思考はマンガに作られる
ちょっと大げさな言い方だけど、割とこれは本気で思う。
小説との違いは、絵があること。これがとっても、大きい。なにしろ小説では文章から全ての情景を想像するという作業が必要なんだが、マンガはその初期的なビジュアル化をすでにやってくれているからだ。
これが今度アニメになるというと、想像していた声・音・動きという要素が絡んでくるが、それはまた別の話。
マンガは視覚的に考えなくていいから、随分と楽に頭に入ってくる。
楽に入れるから、どんどん読めちゃう。
読み進めば読み進むほど、その世界観に没頭しやすいし、どっぷり浸かるスピードも早い気がする。
私の思考を作るもの、と考えるとこの5作品だろうか。
1. ブラックジャック
最早なんの説明も不要であろう、あの名作である。BJは世界一有名な天才無免許医だ。無免許医で天才がつくのも稀有だろうが、この存在なくして私の義務教育は終わらなかっただろうと断言する。天才外科医で破格の治療費を取れる相手からはふんだくるが、富むもの貧しきものを隔てなく平等に患者として扱う姿勢が、どう考えても最高にかっこいい。
ピノコは可愛いしBJはキレキレ、ヒョウタンツギだって愛らしい。学校の道徳で扱うべきだと心底から思う。BJは懇切丁寧に手取り足取り患者に寄り添うような、親切な先生ではない。それは読者に対しても変わらない。でも、命を教えてくれる。
誰もが学ぶべき、命を教えてくれるのだ。
ああだめだ、また読みたくなってきた……
2. 動物のお医者さん
医者が続くが、決して医者が好きなわけではない。動物のお医者さんはこのGW中に初めて読んでいる方も多いのだろうが、これも名作である。一家に一セット全世帯が所持すべきと思う。主人公のハムテルのトボけた味のあるキャラクターは魅力だし、周りの人たちもなかなかが良い味を持っていて素晴らしい。
チョビ(ハスキー犬)の怖い顔と愛らしさのミスマッチにやられた読者はめちゃくちゃ多いだろう。私もその一人だ。いまだにハスキーを見ると勝手にチョビと呼ぶ。ちなみに昔働いていたイタリア人の会社でハスキーを三頭飼っていたのだが、そのうちの一頭がシーザーそっくりだった。
勝手にシーザーと呼んでいたのだが、ある日デスクに仕舞っていたお昼ご飯を食べられるという事件が起きたことがある。
「俺はやるぜ」のシーザーだから、仕方ない。
読んでいない人がいたら、読んだ方がいい。多分、読まないといくらか人生損をしている気がする。
読んでいない人にはなんのこっちゃわからないかもしれないが、私は一生物書きとして「しるこ爆弾」を超えるなにかを追い求めるのだと思う。
3. ムーミン
なんでマンガの中にこれがあるのか。いや、そう。ムーミンはイギリスの新聞で連載されてたマンガの時代があるのだ。
別にこれが腹を抱えて笑うような類の面白さではないのだが、トボけた感じで結構これが激しい内容だったりするから面白いのである。
例えば、ムーミンのパパには放浪癖というか冒険に出たくなる病気があり、(変な病気だが)度々家族を困らせるのだが、ものすごいのはママもおかしいのである。基本的にムーミンのママは、「パパ優先」「家具優先」なので、パパが男はイカダに乗って冒険に行くのだ、と言えばムーミンも何もかも放っぽり出して、ついて行ってしまう。
さらに、マンガの中ではムーミン一家が警察に捕まるという私のお気に入りエピソードもある。警察に捕まった後どうなるのか、彼らはなんと動物園に送還されてしまう。
ムーミンで動物園。
こうくると、毎度再燃する「ムーミンはカバなのか」という疑問が当然浮かぶと思うのだが、多分当時からその議論はあったのだろう。
ムーミン一家はカバとして動物園の檻に入れられるのだ。
そこでムーミンパパが放つ魂の叫びが「我々はカバではない!!」である。
実に味わい深く面白いので、是非とも自粛期間の暇つぶしにでもオススメしたい。
4. 雨柳堂夢咄
ご存知、波津彬子先生の美しい表紙がいつでも目を引くシリーズである。最初に出会ったのが一体どこだったのか思い出せないのだが、それもまた雨柳堂の少し怪しい香りを嗅いでしまったからだろうか。
雨柳堂は骨董屋なのだが、訳ありのものたちが織りなす美しくも人間の情と、浅ましさと、哀しみと、優しさがにじみ出る物語である。
何より読後感がいつも素晴らしい。
先生の表紙絵は特に色合いが美しくて本当に繊細なのだが、面白いのは本編の白黒で書かれているはずの絵にも色がついているように感じられることだ。
染み入るような香りが残る、物語である。
5. 笑ゥせぇるすまん
どーん!!! である。実は「笑ゥせぇるすまん」と「魔太郎がくる!!」とで悩んだ。悩んだのだが、結果的に喪黒氏を選ばせていただいた。このマンガに出会ったのは、多分遠い親戚の子のお兄ちゃんの部屋だったように思う。
その子のお兄ちゃんの部屋、というのは確か立ち入り禁止だったように記憶しているのだが、ダメだと言われれば行ってみたくなるのが人の常であろう。同い年のはとこだかと結託して、忍び入って勝手に読んだのがこのマンガだった。
どーん! である。恐らく初めて「不条理」を目の当たりにした作品なのだと思う。必ずしも救われるわけではない、そして必ずしも正義とは美しいものではない。
複雑な気持ちで読んだ「どーん!」が、実は今でも心に引っかかりを作っている。今思えば、小さな冒険の先で、とんでもなく大きなテーマに出会っていたのだ。
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