわけじゃなく、人間なんだから、いいところは必ずある。でも、それで免罪されるわけじゃない。
ミチルとアキヒロは、こんな心の通わせ方をできる人は滅多にいないだろうという、びっくりな展開になる。
ミチルに自分の存在を悟られないために、寒い中を物音立てず、できるだけ動かないアキヒロ。排泄も食事も、ミチルが二階に上がって眠るまで我慢して(すごい!できるか?軍隊や監獄みたい)、寒さの中、布団も暖房も使わず、彼女が起きて下に降りる前に起きて、気付かれないように身体を小さい姿勢にして、できるだけ身動きしない。
ミチルもまた、アキヒロの必死の努力も虚しくというか、家の中に誰かがいる、ということに気付くが、それを相手に悟られると、襲いかかってくる危険の可能性を考え、気付かないふりをしながら、黙って内心、色々な考えを巡らせている。怖いだろうな‥
存在に気づいてないふりをしていた、不法侵入の男に思わず出た小さな第一声が、「ありがとう」ってすごい‥
二人とも、とても頭がいいと思った。
忍耐強く、慎重、繊細で真面目で、人に対する気遣い、配慮があって、優しく内向的で物静かなタイプ。松永のような人間に目をつけられやすいタイプ、、
松永殺害事件の結末もびっくりな展開で、アキヒロはこれから、ミチルの手を取って、目となって支えていく場面があるのかな、と思った。
でも、めでたしめでたしじゃなく、松永のような人間にはカモ、サンドバッグにされやすいことは変わらない‥
悪性腫瘍化する人間を少しでも増やさないため、ミチルやアキヒロのような人たちが守られるため、私は文章を書いていきたいな。
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